第29話 性欲マニアに人気が出てしまいました
いよいよ姫咲さんを盗む予告の日がやってきた。
同時にAランクへの初挑戦でもある。
開始時間は前回と同じく午後8時。
僕は30分前に姫咲家に到着していたが、場は既に前回とは比べ物にならないほど異常な盛り上がりを見せていた。
『さあ! 今回のライブはかなり特殊でございます。なんとお宝が可愛い女の子なのです!』
心なしか、実況の方も声に熱が入っている気がする。
息も荒く目が煌めいて見える。
今回はビッグスクリーンが配置されており、そこに姫咲さんの姿が映っていた。
さすがは姫咲家というか、とんでもない財力である。
そして姫咲さんはなぜかドレス姿であり、映像では牢屋の中にいる。
その表情は少し儚く、天上を見上げている彼女は実に絵になっていた。
さしずめ囚われの姫といったところだ。
『正直、今回はさすがの私もドン引きです。こんな可憐な美少女をお宝扱いするなんて、倫理に反します。ですが、ここは怪盗指定都市。倫理よりも面白さが優先されるのです!』
普通なら許されざる行為も、この怪盗指定都市ならば許容範囲だという事か。
恐ろしい町である。
怪盗指定都市の闇を見てしまった気分だ。
「ふえ~ん。私、怪盗さんに好き放題されちゃうのかな? くすん」
「いいぞ~姉ちゃん。ぐへへへへ」
ちなみに囚われの我が姫はノリノリであった。
この町の闇以上に、姫咲さんの闇の方が強大な気がするのは気のせいだろうか。
観客の方もノリノリである。
『しかし、普通はいくら怪盗でもこんなバカげた依頼は受けません。こんな非人道的な報酬では人気が落ちる危険がありますからね』
言われてみれば、この目的は好き放題できる女を手に入れるというものだ。
女性人気が重要であるこの怪盗指定都市でこんな依頼を受けるのは、人気を考えると自殺行為じゃなかろうか?
『よほど女に飢えていない限りはスルーするはずです。ですが、ここに女の体の事しか考えていない鬼畜怪盗が存在しました。その名も怪盗クチナシ!』
ちょっと待て!
その言い方じゃ、まるで僕が性欲の事しか頭にない奴みたいじゃないか!
「うおおおお!」
ちなみに実況の言葉になぜか場が大きく盛り上がり、歓声も上がっていた。
「凄いぞ! ここまで性欲に素直な怪盗はそうはいない! 逆に好感が持てる!」
一部の性欲マニアの心を掴んでいたようだ。
ちなみにほとんどが男である。
『普通なら女を好き放題する内容とか、叩かれる行為なのですが、彼はあえてそれを恐れずに受注しました。怪盗クチナシの勇気と性欲に拍手を!』
会場が拍手で満たされる。
それを見た僕は何とも言えない虚しい気持ちになっていた。
「マスター、良かったですね。褒められていますよ!」
「嬉しくない!」
「ファンが増えるかもしれませんよ。いっそ鬼畜怪盗の路線で人気を狙ってみませんか?」
「嫌だよ。というか、僕にそんなのが出来るわけないだろ」
「冗談です。まあ、このファンは男ばかりですものね。やはり人気が出るなら女の子からがいいですよね」
「そういう意味じゃないんだけど……」
しかもこれ、失敗したら性欲に釣られた間抜け怪盗として名が広まってしまい、一生の恥となってしまう。
あらゆる意味で今回は絶対に失敗できない。
『さあ、いよいよライブが始まります! 果たして警察は姫を守り切れるのか? それとも姫は怪盗に奪いさられて、その純潔を散らしてしまうのか? 怪盗ライブの始まりです!』
これだけ聞くと完全にこちらが悪役側である。
いや、状況的には間違っていないか。
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