第2話 コミュ障の僕とクラスのアイドル
乙女チックは表情で怪盗を語る美少女。
彼女の名前は
このクラスでトップの成績を持ち、アイドル的存在でもある。
彼女は学園で一番の美貌を誇っており、さらに抜群のコミュ力も搭載していた。
それでいてオシャレや流行にも詳しく、性格もめちゃくちゃ優しい。
そんな姫咲さんが人気者なのは当然であり、まるで全ての人間から慕われるために生まれて来たかのような輝きを放っていた。
言うまでもなく男子にもモテる。
既に学園の全男子から告白を受けているとの噂だ。
全ての男が彼女の魅力の虜になってしまったのかもしれない。
俗に言うスクールカーストのトップで、僕の憧れの人でもある。
おまけに大企業の社長令嬢というオプションまでついていた。
まさしく完璧美少女だ。
だが、そこまでモテる姫咲さんに彼氏はいない。
それには大きな理由があった。
『ごめんなさい。私、怪盗さんじゃないと無理なの』
玉砕した男子諸君が揃って耳にしたのがその言葉であった。
そう、彼女は筋金入りの怪盗マニアだったのだ。
それはもう、常識を逸脱するレベルだ。
あまりにも怪盗を愛してしまった結果、怪盗以外は受け付けなくなってしまったらしい。
完璧な美少女のたった一つの故障。
いや、完璧だからこそ、神様からのつじつま合わせがその好みだったのかもしれない。
「あのさ、姫。そろそろ怪盗マニアは卒業した方がいいわよ」
「うう、ダメなんだ。私、どうしても諦めきれないんだ。変な子だって思われてもかまわない。それでも、自分の気持ちは誤魔化せないんだ」
「……あんたに告白した男子にはちょっと同情するわ」
友達からも注意を受けているようだが、姫咲さんはその好みを改めるつもりは無いようだ。
逆に言うならば、もし怪盗になることができれば、あの姫咲さんのハートですら射止めることが可能という事になる。
いや、きっと彼女だけでなく全ての女性を魅了できるだろう。
公式で認められている怪盗は、人々にとっては憧れの職業でもある。
今や学生の将来夢ランキングは、芸能人でもスポーツ選手でも、ましてやユーチューバーでもない。
1位は完全に怪盗が独占していた。
ほとんどの学生が怪盗になりたいと思っているのだ。
そんな夢のような怪盗だが、どうやったら怪盗になれるのかは謎である。
怪盗の養成学校なんてものもない。怪盗になる方法は誰にも分からないのだ。
風の噂では、ある日いきなり妖精が現れて、自分を怪盗にしてくれるなどという話もあるが、これは嘘くさい。間違いなくガセだろう。
まあ、どちらにせよ僕には関係ない話だ。
たとえ自分が憧れの怪盗になれたところで僕は幸せにはなれない。
なぜなら僕はコミュ障だからだ。
さらに僕はもう一つ特別な力があった。
いや、呪いと言ってもいいかもしれない。
それは異常なほど存在感が薄いという体質である。
昔はそうでもなかったのだが、コミュ障が進むにつれて、それに引きずられる形でどんどん存在感も薄れていった。
クラス全員の名が上がる時、僕だけが呼ばれないなんてのは日常茶飯事だ。
今では教師でさえ僕の事を忘れることすらある。
これらは嫌がらせではなく、本当に誰も気付かないのだ。
コミュ障であり、存在感も無い僕。
こんな僕はそのまま誰にも認知されず、永遠にぼっち生活をするのがお似合いだろう。
「ねえねえ、梔子君」
そんな時、誰かが僕に話しかけてきた。
ごく稀に僕をしっかりと認識できる人もいる。
声の主を見ると、それはちょうど僕が脳内話題にしていた姫咲さんその人であった。
「今度みんなと一緒にアメジスト様のライブに行くんだけど、梔子君も一緒にどうかな?」
姫咲さん、なんて優しい子なんだ。
誰よりも気が利く彼女は、僕みたいな存在にもきちんと気付いて、気にかけてくれたのだろう。
ここで彼女の手を取れば、僕はついにぼっちから卒業できる。
友達が出来るのだが……
「……あ……う」
ダ、ダメだ。どうしても言葉が出ない!
僕の中に巣くう呪いがそれを許さない!
コミュ障の僕は手を取ることは出来ても、言葉を交わすことは出来ないんだ!
「梔子君、どうしたの? すごい汗だよ!?」
「ご、ごめん!」
耐えきれず、教室を飛び出してしまった。
そのまま当てもなく走り出す。
どれだけ走ったのか、僕は気付いたら家の前にいた。
帰巣本能というやつかもしれない。
移動する理由も無いのでそのまま自宅の扉を開けて、ベッドへと飛び込んだ。
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