第32話 最強だけどやっぱり認知されません

 完全にパニックになってしまったフォト。

 僕一人で何とかするしかないか。


 だが僕はゲームではこういった高難易度ほど燃える性格だ。

 この状況はゲームで最終ステージに挑んだあの時に似ている。


 その高揚感を思い出せ。


 感覚を研ぎ澄まし、全ての銃撃の射線を予想。

 誰がどの方向から銃を構えているのか把握。

 そこから安全な回避ポイントを見極める。


 見えた!

 全て銃弾を回避できるルートをついに発見したぞ!


 僕がそう思った瞬間に敵は一斉射撃。

 だが、一手遅い。

 僕は既に計算を完了している。


「まさか!? 信じられん!」


 全ての銃撃を回避されて、警察は大きく動揺する。

 そう、この瞬間を待っていた!


 相手はAランクの警察。

 まともに戦えば苦戦は必至だったが、動揺したその瞬間だけは大きな隙が生まれ、連携が崩れる。

 このタイミングなら、今の装備でも突破が可能だ!


「ぐわ!」


 最速でスタンナイフの一撃を決めることで、一気に警察を気絶させることに成功。

 数さえ減らせば僕の実力なら制圧は十分に可能だ。

 この好機を逃さずに畳みかけるぞ!


 思った以上に相手の動揺が大きく、さらに尾を引いたことが幸いした。

 僕はその場の警察全員を制圧。

 運の味方もあったのだが、計算通りに事が運んでよかった。


「おお、神よ。我がまぬけなマスターをお許しください。アーメン」


 敵は全員倒したというのに、フォトさんは虚ろな目で神に祈っている。

 状況を全く把握できていないようだ。

 というか、完全な現実逃避である。


 なんで人形のくせにこんなにメンタルが弱いんだ?

 これじゃまるで僕が機械みたいだよ。


「フォト、戻ってきて。敵は全員倒したからもう安全だよ。あと、まぬけで悪かったね」


「はっ!? ……って、ええ!? マスターが全員倒したのですか! あの状況で!? しかもノーダメージとは…………えっと、これって夢? おお、神よ。アーメン」


 状況を把握したフォトがまたしても現実逃避しかけている。

 こら、無限ループするな!


 まあ、気持ちは分からなくもない。

 自分でも信じられなくらいうまくいったのは確かだ。


 あの状況をスタンナイフだけで突破できた怪盗は僕だけだろう。

 もしかしたら有名人になってしまうのかもしれない。


「今回は頑張ったよね。これで僕の評価もうなぎ登りなんじゃないかな」


 実はこのフロアに隠しカメラが設置されていることは知っていた。

 僕の神がかった動きは観客の目にしっかりと届いているはずだ。


「えっと、その、すみません。ぶっちゃけかなりまぬけなミスで変装を見破られたので、実際の所評価はダダ下がりだと思います。それに動きが早すぎて観客の皆様は見えていません」


「…………あ、そう」


 世知辛い世の中である。

 せっかく頑張ったのに誰も見てくれてないとは……


 もういいや。さっさと終わらせてしまおう。

 敵も倒したし、後はこの先に進んで姫咲さんを救出するだけだ。

 早く終わらせて、家で泣こう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る