第8話 初仕事、決定!
「コホン、失敬。梔子瞬さん、それがあなたの名前ですね」
改めて僕の名前を登録するフォト。
ようやく漢字を覚えたらしい。
「まったく、日本語って難しいですね。そうだ! これからはマスターと呼ばせていただきます。普通、サポーターはご主人様のことをそう呼ぶのでした」
「はあ、別に難しくないと思うけど……まあいいよ。好きに呼びなよ」
「はい、マスター。それでは、よろしくお願いしますね!」
これで僕たちのコンビが成立したというわけだ。
先行きは不安だが、考えても仕方ない。
「それでは失礼」
そんな事を考えていると、フォトがいきなり僕の手の甲に口付けをしてきた。
「な、何をする!?」
「怪盗の契約ですよ。そっちこそ、なに赤くなっているのですか。私は人形ですよ? ああ、ひょっとして、人形に欲情する性癖をお持ちですか?」
「そんなわけないだろ!」
「では私が可愛すぎてマスターの性癖を歪めてしまったのですね。ふっ、私も罪な女です」
それも違う……と言いたいが、言っても無意味そうなので無視することにした。
「これでマスターはいつでも怪盗として、超人的な力を使うことができます」
え? もう僕は怪盗になったの?
ずいぶんと簡単になれるんだな。
感覚的にはまるで変化は感じられない。
いつも通りの僕である。
手が少し熱いくらいだ。
「怪盗か。全く実感が沸かないよ」
「ふふ、まあそうですよね。ならばさっそく今から怪盗活動を始めましょう! 実際に怪盗として動いてみれば、おのずと自覚も出てくることでしょう」
「え? いやいや、いきなりそんなことを言われても、まだ心の準備が……」
「なにを言っているのですか。あなたはもう立派な怪盗なのですよ。もっと自信を持ってください。コミュ障を治す一番の近道は自信です」
一応、僕のコミュ障の事を考えてくれるのだろうか。
だとしても、中々スパルタである。
「では、予告状を送ります。っと、その前にマスターの『怪盗名』はどうします? 本名はさすがにまずいでしょう」
「いや、普通に『クチナシ』でいいよ」
僕のゲームのアカウント名と同じ名前だ。
これで問題が起きたことは無い。
「本名を使うつもりですか? 身バレの危険がありますよ?」
「クチナシって花の名前なんだよ。普通はそういった意味で受け取る人が多い。それに僕は存在感が無いから、誰も名前からは僕だと分からないさ」
「なるほど。存在感の無いぼっち君なので問題は無し、と」
「言い方!」
ちょっと悲しい理由だが、長年慣れ親しんだアカウント名なのでこの方がしっくりくる。
「では、怪盗クチナシで予告状を送信しますね」
フォトが予告状を送ったらしい。
どうやらデジタルで送信してくれるようだ。
ま、怪盗を歓迎する人なんてそうそう現れないだろう。
どうせ断られるに決まっている。
「はい、受諾されました」
「はやっ!?」
早すぎだろ!
予告状を送って10秒も経ってないぞ!
「まあ、新人の我々は金持ちにとってカモみたいなものですからね。舐められたものです」
宝石を盗まれなければ宝石代としての出費を抑えて、ライブの利益だけを得られる。
新人ほど歓迎されるようだ。
「ふん、そんな奴らには目にものを見せてやりましょう! ライブは今から三日後ですよ!」
こうして僕の怪盗としての初仕事は、あっさりと決まってしまった。
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