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今年も、去年と(というか毎年と同じように)あずきの暮らしている山の中にある田舎の町には雪が降った。
冬に降った雪は春になると溶け出して、その下の大地からは、たくさんの色とりどりの花が咲き始めた。
そんな風景を見て、私は大人になった、とあずきは思った。(もうすぐ、実家を出て、東京で一人暮らしを始めるし)
東京に向かう電車に乗っている間、あずきは春山古風先生のことを考えた。
……先生。今頃、なにしているんだろう? まだ一人でご飯食べてるのかな?
今から目的地を変えて、春山古風先生のいる家まで(先生のいる海沿いの町まで行けば、あとはなんとかなるだろう、と楽観的にあずきは思った)行ってしまおうかな?
電車の外の緑色の風景を見ながら、そんなことをあずきは思った。
古風先生。私ちゃんと大学に合格できました。
それでこれから東京で一人暮らしを始めるんです。
どうですか? すごくないですか?
そんなことを古風先生に言いたかった。
古風先生。私、大人になりましたよ。それにもう、高校生でも、古風先生の教室の生徒でもありませんよ。
電車の窓に映り込んでいる自分の顔はいつの間にか笑顔だった。
古風先生は今も独身のままらしい。(くるみがこっそりが教えてくれた。生徒たちから人気者だった古風先生の噂はなんとなく、まだあずきたちの高校にまで伝わっていた)
だから今もくせっ毛に寝癖をつけて、よれよれの(柄の変わらない)ネクタイのままで、いつもと同じ深緑色のセーターと見慣れたスーツを着ているのだろう、と笑顔のあずきはそう思った。
好きなんだ。だから会いに行くんだよ。 終わり
好きなんだ。だから会いに行くんだよ。 雨世界 @amesekai
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