第22話 ポンコツ怪盗コンビ、仲良く自爆をする


「ひ、姫咲さん!?!?」


 視線を入り口に向けてみると、そこいたのは姫咲さんであった。


 こ、これはまずい!

 大ピンチだ!

 完全に見られてしまった!?


 僕は確かに人の気配には敏感だった。

 しかし、決め台詞を言う為に全神経を言葉に集中していたので、今回は気付くことができなかったのだ。


「あの、ごめん。覗くつもりは無かったんだけど」


「………………いつから、見ていたの?」


 この大ピンチに僕は一時的にコミュ障を克服出来ていた。


「『やあ、子猫ちゃん』の辺りから、かな」


 最も聞かれたくない部分を聞かれていたぁぁ!?

 このままでは僕が屋上で一人で歯の浮く寝言を言っていた頭のおかしい男として、学校中の噂になってしまう。

 何とか誤魔化さないと!


「あ、あのね。姫咲さん。これは……そう! 怪盗の訓練に必要な事なんだ。だから、僕は一人で変な台詞を言っていたわけじゃないんだよ」


 おお、凄く自然に誤魔化せた!

 コミュ障の僕がこんなことができるなんて奇跡である。


 やはりピンチは人を大きく成長させる!


「え? 怪盗!? やっぱり、梔子君が怪盗だったの? 思った通りだ!」


「あ、しまった」


 僕は今、自分のことを怪盗だと言ってしまった!

 誤魔化すことに夢中で、最も言ってはいけないことを言ってしまった。


 やはりピンチは人から正常な思考を奪う!


 姫咲さんは僕を疑って屋上に追ってきたのだ。

 視野の広い彼女は僕を認識している。

 もっと怪しまれていることに気付くべきだった。


「バカですかぁぁぁ! なんで自分から怪盗って名乗るんですか! あなたはアホですか! このおっちょこちょいのスカポンタン!」


 ここぞとばかりに毒を吐きまくるフォト。

 そして、その様子をまじまじと見る姫咲さん。


「この人形、喋ってる?」


「あ、しまった」


 今度はフォトの顔が青くなる。

 フォトの奴もブチ切れすぎて、ついつい人前で言葉を発してしまっていたみたいだ。


 フォトには認識疎外の効果が働いているが、あんな大声で罵詈雑言をぶちかましてしまったら、さすがに認識されてしまったようだ。


 勘の鋭い姫咲さんが相手なら尚更である。


 そして僕はここで反撃の機会を見逃さない。

 日頃の恨みだ!


「あのさ、フォト。今のはその気になったら、勘違いとかで誤魔化せる話だったよね? 例えば『自分は怪盗じゃなくて怪盗を目指して練習しているだけなんだ』って言えば、切り抜けられたよね。フォトのせいで僕が怪盗であることが確定しちゃったよ? どうするの?」


「うるさいです! 怪盗たるもの、人の気配くらい感じとれるようにしなさい! マスターのせいです! そもそもコミュ障なのが悪いのです!」


「責任転嫁かよ! いいや、フォトが悪いね!」


 睨み合う僕とフォト。

 そしてそんな僕たちを交互に見る姫咲さん。


「うん。今のやり取りで、梔子君が怪盗さんだと確信したよ」


 もう言い逃れも無いほど完全にバレてしまった。

 さっきのやり取りがとどめである。


 こうして僕たちポンコツコンビは、二人仲良く自爆したのであった。

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