第1章 鳥の王子(第1話)
《第1章 鳥の王子》
《前書き》
昔々、ある所に鳥の王国がありました。
その国の王子は人間でしたが
白鳥のように美しく、鷹のように気高い心を持っていました。
王子は国民から愛されていましたが、快く思わない鳥もいます。
ある日、一匹のカラスが
「鳥の王国の王子が人間なんておかしい。」
と言って王子を牢獄に閉じ込めてしまったのです。
カラスは国民に王子は逃げてしまったと伝え、国を乗っ取ろうとします。
しかし旅人の少女が王子を牢獄から助け出し、共に戦いカラスを倒しました。
再び鳥の王国は平和を取り戻し、
2人は結婚しいつまでも幸せに暮らしたのです。
《1話》
モーに案内されてついたのは大きな橋の前だった。
「この橋を渡った先にある関所を通ったら
鳥の王国に辿りつけるよ。」
「モーは一緒に行かないの?」
「僕は良いんだ、ひまりちゃんだけ行っておいで。
もしも君がピンチになったらいつでも呼んでよ、助けに行くからね。」
そう言ってモーは何処かへ行ってしまった。
急に1人になって、また私は不安に襲われる。
本当にこの先に鳥の王子がいるんだよね?
モーの言う事、信じて良いのかな?
不安で胸を一杯にしながら、私は橋を渡る。
橋には色とりどりの羽根が落ちていて、まるで虹の橋みたいだ。
長い長い橋を渡りきって、やっと見えてきた関所には2匹の鳥が門番として立っていた。
「あ…あの…。」
勇気を振り絞って声をかけると
鳥は目だけをギョロっとこちらへ向けた。
「あ…えっと…す、すみません。
王国に入りたいんですが…。」
2匹は私から少しも目を逸らさず
つま先から頭までジロジロと観察する。
「身分証の提示をお願い致します。」
身分証…?
そんなの持ってないよ。
きっと学生証も部屋に置いたままだ。
「身分証は…ありません。」
そう答えると鳥はまた私から目を逸らす。
「身分を証明出来ない者を入国させる事は出来ません。お帰り下さい。」
「で、でも…!
急にここに連れてこられて…
身分証なんて持ってないんです。」
「身分を証明出来ない者を入国させる事は出来ません。お帰り下さい。」
「あの、何か別の方法って…!」
「身分を証明出来ない者を入国させる事は出来ません。お帰り下さい。」
鳥の門番は機械のように同じ事を繰り返す。
どうしよう、このままじゃ王国に入れない。
王子に会えないなら、この世界に来た意味もなくなってしまう。
「ねぇ、どうしたの?」
後ろから声が聞こえた。
しなやかで優しく上品で、でも凛々しい少年の声。
私は振り向いて、その姿を見る前から
誰なのか分かっていた。
「人間のお客様なんて珍しいね。」
目を細めて微笑む彼は間違いなく、
私が思い描いていた鳥の王子様だった。
華奢な腕、透き通る肌。
イエローの瞳は宝石のようにキラキラと輝いていた。
白鳥のように白い髪を靡かせ、王子は優しく私を見つめていた。
「良いじゃないか、通してあげなよ。
せっかくここまでやってきたんだ。」
王子がそう言うと門番は何の躊躇いもなく
門を開けた。
「ようこそ、鳥の王国へ。
僕が宿まで案内してあげるよ。」
王子は私に手を差し伸べる。
その瞬間、心から思ったの。
あぁ…ここに来て良かった。
今までの苦しみも全部、ここに来る為に必要な事なんだって。
私は照れながら王子の手を取った。
「さぁ、行こうか。」
間違いなく彼はここにいる。
私の目の前に。
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