第2章 花の王子(第2話)

《第2話》


華やかでキラキラとしていて。

沢山の色と香りに包まれて、

私は楽しい気持ちになる。


ここが花の王国…。


「どうですか?

うちの王国は素敵な場所でしょう?」


蝶々頭の男性も嬉しそうにはしゃいでいる。


「こんなに色々な花を一度に見るの初めてです。ついつい長居しちゃいそう。」

「ですよね!

それじゃあ王子に会いに行きましょう!」


そう言って連れて行かれたお城は

街の風景と同様に沢山の花で彩られていた。

お城の門番は私達を警戒する様子がまるでない。


「いらっしゃい!

珍しい、お客様ですか?」

「ええ、是非王子に会って欲しくて!」

「素晴らしい、素晴らしい!

きっと喜びますよ。」


頭の羽をパタパタと動かして

彼は門番達と楽しそうに会話する。

内心こんな簡単に入って良いのかと不安にはなるが、私だって王子に会いたいのだから余計な事は言えない。


お城の扉を開けると、ダンスパーティーが行われていた。

テーブルには美味しそうな料理が置かれていて、蝶々頭達は綺麗なドレスやタキシードを着て踊っている。


それを2階からニコニコと見つめている少年の頭だけは人間のものだった。


あぁ、あれが王子だ。


クリクリとした丸い瞳に、綺麗な金色の髪。

人形のように綺麗だけれど、どこか親しみやすさと幼さを残した顔。

頬杖をついて笑っている姿はまるで少女のようだ。


王子はふっとこっちを見る。

私の姿を見るとパッと顔が輝き、飛び跳ねるように走りながらこっちへ向かってきた。


「ねぇ!

君、別の国から来たんでしょ?」

「は、はい…!

別の国というか」


私の返事を待たずに蝶々頭の男性が楽しそうに声を被せてきた。


「私が連れてきたんですよ。

きっと王子が喜ぶと思ってね!」

「凄いね、久しぶりのお客様だ!

ねぇ。どれくらいこの国にいるの?

君さえ良ければずっと住んだって良いんだよ。」


王子は私の肩を掴んで優しく笑った。


「えっと、どれくらいとかは考えてないんですけど…。」

「そうなの?じゃあ本当にここに住みなよ!」


王子はクスクスと悪戯っぽく笑う。


「君、名前はなんて言うの?」

「ひまりです。」

「ひまりちゃん!

可愛い名前だね、向日葵みたい。

そういえば向日葵に似てる。」


そう言うと王子は顔を私の首元に近づけた。


「えっ、何を…。」


私はビックリして、なすがまま固まってしまった。

王子は何も考えてないんだろうけれど、

息が首にかかってドキドキする。


「やっぱり!

ひまりちゃんからは夏の香りがするね。」


な、夏の香り…?

私は夏って感じじゃないと思うけど。


というかどういう意味だろう?

何となく照れてしまって顔が赤くなる。


「えっと、ありがとうございます。」

「そういや何で敬語なの?」

「だって王子様相手ですから。」

「えー、面白い!

この王国ではそんなの気にしなくて良いよ!」

「で、でもこの方も王子に敬語を使ってるじゃないですか。」


そう言うと蝶々頭と王子は顔を見合わせる。


「本当ですね!

じゃあこれからは私ももっと砕けて話そうかな。」

「良いね!そうしたらひまりちゃんも敬語やめてくれるだろうし!」


その理屈はよく分からなかったけれど

雰囲気に流され私は頷いてしまった。


「よし、決まり!

今日から僕たち友達だね。」


王子はぴょんぴょんと飛び跳ねながら

私の手を掴み揺さぶった。


「え、えっと…!

こちらこそよろしくね。」


王子の明るさと勢いに押されながらも

彼の手を握り返す。


ここなら大丈夫かもしれない。

鳥の王国みたいなグロテスクで気持ちの悪い体験はしなくて済むかもしれない。


ううん、それどころか…。

花の王子ならお願いすれば心臓の欠片を取らせてくれるかも。


無意識に明るい未来を夢想する。

例えそれが希望的観測だとしても。


無邪気な王子を見ていると

今まで描いてきた理想とか希望とかそういうものが、何もかも現実になるような気がした。

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