第17話 とにかく、お疲れ様です!

 そのまま帰宅。

 元の姿に戻った僕は、速攻でベットに倒れ込んだ。


「ふう。なんとかなりました。最後はとんだトラブルでしたね」


「本当だよ。まさか、姫咲さんに会うなんて思わなかった」


「おや、あの子とはお知合いでしたか」


「クラスメイトだよ。凄く人気があって、学園のアイドルなんだ」


「ほう。確かに彼女、可愛い子でしたね」


「…………この前、僕に話しかけてくれたけど、返事も出来ずに逃げてしまった」


「あらら。でも、今日の彼女は恋する瞳でマスターを見ていましたよ」


「……関係ないさ」


 姫咲さんは怪盗姿の僕に惚れたのだろう。

 もし憧れの怪盗の正体が僕だと知ったら、むしろ失望するに違いない。

 知らぬが仏ってやつだ。


「とにかく、お疲れ様です。マスターの実力も分かったし、得るものは多かったです」


「僕がガチのコミュ障ってのも、よく分かっただろ」


「ふふ、そうですね。そちらの方も計算外でした」


「…………失望した?」


「まさか。想定内ですよ。高性能な私がその程度で戸惑うはずないでしょう」


 計算外とか言ったくせに。まあいいけど。


「……あなたこそ私のポンコツな性能を見ても、失望しなかったですしね」


「まあ、想定内だし」


「やかましいです! こんな時だけは口が回りますね!」


 文句を言いながらもフォトは満足した表情だ。

 僕も同じ気持ちである。


「いつかはご自分で決め台詞を言えたらいいですね。それでコミュ障は克服です」


「……ああ」


 最終目標は決め台詞。


 今回は失敗してしまったが、こうやって場数を踏んでいけば、いつかは僕も自分の口からかっこいい決め台詞を言えるようになるのかもしれない。


「あなたと同調して分かったのですが、コミュ障といってもそこまで暗い性格ではありません。昔は違ったんじゃないですか? 例えば、過去に何か嫌な事があって喋れなくなったとか」


「っ! それは……」


「ま、そこは聞かないでおきましょう。誰にでも言いたくない過去はあります」


 僕を気遣うような表情のフォト。

 こんな顔をされたら、ちょっと調子が崩れてしまう。


「それに、本当は私にだって……」


「……フォト?」


「いえ、なんでもありません。余計な詮索はお互いに無しにしましょう」


 なんだろう。

 フォトにはポンコツ以外にもまだ秘密があるのだろうか?


 まあ、本人が知られたくないというのなら、彼女の言う通り詮索はしないけど。


「とりあえず、いい経験にはなったよ。ちょっと楽しかったしね」


「ふふ、意外と前向きではありませんか。そういう部分は好きですよ、マスター」


「…………そりゃどうも」


 『好き』とか言われて思わず顔を逸らしてしまう。

 僕は人形相手になにをやってるんだ。


「ですが、焦る事はありません。いつかきっと、あなたは人に見られることが逆に嬉しくなる日が来ます。少しでいいから想像してください。『かっこいい怪盗』になった自分を……」


 かっこいい怪盗か。

 もし、本当にそんなものになれたのなら、僕はその時……


「でも前にも言った通り、うまく喋れないマスターだからこその可愛いさがあるのですけどね。一般人にまだこの萌えは理解できませんかね」


「それ、きっと誰も理解できないと思うよ」


 怪盗か。意外と悪くなかったかな。

 決め台詞さえ無ければ楽しかったと言ってもいい。


 本当にゲームの世界を体験できた事を考えたら、まさに夢のような出来事だろう。


 一応、フォトもきちんとフォローをしてくれた。

 このまま続けていれば、いつかは僕のコミュ障が治る可能性もゼロではない。

 やる意味はきちんとある。


 コミュ障克服のための怪盗活動……まだまだこれからだな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る