第36話 他の怪盗とタッグを組もう!

「おかえりなさい。ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも……わ・た・し?」


 帰宅すると、いきなり三つ指をついたフォトに出迎えられた。

 まるで新妻である。


「というか君、お風呂を沸かしたり、ご飯を作ったりできるの?」


「できません。こんな小さな体では無理です」


「じゃあ、なんでそんなこと言ったの!?」


「新妻気分を味わってみたかったのです。マスター、何もできない私ですが、最後の選択が残っていますよ。さあ、私を存分に味わってください! 好きにしてもいいですよ」


「そう言われても、人形相手じゃ何もできないよ」


「そうですか。マスターなら人形相手に欲情できる変態さんだと期待したのですが」


「勝手にマスターを変態認定しないでくれる?」


 そうしてフォトは立ちあがって僕の懐へ飛び込んでくる。

 心なしか機嫌が悪そうだ。


「マスター。実は私、怒っているのです! あなたはまたを強めましたね? 前回はせっかくAランクに成功したというのに、全くマスターの事が話題になっていません!」


「ああ、それか。当たり前だろ。鬼畜怪盗なんてごめんだからね」


 悪いけど、前回のは意図的にステルスを最大限まで強めさせてもらった。


 あんな記憶は皆から削除してもらった方がいい。

 黒歴史をいつまでも残すほど僕は愚かではない。


の件をお忘れですか? あなたは一刻も早く人気を取らねば命は無いのですよ!」


「はっ!? そうだった!」


 姫咲さんの件でうやむやとなってすっかり忘れていた。

 僕は大ピンチだったんだ。


 このまま人気を取らなければ役立たず怪盗として、粛清されてしまうかもしれないんだ。


「まあいいです。天才のフォトちゃんは、すでに解決策を思いついているのです」


 フォトには案があるらしい。

 僕のコミュ障を克服する方法。

 あるいは一気に有名になる方法だろうか。


「その方法とはズバリ……です。人気怪盗と組めれば、自然とマスターも目立つはずです」


 タッグ……つまりはペアで仕事をやるという事だ。

 現パートナーであるフォトとは別に正真正銘、人間の相棒を見つけ出す作戦である。


 実は怪盗の任務に人数の制限はない。

 専用のチームを組んで仕事をしている怪盗も多い。


「いや、コミュ障の僕にタッグなんて不可能だよ。仲良くやれる自信が無い」


「そこは私に任せてください! この可愛いフォトちゃんがうまく仲を取り持ちましょう」


 毒舌でポンコツである彼女にそんな高等技術ができるのだろうか。


 むしろ喧嘩になるんじゃなかろうか。

 いや、でも詐欺の天才であるフォトだし、案外うまくやるのかもしれない。


「こら、聞こえましたよ! 誰が詐欺の天才ですか!」


 あ、しまった。心を読まれてしまった。

 この子、隙あらば無断でマスターの心を読みやがる。


「でもさ、フォト。どうやって他の怪盗とコンタクトをとるのさ」


「ふふふ。マスター、明日が何の日か知っていますか?」


「明日? なんか特別な日だっけ?」


「明日はの発表日です! そこには全ての怪盗が集まるのです」


 この怪盗指定都市では月に一度、どの怪盗が人気なのかランキングが更新されて発表される。


 怪盗は『怪盗本部』でその情報をいち早く入手できるのだが、それが明日というわけだ。


「本部で出会った怪盗にタッグを組んでもらえるようにお願いしましょう!」


「僕みたいなコミュ障とタッグを組んでくれる怪盗なんているかな?」


「ふっ。大丈夫ですよ。フォト先生の交渉術を信用してください」


 フォトの方は自信があるようだが、本当にうまくいくのだろうか。


 まあ、他に策も無いのだし、その作戦に乗っかかってみようか。


 全ての怪盗が集うランキング発表会。

 コミュ障の僕には気が重くなる場所な予感もした。

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