1章 初めての怪盗活動

第7話 怪盗のルールと契約

 コミュ障を改善するため、僕は怪盗として活動する事になった。


「さて、あなたは今から怪盗になるのですが、この町で怪盗をするには様々なを守らなければいけません。それを今から説明しましょう」


「ルール?」


 そういえば、怪盗行為はルールを守る事で初めて可能となるのだった。


 今までは詳しく知らなかったが、本格的に怪盗をやるからにはよく知っておかなければならない。


「ええ。まず怪盗は一般人には正体を知られてはなりません。もし見破られてしまった場合、怪盗の力を剥奪させられます。サポーターの存在が知られてしまった場合も同様です」


 怪盗関連のことは他人には内緒らしい。

 間違っても自慢げに話してはならない。


「それは大丈夫だな。僕はコミュ障だから誰にも話せない。友達もいないしね」


「理由があまりにも悲しすぎますが、まあ、そこは安心というわけですね」


 僕はぼっちで存在感が無い。

 欠点ではあるが、逆を言うならば誰も僕の正体には気付けない。


「ちなみに怪盗の正体を掴めば、その人は莫大な賞金が貰えます。つまり、一般人は怪盗の正体を知ろうと必死なのです。気を付けてくださいね」


 これは厄介なシステムである。

 特に金に飢えている一般人ほど怪盗の正体をあらゆる手段を使って探ってくるという訳だ。

 存在感が無い僕だから、大丈夫だとは思うけど。


「まだまだルールはあります。怪盗は盗みに入る前には必ず『予告状』を送らなければなりません。それを相手が承諾して、初めて怪盗行為が行えるのです」


 怪盗といえば予告状。

 いきなり盗みに入るのはご法度であり、犯罪となるようだ。


「盗まれる側が予告状を受諾し、そして警察を雇って怪盗を迎え撃つ。それを町全体に公開するのが『怪盗ライブ』なのです」


「盗まれる側が予告状を受けるメリットはあるの? 普通なら誰も許可しないと思うけど」


「いえ、怪盗が来ればライブが開けます。そしてライブの『入場料』は全て『盗まれる側』に入ります。宝石を守りきれば丸儲けです。仮に宝石を奪われてもライブにはたくさんの観客が来るので収入が全体を通してマイナスになることはありません。また、怪盗に盗みに入られた人にのみ、その怪盗のグッズ販売が許可されて、その儲けも全て盗まれる側の収入となります」


 つまり、怪盗を迎えるメリットは膨大であり、どう転んでも盗まれる側が得をするシステムというわけだ。


 そうでなければ絶え間なくライブが開かれる事はないか。


 そしてこれも別に難しいルールじゃない。

 予告状くらいならいくらでも書いてやる。


「最後にもう一つ、怪盗は最後に必ず観客に姿を見せて、『台詞』を言わなければなりません。これは『決め台詞』と呼ばれています」


「なにぃぃぃ!?」


 最後の最後にとんでもないルールが来てしまった!


「ちょっと待て! なんでそんなことをする必要がある!?」


 これはまずい。

 ヤバすぎる!


 コミュ障の僕にはあまりにも過酷なルールだ。

 人前で決め台詞なんて、下手をすれば気絶してしまうぞ!


「この町の怪盗がエンターテインメントとして認められているからです。だから、怪盗は人々を喜ばせて町を盛り上げる義務があるのです。その一環が決め台詞です」


 くそ、そういう事か。

 これには納得するしかない。


 怪盗なんて犯罪行為を容認するには、それだけの『利益』を町にもたらす必要がある。


 そのための『決め台詞』だというのならば、こちらには拒否権なんてないんだ。


「まあ、ちょうど良いではありませんか。コミュ障を克服したかったのでしょう? 決め台詞は絶好の練習の場ですよ」


「いきなりハードル上がりすぎだよ」


 何百人もいる観客の前で決め台詞なんて、コミュ障じゃなくても緊張するぞ。


「とりあえず、本格的に怪盗の契約といきましょうか。そういえば、お名前を聞かせていただいてもいいですか? 考えてみたら、私はまだあなたの名前も知りません」


「ああ、そうだった。僕の名前は梔子瞬だよ」


「はい、えっと……『口無し』さん、ですね? 漢字はこれで合っていますよね。コミュ障のあなたにはピッタリの名字ではありませんか」


「違うし! 『梔子』だよ! こう書くんだ」


 口無しなんて漢字があるわけなかろうに。

 この子は意外とポンコツだったりする?

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