第10話 怪盗は超人的な身体能力を得られます

 怪盗の姿へと変身した僕。

 いよいよ現実味もおびてきて、緊張感も増してくる。


「さて、マスター。もう少し高い所に行きましょう。あのビルの屋上へ飛んでください」


 フォトが指定したそのビルは、ここからさらに10メートル以上は上にある。


「いや、あんなところまで飛べるわけないだろ」


「それが怪盗となった今のあなたならできるのですよ。騙されたと思って飛んでください」


 フォトに言われた通り、ダメ元で思い切りジャンプしてみた。

 すると、本当に僕の体が天高く浮かび上がり、ビルの屋上へと着地する。


「……マジか」


 とんでもない跳躍力だ。

 前にフォトから超人的な力を得たと言われたが、嘘では無いようだ。


(こら~。私を置いて飛ぶんじゃありません!)


 その時、いきなりにフォトの声が聞こえてきた。


 本当に飛べるなんて思ってなかったし、フォトを下に置いたまま飛んでしまったのだが、どうして声が聞こえるのだろう?


(これはテレパシーです。怪盗の契約をすることにより、私の声がマスターの頭の中に直接聞こえるようになったのです。便利でしょ?)


 テレパシーを使った通信機能まであるらしい。

 確かにこれは非常に便利である。


 これなら普段から怪しまれずに会話をする事も可能だ。

 大いに活用させてもらおう。


 とりあえず、下に降りてフォトを回収し、もう一度ビルの上へと飛ぶ。


 ちなみにこの高さから飛び降りても、まるで足に痛みはなかった。

 耐久力も人外の力を得ているようだ。


「さて、怪盗の力、ご理解いただきましたか? 今のマスターはが何十倍にも強化されているのです。この力ならやれそうでしょ?」


「……そうだね」


 こんな力を見せつけられたら、さすがに納得するしかない。

 いよいよ実感が沸いてきた。


「では、今からやることを説明します。マスターはあの屋敷に潜入して、ターゲットの宝石を盗まなければなりません。制限時間は一時間です」


 この辺りはゲームと同じだし、怪盗のライブを配信で見たことがあるので、だいたい分かる。


「屋敷に入れば宝石の位置は私のレーダーで分かります。案内はおまかせください」


「へえ、宝石の位置が分かるんだ。凄いじゃないか」


 迷わずに済むのはありがたい。

 さすがは自分で高性能と言うだけはある。


「ちなみにターゲットは、女神の涙と呼ばれている宝石で、売れば1000万円にもなると言われております。まあまあの高級品ですな」


「それは素晴らしいね。盗むのに成功したら、そのお金を貰えるの?」


「手に入るのは売値の1%です。残りは町の発展費として使われます」


 なんだ、1%か……と思ったが、それでも10万円である。

 高校生のお小遣いとしては間違いなく大金だ。

 これは報酬が楽しみである。


「最初は警察に見つからないように潜入……か」


 屋敷の周りには制服姿の警察が何人かうろついているのがはっきりと見える。

 怪盗になったことで視力も大きく強化されたらしい。


「この警察って、本物の警察じゃないんだよね?」


「そうです。彼らは全てお金で雇われた傭兵です。怪盗というシステムの名目上『警察』と呼んでいるだけで、別に掴まっても犯罪者として罰せられるわけではないので、ご安心ください」


 捕まってしまうと警察側の『勝ち』となるだけで特に法的に裁かれるわけではないようだ。


「このレベルの警察は大したことありませんが、高レベルになれば元軍人だったり元怪盗の警察が出てきたりもします。怪盗の捕獲に成功すれば報酬が貰えるので相手も本気です」


「なるほど。でも、今の警察が相手ならこの力で普通に勝てそうだね」


「ある程度はやっつけてしまう事も可能でしょうが、相手の数が多いので正面から戦うのは危険です。なるべく見つからないように、こっそりと宝石を盗むのが得策でしょう」


 怪盗は一人に対して、警察は集団で襲い掛かって来る。

 いくら身体能力が強化された怪盗でも、全員と同時に戦うのは不利というわけだ。


 数の利を持つ警察に対して、怪盗には強化された身体能力とサポーターがいる。

 その部分を差し引きしたら、戦力は五分といった所か。


「ちなみに高レベルになるととかも敵として登場しますのでご注意ください」


「はあ? 巨大ロボ!? そんなのどうやって倒すんだよ」


「倒せません。どんな怪盗でも撃破は不可能だと言われています。うまく避けながら目標を達成するしかありませんね。もちろん、今回は出てきませんが……」


 どうやら怪盗とは僕の想像を遥かに超えた相手とも戦わなければならないらしい。

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