第2章 花の王子(第4話)


《第4話》


お城の広間には沢山の蝶々頭が集まっており、

みんな綺麗な花のドレスで身を包んでいた。


「きっとこの中に僕の運命の女性がいるんだね!」


王子はぴょんぴょんと飛び跳ねながら、上から彼女達を見つめていた。


「ひまりちゃん、招待状書くの手伝ってくれてありがとね!」


キラキラとしたその瞳が私を見つめる。


「僕、ひまりちゃんがいないとやっぱり駄目だよ。

だからこれからもずっとここに居てね。」


そう言いながらも、王子は私以外の人間を

お妃にしようとしている。


でも良いんだ。

最後には全部手に入れるのは私なんだ。

花の王子だけじゃない。

この世界の愛とか、幸せとか、

そういう素晴らしいものを手に入れるのは。


「私なんだから。」

「ん?何か言った?」

「ううん、大丈夫!

それよりもこれからどうするの?

1人1人に指輪をはめていくなら

結構時間かかると思うけど。」


王子はしまった、という顔をする。


「何にも考えてなかった…。

どうしよう。」

「えっと…そうだね。

とりあえず全員来てるか確認して…

それから名前のあいうえお順とかでも良いから

来てる人達の順番も決めないと。」


私達は大慌てで手配をして、

何とかお妃探しの準備が整った。


早速、1番最初の蝶々頭が部屋に入ってくる。

緊張しているのか顔の羽が忙しなく、小刻みに動いていた。


「あの…指輪をはめる事が出来たら

王子と結婚出来るんですよね?」

「うん、そうだよ!

じゃあ左手を出してくれるかな。」


ぎこちなく差し出された左手の薬指に

王子は指輪をつける。


「!!」


指輪は難なく彼女の指にはまる。


「見ましたか!?

これで私がお妃ですよね!」

「凄い!!

こんなすぐに見つかるなんて!」


興奮する王子と彼女だったが、

すぐに指輪の様子がおかしい事に気付く。


蕾の刻印が見る見るうちに枯れていき

最後には指輪ごと腐り、指から離れ落ちてしまった。


べしゃり、と音を立てて床に落ちたソレは

すぐに元の指輪に戻る。


「意味が分からない!

何なんですか、この指輪!」


蝶々頭は怒り気味に王子に詰め寄る。

王子は何処か寂しそうな顔で指輪を見つめていた。


「ごめんね。

君じゃなかったみたいだ。」

「こんな指輪にお妃を決めさせるなんて

どうかしてます!」


蝶々頭はぷりぷりと怒りながら

部屋を出ていく。


「…怒らせちゃったね。

でも仕方ないよ、運命の女性を見つける為だもん。

もっともっと試さないと。」


王子はいつも表情豊かだ。

けれどたまに、全てが空っぽみたいな、

虚な顔になる時がある。


「落ち込んでも何も変わらないよね。

ひまりちゃん、次の人呼んできて!」


そしてまたいつもの笑顔に戻った。

絶望とか悩みなんてないような笑顔に。


「この蕾が花開く人に、きっといつか出会えるんだ。それまで頑張らないとね!」


どうしてかな。

王子は誰かに似てる気がする。


「王子は…運命の女性と結婚してどうなりたいの?」

「うーん、そうだね。」


凄く似ている。

よく知っている誰かに。


「結婚して、それから……

幸せになりたいかな!」


その言葉を聞いて、それが誰なのか分かった。


王子はよく似ていた。


空っぽな心も、薄寒い未来への希望も、

私そのものだった。

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