第3章 月の王子(第11話)
曇天のような心を抱えて歩く。
変わり映えのしない鈍痛の苦しみが広がる今日が始まる。
それの繰り返し。
敵意を向けてくる人間がいる訳じゃない。
でも誰かから好意を抱かれる事もない。
無関心にまで希釈された不快感を
薄らと向けられるだけ。
害がある訳ではないけれど、
つまらない退屈な人間だと思われているのだろう。
「別にそこにいても良いけれど、
いなくなっても困らない。
最低限の事だけして関わってはこないでね。」
そんな背景のような、透明な存在。
私の少しずつすり減る心と未来に
誰も関心はなく、差し伸べられる手もない。
もう選択肢はどちらかしかない。
醜い色で透明な身体を彩るか、
透明になり消えてしまうか。
でも…私には選ぶ勇気さえもない。
消極的な現状維持と現実逃避。
そして今、逃げた場所にまで現実がやってきていた。
《第11話》
「ひまりちゃん、お疲れ様。」
この感覚も3回目だろうか。
私は森の中で目を覚ます。
手の中のステンドグラスの欠片、足元のバラバラに砕けたモント。
そうか、成功したんだ。
あの場所から私は抜け出す事が出来たんだ。
「次は雪の王子だね!
さぁ行こうか。」
目眩と吐き気がする。
身体と心がぐちゃぐちゃに掻き回されて、
バラバラに飛び散ったみたいだ。
上手く自分が纏まらない。
「私は…ひまり。
中学生のひまり……私は…。」
ひまり……私の名前…。
でも、それ以外の全てが嘘だったらどうしよう。
「ひまりちゃん、早く雪の王国へ行こうよ。」
そうだ、分かってる。
私は中学生じゃない。
あの日、駅で私はシンイチくんに会って…。
でもシンイチくんは…。
「大丈夫?目の焦点が合ってないよ?」
モーから肩を叩かれてハッとする。
途端に頭にかかっていたモヤが晴れ、
意識がはっきりとした。
「ごめん…雪の王国だよね。」
私は慌てて立ち上がり、
肩に乗っていたモーの身体を掴んだ。
そしてそのまま強く地面に叩きつける。
モーは悲鳴を上げる事もなく、
痛がる様子もない。
私は地面から再びモーを拾い上げて、
何度も叩きつけた。
「ひまりちゃん、早く次の王国へ行こうよ。」
さっきまでと変わらないトーンで
モーは私を急かす。
痛くないのだろうか。
「うん、方向を教えて。」
何度もモーを地面に叩きつける。
痛々しい音が森に響き渡った。
早く雪の王子に会わないと。
そして4つ目のステンドグラスの欠片を手に入れる。
あと2つだ、もう少しで全て集まる。
「方向はここから北に進んだ場所だよ。
さぁ行こ」
モーは急に「んぎゅっ」という声を出して
動かなくなってしまった。
「モー?大丈夫?」
問いかけても反応がないので、
私はモーを森の中に置いて先に王国を目指す事にした。
「私は…ひまり…中学生のひまり…。」
呪文のように同じ言葉を繰り返す。
私がバラバラになってしまわないように。
「本当にそうなの?」
背後から声が聞こえた。
でもその声はモーじゃない。
振り向くとそこには花の王国で出会った大きな胎児が立っていた。
「うん、私はひまりだよ…。
それ以外に誰だっていうの?」
そう返事をすると胎児はゆっくりと
何処かへ去っていった。
あぁ…そうか。
もう駄目なのかもしれない。
私も、この世界も。
それでも進むしかない。
雪の王国へ行くしかない。
少しずつ下がる温度に暗くなる空。
いつの間にか雪が降っていた。
遠くにレンガ造りの関所が見える。
さぁ行こう、次の王国へ。
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