第13話 最強のコミュ障怪盗とポンコツ毒舌人形

(そろそろお宝の場所だね)


 そうやって進んでいくと、広い場所に出た。

 中央には豪華な宝箱がある。


 宝箱の中に宝石が入っているのだろうか。

 あれを開けたら怪盗行為は成功だが……


(マスター。ストップです)


 フォトからは静止の声が入る。

 僕も同様で、危険な予感を察知していた。


(高レベルの警察がいます。それに宝箱の上にセンサーが仕掛けてあります。警報器ですね)


 宝箱の上にはシャンゼリアがあり、そのさらに上の天井には赤く光る装置がついていた。


 近づいてしまうと警報が鳴る仕組みなのだろう。

 そうなれば囲まれてしまいピンチとなる。


 さらにその周りにも宝箱を守るように警察が何人かうろついていた。


 彼らは今までと違って、かなり能力が高いようだ。


(マスター。ここも素通りできそうですか?)


(いや、さすがに無理だね。彼らが相手なら気付かれてしまう)


 これも感覚で分かる。

 数も多いし、相手もかなり警戒している。


 ここまで集中されては見つからずに突破するのは難しい。


(では、今度こそタイミングを見計らって行くか、やっつけるかですね)


(そうだね、今度は倒してみようか。フォト、武器とかあるのかな?)


(ありますよ。相手を気絶させられるスタンナイフです。現状ではこれだけが武器ですね)


 いつの間にか僕の手にはナイフが握られていた。

 ゲームでの初期アイテムだ。


(武器はマスターの意思で自由に出したり消したりできます。必要の応じて念じてください)


(了解。それじゃあ、この武器を使って警察を倒そうか)


(では、私が今から警察の数を確認しましょう。ひい、ふう、みい……むむむ)


 フォトが難しい顔で指を指しながら警察の数を数えている。

 なぜか妙におぼつかない。


(よし! 判明しました! 敵の数は十人です!)


 意気揚々と報告をするフォト。しかし……


(…………えっと、フォトさん? 敵の数、全部で五人だけど?)


 今度はフォトが十秒ほど沈黙。


(…………………はい。そうですね。五人でした)


 そう、彼女は完全に数え間違いをしていたのだ。機械とは思えぬイージーミスだ。


 原因も判明している。同じ人間を二度数えていた。


(フォト。もしかして、数を数えるのが苦手?)


(そ、そ、そ、そんなわけないでしょう! 私は高性能なのですよ!)


 フォトは誤魔化しているらしいが、もはや完全にバレバレである。

 そう。彼女は……


(君さ、実はかなりのポンコツだろ)


(うぐっ!)


(自分で高性能とか言っていたけど、本当は落ちこぼれのはみ出し者とかじゃないの?)


(ぎゃああああ!)


 脳内に聞こえてくるフォトの叫び声。

 その大きな音量は彼女のショックを表している。


(そうです。実は私、ポンコツなのです。これからはジャンクのフォトとお呼びください)


 光を失った目で笑うフォト。

 変な機能が搭載されてるな!?


(……まあ、別にいいけどね)


 なんとなく分かっていた。

 僕みたいなのを勧誘するくらいだし、彼女も普通じゃないはみ出し者なのだろう。


 そうでなければ、もっとまともな相手を怪盗に選んだはずだ。


(待ってください! マスターに才能があるのは本当です! それだけは信じてください! 確かに私は落ちこぼれですが、私の理論は正しいはずです! だからここで辞めるのは……)


(ああ、大丈夫。辞めないから安心して)


 僕の答えを聞いてフォトが胸を撫でおろしているのが伝わってくる。


 僕としてもこんな中途半端で辞めるつもりは無い。

 さっきも言ったようにフォトがポンコツなのは分かっていたし、その分だけ僕が実力でフォローすればいいだけだ。


(よし、じゃあ一気に終わらすよ。フォト)


(……へ?)


 フォトの困惑した声が聞こえたが、それを無視して僕は飛び出す。


 高速で警察の背後に回り込んで、スタンナイフで背中を突いた。

 まず一人。


「ぐっ」


 電撃が走り、警察の体が崩れ始めたタイミングで次の移動を開始。


 すでに全員の位置は把握している。同じように二人目、三人目とナイフを当てた。


 四人目にナイフを当てた時、ようやく一人目が音を立てて完全に崩れ落ちた。


「だ、誰だ!」


 音を聞いた警察が倒れた一人目の方を向くが、既にそこに僕はいない。


「か、怪盗か!?」


 焦った警察はキョロキョロと周りを見渡す。

 僕はその背後に回りこんで、最後の一人を同じように気絶させた。


 全員が倒れたのを確認。

 これで敵は片付いた。

 後は宝箱を開けるだけだ。


「っと、センサーがあるんだったね」


 倒れた警察から警棒を拝借し、上のセンサーへ投げつけた。


 シャンゼリアの間を通り抜けた警棒は、その上に設置されてある小さなセンサーをで貫く。


 ぼんっ、と音を立てたセンサーからは煙が立っていた。


 僕はそのまま宝箱を開けて、中の宝石を手に取った。

 宝石には詳しくないが、だからこそ余計に綺麗な代物に見える。

 これでもまあまあのレベルらしい。


「これが女神の涙か。綺麗だね。……フォト、これでいいんだよね?」


「……マジか」


 初めて怪盗の力を知った時の僕と全く同じ反応である。軽いデジャブだ。


「す、凄い! 侵入の時といい、とんでもない才能です! これはまさしく最強の怪盗!」


 フォトが目を輝かせて褒めまくってくる。

 普段は毒しか吐かないようなフォトが珍しい。

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