第2章 花の王子(第11話)
この世界にいても、現実にいても
そうだった。
たった一つだけ分かっていたのは
この世界の誰も私に興味がないという事。
私は透明で、取るに足りなくて、
消えてしまえば誰も気付かない。
魅力もなければ、能力もない。
語るほどの人生も冒険譚もない。
そして私自身も心の奥底では、
誰にも興味がなかった。
この理想の世界でさえも。
《第11話》
まるで最初から何も無かったかのように
一瞬で全てが消えた。
残ったのはこの手にあるステンドグラスの欠片だけ。
反射的にモーを呼びそうになるがやめた。
さっきの言葉や今までの行動がひっかかるからだ。
「はぁ…。
何だかもう疲れたな。」
足元に小さなバラが1本だけ生えている。
これが『花の王国だった』ものだ。
花屋に行けば簡単に買えそうな
よくある赤いバラ。
それを特別綺麗と思えないほどに
私の心は麻痺していた。
「…次だ。
3人目の王子に会わないと。」
半ば義務感のように呟くと、
いきなり目の前にモーが現れる。
「ひまりちゃん、お疲れ様。
君なら出来るって信じてたよ!」
急にやってきた驚きよりも
モヤモヤとした気持ちの方が優って、
私は目を逸らしながら返事をした。
「……うん。
それで次の王国はどこなの?」
モーは素っ気ない私に戸惑う様子もなく
北の方向を指差す。
「月の王国ならあっちだよ!
あの国の周辺はいつも真っ暗だから
灯りが必要だね。
あとで蝋燭を貸してあげるよ。」
「…そう。」
「うん、次も頑張ろうね!」
ヘラヘラとして私を励ますモー。
怒り、虚しさ、不安。
そういう感情が心の中で混ざり合って
抑えきれなくなる。
私は我慢出来ずに泣いてしまった。
「ひまりちゃん、大丈夫?」
何を言ってるの?
モーのせいで大丈夫じゃないのなか。
でも、もう怒るのも虚しい。
どうせ何を言っても響かないんだから。
早く次の王子に会いたい。
どんな化物でもこいつよりはマシだ。
「…早く連れてって。」
私は静かに涙を流したまま、
モーに話しかける。
「うん、分かった!
じゃあ僕についてきて!」
頬の涙が乾燥してピリピリする。
その上をまた新しい雫が伝う。
私はモーの後に続いて、足を進めた。
キラキラと輝く花の王子のステンドグラスが
私の手の中にあった。
どうしてあの時、王子は謝ったんだろう。
王子は確かに怪物になって私を襲い、
言葉を交わしても分かり合えなかった。
けれどほんの少しだけ、
何かが掴めそうだったんだ。
鳥の王国の時にはなかった
不思議な感覚があった。
あと3回、繰り返せば
もっと近付けるだろうか。
次は月の王国だ。
暗くて静かな、知性の王国。
3つ目のステンドグラスの欠片を探して、
私とモーは歩き続けた。
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