第23話 姫咲さんの交換条件

 姫咲さんに正体がバレてしまった僕たち。

 いったいどうなってしまうのか。


「う~ん。これは驚いた」


 それが姫咲さんの最初の感想だった。

 まあ、僕みたいな冴えない男子が怪盗だったとか、普通の人間なら信じられなくて当然か。

 さぞ驚いたことだろう。


「梔子君があんなに喋っていたのを始めて見たよ」


 あ、そっち?

 でも、そうだよね。


 さっきのは僕が今までの学園生活で交わした全ての会話量を既に超えていた。


 普段まるで喋らない奴がここまで喋ったら驚かれて当然か。


「えっと。フォトちゃんだっけ? あなたが噂のサポーターさんなんだね!」


「む? 私の事を知っているのですか?」


「うん。私、怪盗さんが大好きだから、よ~く調べているんだよ。この町には怪盗をサポートする妖精のような人形がいる。どうやらその噂は本当だったみたいだね?」


 そう言えば妖精が怪盗に勧誘してくるという噂は僕も聞いたことがある。


 情報は完璧に規制できてはいないようだ。

 僕の存在にもあっさり気付ける姫咲さんだし、フォトの認識疎外の効果も薄いのだろうな。


「そうですか。それは光栄な事ですが……」


 いつもなら真っ先に自慢しそうなフォトだが、今回に限っては気落ちしていた。


「マスター。あなたとのコンビもここまでです。儚い夢を見ているみたいでした」


「粛清とかされるまでも無かったね。これが僕の器だったんだ」


 二人で揃ってため息をつく。

 正体が知られてしまった以上、怪盗を辞めなければならない。


「わっ! ちょっと待って。どうしてそうなるの!? 私のせい?」


 姫咲さんが慌てて両手を振っていた。

 責任を感じているようだ。


「怪盗は正体を知られてしまったら辞めなければいけないルールなのです。でも、姫咲さんのせいではありませんよ。隣にいる愚か者が全て悪いです」


「なんで僕なんだよ。フォトのせいだろ」


 この期に及んで罪を擦り付け合う僕達。

 ポンコツ怪盗にはふさわしい末路である。


「ねえ、それってさ。私が黙っていたら、問題は無いんじゃないかな?」


「え? 黙っていてくれるのですか!? 本当にいいのですか!」


 フォトの目が輝きだす。

 正体を知られても本人が黙認してくれるならセーフらしい。


「で、でも、我々の情報を売れば一生遊べるほどのお金が手に入るのですよ? あなたはそれを蹴るというのですか?」


「私、お金なんていらないよ。それより怪盗さんが辞めちゃう方が嫌だよ。むしろお金を払ってでも続けて欲しい。だって私、本気で怪盗さんが好きだから!」


「おお! 神です。このお方は、女神です!」


 そうか! 姫咲さんは怪盗マニア!

 そんな姫咲さんが怪盗を辞めされるような事をやるはずがなかった。

 どうやら首の皮一枚で僕の怪盗生命は繋がったようだ。


「マスター。姫咲さんが怪盗好きでよかったですね! ラッキーでしたね!」


「うん! そうだね」


 不運と思った今回の出来事だが、まだ僕たちは運に見放されていなかった。

 本当に見つかったのが姫咲さんで良かった。


「あ、でもさ。その代わりに私のを聞いてもらっちゃってもいいかな?」


「…………お願い?」


 僕とフォトが顔を見合わせる。

 なんだろう。


 僕の正体を黙っていてくれるのだから、できる事なら叶えてあげたいが……

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