2章 ポンコツ怪盗コンビ、学校へ行く

第18話 ステルス能力の代償

 翌日、僕はいつも通りに学校へ通っていた。

 再び僕の日常が始まる。


 怪盗という現実離れした出来事を体験した僕だが、普段の生活が大きく変わることはない。


 夜が明ければ存在感の無いただのコミュ障に戻って、学校生活を送るだけだ。


「ただいま」


「おや、おかえりなさいませ」


 家に帰ると、フォトがベッドに寝転んで、おやつを食べながら漫画を読んでいた。


「……フォト、だらけすぎ」


「よいではありませんか。戦士のしばしの休息です」


「誰が戦士だよ。そもそも人形がおやつを食べるなよ」


 フォトはその小さな体で頑張ってページをめくっては、ハムスターのように必死におやつを食べている。


 人形なのになぜか食事をするようだ。

 僕の漫画が汚れるからやめてほしい。


 話によると、怪盗とサポーターはパートナーなので寝食も共にするとか。


 正直、僕のプライベートが無くなってしまうので、ずっと一緒にいるのは勘弁してほしい。


「言っておきますが、サポーターに対してプライベートなんて気にする怪盗はいませんよ。どうぞ、私のことは置物とでも思って、エッチな本でも読み始めてくださいね」


「…………あのね」


 エッチな本っていつの時代だよ。

 ずいぶん知識に偏りのある子である。


「フォトは妙に人間っぽい所があるから、人に見られているみたいで落ち着かないんだよ。そういえば、テレパシーも使えるんだよね。逆に言えば、僕の考えていることも分かるの?」


 勝手に考えていることを知られるとか、プライベートも何もあったものじゃないぞ。


「ご安心ください。マスターが聞かれたくないと思ったことは意図的にカットすることも可能ですよ。心の中で聞かれたくないと思えば大丈夫です」


 よかった。

 思ったことを全部知られるのはさすがに勘弁である。僕は平穏を好むんだ。


「なので、安心してエッチな妄想とかもしてくださいね! ちなみに視界を共有することもできますが、それも任意で無効にできるので、女の子のお風呂を覗く時などは切っていただいて結構ですよ」


「覗くかっ! 犯罪だよ!」


 フォトはお菓子を食べ終えて満足したのか、軽く伸びをする。

 やっと仕事モードとなったらしいが、ずいぶんとギアが上がるのが遅い子である。


「さて、そろそろ怪盗クチナシの話題が広まっている頃でしょう。新人であれほど早く宝を盗んだ怪盗なんて初ですからね。SNSなどで検索してみましょう」


 フォトの目が光りだした。

 どうやらこの人形はネット検索機能もあるらしい。


 話によると、僕はかなりの好成績を収めたのだとか。

 歴代でも新人ではあそこまで早く宝石を盗んだ怪盗はいないらしい。


 僕は誰もできなかった快挙をやり遂げてしまった事になる。

 本当に話題となっているかもしれない。


 ひょっとしたら、このまま何も喋らなくても人気者となれるのではないだろうか。

 目標とはずれるが、それならありがたい。


「なにいぃぃ!? そんな馬鹿な!」


 そんなことを思っていたら、いきなりフォトが叫び声を上げた。


「マスターのことが全く話題になっていません! あんなに活躍したのに!」


「そうなの?」


 頭を抱えるフォト。

 これは僕にとっても意外だ。


 好成績を収めたと思っていたのだが、印象に残らなかったのか?

 さらに強烈なインパクトが必要なのだろうか。


「これはまさか……マスターのステルス能力のせいではないでしょうか」


「どういうこと?」


「マスターの力が強力すぎたせいで、あなたの存在が観客の記憶から消えてしまったのです」


「まさか! ステルスが強すぎて、忘れられたって事? そんな事あり得る?」


「マスターが意図的に自分を隠そうとすればあり得ます。例えばあなた、昨日にとかと客に対して強く願った記憶はありませんか?」


「…………あ」


 思い当たる節がある。

 決め台詞が失敗した時、僕は観客にと願った。


「マスターの能力はあなたが自分で思うより強力です。しかも暴走してその力を扱い切れていません。マスターが自分に自信を持たなければ、この現象は永遠に続くと考えていいでしょう」


 僕は……このままではずっと人々から認知されない怪盗となるのか?


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