愛の王子

イースター

プロローグ

夜、眠る時、いつもこう思うの。

「このまま永遠に目覚めず、夢の世界に行けたら良いのにな」って。


現実は嫌な事ばかり。

毎日、窮屈な制服に身体を押し込んで、

苦しみの時間をただ過ごす。


でも夜になって目を閉じれば彼らに会える。

私を愛してくれる5人の王子様に。



《プロローグ》


その日は目が覚めた瞬間から何かが違う気がした。

そこはいつものベッドじゃないし、

朝食のパンの香りではなくて獣のような匂いが漂っていた。


そうだ。

きっとまだ夢から覚めていないんだ。

だってそうじゃないとおかしいもん。


何で私はこんな森に中にいるの?

寝る時まで自分の部屋にいたはずなのに。


だからもう一度目を閉じた。

いつだって嫌な事があった時は

こうやって逃げて来た。

今回だってきっと大丈夫。

目が覚めればいつもの日常に戻ってる。



なのに…どうしてなんだろう。

どうして目が覚めても

まだ私は森の中にいるの?


私はパジャマのポケットに手を入れて携帯を探したけれど、何も入っていない。

叫んで助けを呼んでも誰も返事をしない。


「どうしよう、本当に何かの事件に巻き込まれちゃったのかな?

私、殺されちゃうの?」


パニックになった私はしゃがみ込んで頭を抱える。

そんな時、後ろからガサッと何かが動く音がした。


「ひっ」

反射的に出た声を抑えようと、手で口を塞いだ。

きっと私を拉致した犯人だ。

このままだと殺される。

逃げたいのに腰が抜けて動けない。


助けて、お父さん、お母さん…!

誰でも良いから助けて下さい。

お願い、助けて……シンイチくん…。


「君、どうしたの?」


拍子抜けするほど可愛らしい声の主が

木陰から姿を現した。

それは黒色のうさぎのぬいぐるみだった。

その事実は私に一瞬の安心と

新たな混乱を与えた。


ぬいぐるみ?

何でぬいぐるみが喋ってるの?


そう考えている間にもぬいぐるみは

マスコットキャラクターのように

トコトコと歩きながら近づいてくる。


「僕はモー!君の名前は?」

「な、名前…は…

ひ、ひまり…中学2年生…です。」


しどろもどろで答える私の膝に

モーと名乗るぬいぐるみがひょいっと乗ってきた。


「ひまりちゃん!

君は5人の王子から呼ばれて、この世界にやってきたんだね。

大丈夫、僕がひまりちゃんを元の世界に戻してあげる!」

「5人の…王子?」

「そうだよ、君はよく知っているだろう?」


5人の王子。

それは私の頭の中に存在する王子様。

鳥の王子、花の王子、月の王子、雪の王子、そして愛の王子。

辛い辛い現実から逃げる為に作り上げた妄想の存在だ。


その王子が私を呼んでいる?

もしかして本当に私は夢の世界にやってきたの?


「ね…ねぇ、モー。

その王子様に会う事って出来るの?」

「勿論!

5人に会わないと

君はここから出られないんだよ。」


ここから出る…?

さっきは早く帰りたいって思ったけど、

王子が存在するなら話は別だ。

ずっとこの夢の世界にいたい。


「お願い…案内して。」

「うん!分かったよ!

そうしたらこっちへおいで。」


早く、早く、早く…

早く会いたいよ。

やっと私の願いが叶う時がきた。

私の本当の居場所が、

終わる事のないハッピーエンドが、

きっとここにはあるんだ。

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