第1章 鳥の王子(第2話)

《第2話》


王国の中へ入った瞬間、私は驚いた。

分かってはいたが、王子と私以外の全員が鳥だったからだ。

彼ら彼女らは黙ったまま、門番と同じように私をじぃっと見つめ目を逸らさなかった。

それが少し不気味で、目線を下にやる。


「この国は僕以外、全員鳥なんだ。

だから人間が珍しいんだよ。」

「そうなん…ですね。

あの、王子は寂しくないんですか?」

「寂しい?どういう事だい?」

「だって自分以外は鳥なんですよね?

疎外感っていうか…自分だけ違うって思わないんですか?」

「そんな事ないさ、鳥も人間も同じだよ。

食事をして、寝て、自分なりの合理性の中で生きている。

それに、今はひまりさんがいるから。」


王子はそういって私に微笑みかける。

頭の中にだけ存在していたその笑顔が

今、私の前にある。

それだけで心が満ち足りた。


「さぁ、ここがこの国で唯一の宿だ。

金貨は持っているの?」

「……持ってないです。」

「じゃあ、これは僕からのプレゼント。」


王子はポケットから何枚か金貨を取り出し、

私に握らせた。


「えっ!?

そんな悪いですよ…!!」

「歓迎の証さ、受け取ってよ。

それに君はこの金貨を受け取らずに

どうやって今晩を過ごすつもりなの?」

「そ、それは…」


私は罪悪感を抱きながらも、金貨を受け取った。


「ありがとうございます。

この恩は絶対に返しますから…!」

「あはは、それは嬉しいね。

もし僕がピンチになった時は助けてよ。」


そう言って王子は宿を出ていく。


その後ろ姿も、何もかも

私の理想そのままだった。

自分1人だけ違う姿でも

清く、美しく、等しく世界を愛する。

王子はクラスの皆みたいに

私を除け者にする事なんて絶対ない。


「やだな…。

せっかくここに来たのに学校の事、考えちゃった。」


もうあの場所には戻らない。

だから考える必要なんてないんだ。


ふと、私は王子から貰った金貨に

黒い何かがくっついている事に気づく。

それは真っ黒なカラスの羽だった。


背筋が凍るような感覚。

とても嫌な予感がした。

私は王子が心配になって彼の後を追いかけた。


「王子、王子!」


町中を駆け回っていたその時、

金貨の羽と同じ真っ黒なシルエットが見えた。

急いで路地裏へ行くと、

そこには大きなカラスと王子がいた。


「ひまりさん、こっちへ来たらダメだ!

早く逃げて…!!」


真っ黒な羽を持つカラスは

ギョロギョロとした目で私をじぃっと見つめて、それからカァカァと笑い出した。


「お、王子を離して下さい…!」

「鳥の国の王子は鳥であるべきだ。」


カラスは王子を前足で掴み、そのまま飛び立ってしまった。


「王子!!」

「早くこの王国を出るんだ!

ここはもう危険だ!」


私は必死でカラスを追うが、

まったく追いつかず夕闇の中に消えてしまう。


「どうしよう…。」


半泣きで私はまた蹲る。

せっかく会えたのに王子がカラスに捕まってしまった。

何とかして助けないと。


もしこの世界が私の空想に基づいているなら、

王子は北の洞窟に幽閉されているはずだ。


あと少しで夜になってしまうけれど、早くしないと王子が殺されてしまうかもしれない。

私は金貨をぎゅっと握りしめ、北の洞窟へと向かう。


きっと今は危険な状況だ。

だけど不思議なくらいに私の胸は踊っていた。

夢なら永遠に覚めないで、と思うくらいに。

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