第2話 奏多、依頼をうける
「おっ! 奏多、やっと来たか」
クタクタになりながら本部へ入ると、
そこにはダンジョン委員会の本部長、
「伊原さんじゃないですか!」
伊原本部長は俺の師匠の幼馴染だ。
師匠に修行を付けてもらってた時に二、三回会ったことがある。ボディービルダーのような体つきの持ち主で、素手でモンスターを倒してしまうほどだ。
「お久しぶりです。十年ぶりですかね」
「もうそんなになるか。最後に会ったのは……お前が十五歳の時か、雅は元気してるか?」
「それが……任務で海外に旅立ってしまいまして、それっきりです」
「あいつらしいな! でもまぁあいつならなんとかなるだろう。なにせ探検家としては超一流だからな」
ダンジョン委員会のトップに君臨している人が俺に一体なんのようだろう。
すると伊原さんは真剣な表情を浮かべた。
「昨日のランク試験の件でな。実は君の試験を担当していた三島が不正を働いた」
「ふ、不正ですか……!?」
ランク振り分けは最新のAIによって行われる。
AIがスキルや身体能力を見てランクの振り分けを行っていると聞くが、不正とはどういうことだろう。
「AIの履歴を確認したところ“SSランク”という結果が出た」
「えっ、SSランク!? ならどうして俺はDランクなんですか?」
「三島が虚偽報告をしていた……。すまん、こちら側の不手際だ」
「虚偽報告、委員会の社員がですか?」
「あぁ、三島は高圧的な態度で度々問題にはなっていたんだが、こんなことになるとは思わなくてな」
本部長は悲しげに語る。
マスコミの対応や三島の不始末で大変なのだろう。かなり参ってるようだ。
「これからは試験フローの見直しをしなくてはいけないな……」
本部長が腕を組みながら呟く。
「本来であれば再試験をしたいところなんだが、委員会のルール上二度の試験は規定違反になっている。申し訳ないが……」
ってことはDランクのままってわけか……。
高橋が言うにはDランクの方が注目を集めやすいって言ってたしいいか。
「奏多、こんな結果になってしまい誠に申し訳ない。雅に合わせる顔がない」
伊原本部長は俺に深々とお辞儀をした。
「頭を上げてください! 自分は全然気にしてませんから……!」
同時に周りにいた多くの探検家が俺たちに視線が向けられる。
「あっ! 伊原本部長さんだ!」
「あいつって、奏多じゃね?」
「えっ! 伊原本部長と知り合いなの?」
「写真撮っておこうぜ!」
周りの目が痛い。俺には休まる場所はなさそうだ。
無理やり話題を変えることにした。
「そ、それで……その三島はどこに?」
今でも忘れないあの「無能」という言葉。
本来であれば本人の口から謝罪をしてほしい。
「あぁ、三島か。あいつはクビにした」
「えぇ!」
「あたりまえだ、虚偽報告に度重なる不祥事。クビにするには十分な理由だ」
本部長は怒りをあらわにしている。
周りの空気がギュっと緊張に包まれる。
「問題を起こすようなやつは委員会にはいらない。だからクビにしたまでだ」
「な、なるほど……」
まぁ、自業自得なんだろうけど。容赦がない伊原さんに恐怖している自分がいる。
「奏多、本当お前には申し訳ないことばかり……これは頭をいくら下げても足りない」
すると伊原さんはまた申し訳ない表情を浮かべ頭を下げようとするが、俺はそれをすぐさま止める。
「代わりといっちゃなんだが、今後お前に困ったことがあれば、なんでも言ってくれ俺が力になろう」
「伊原さんが?」
「当たり前だ。お前には謝っても謝り足りない。これぐらいのことはさせてくれ」
なんだそのビッグ待遇は……。
さすが伊原本部長。
「実はな奏多、話はこれだけじゃないんだ……」
困った表情を浮かべる伊原本部長。いったいどうしたんだろう。
「何かあったんですか?」
「急で申し訳ないが奏多、探検家として君にお願いしたいことがある」
「俺にですか?」
「あぁ、君にしか頼めないことなんだ」
伊原さんに頼まれちゃ断る理由はない。
「分かりました。自分で宜しければ」
「そう言ってくれて助かるよ。ここじゃ周りの目がある。詳しい話はこちらでしよう」
◆ ◆ ◆
通されたのは本部長室。
すると、本部長は悲しげな表情を浮かべながらこう告げた。
「まずは、これを見てほしい」
手渡されたのはダンジョン探検家のプロフィール資料だ。
資料には
「本部長と同じ名前……この方は?」
「俺の娘だ」
本部長に娘さんがいるとは知らなかった。
資料にはクリーム色の髪色に綺麗なカールがかかっている女性。パチリとした目と丸顔が特徴的な女性が写っていた。とても可愛らしい女の子だ。
ちなみにまったく本部長と似ていない……。
「娘さんがどうかなさったんですか?」
「実はな……親子喧嘩をしたきり帰ってこなくなってしまってな」
「親子喧嘩ですか……」
まぁ、年頃の女の子にはよくある話だけど、家出少女を連れ戻すだけなら俺じゃなくてもいいはずだが……。
「ただの家出なら問題ないんだが、場所が場所でな……」
伊原本部長はバツが悪そうな表情を浮かべた。
「場所とは?」
「芽衣を見たという目撃証言によると、上野にあるダンジョンに入っていくのを見たと……」
「上野のダンジョンはどういったモンスターが出現するか分かってるんですか?」
「どうやらそこにはSランクモンスターがうじゃうじゃいるみたいでな」
なるほど、それはやっかいだ。
彼女のプロフィールにはAランク探検家と書かれている。娘さんは相当実力の持ち主のようだがSランクのモンスターに出くわしたらただじゃすまないだろう。
「それにしても、娘さんも探検家をやられてるんですね」
「あぁ、俺の反対を押し切りむりやりな……あれだけ危険だと言ったのに……」
伊原本部長は少しだけ父親の表情を浮かべた後。
真面目な表情で俺をじっと見つめた。
「俺が連れ戻しに行こうとも思ったんだが、いまはマスコミの対応で忙しくてな。俺がいなくなるわけにはいかないんだ。だから個人的に面識がある奏多にお願いしたわけだ。もちろんタダとは言わん。それ相応の報酬は出す」
「一応確認しておきますけど、自分Dランクですよ? そんな人に依頼して大丈夫なんですか?」
「昨日の配信を見させてもらったよ」
昨日の配信と言うのはワイバーンを倒したあれか。
「配信観てくださってたんですね」
「あぁ、ダンジョン委員会へのあのセリフはどうかと思ったが……」
「あはは……」
俺は微笑を浮かべた。
めっちゃ気まずい……笑
「それはさておき、ワイバーンを倒した君の動き、素晴らしかった。あんな動きはSランクの探検家にもできないだろう」
「ほ、ほんとうですか!?」
「君の強さは本物だ。それにAIにはちゃんとSSランクと結果が出ていたしな」
素直に褒められ、頬が緩む。
「そんな君の腕を見込んで頼みたい。どうか俺の大事な娘を連れ戻してはくれないだろうか……」
深々とお辞儀をする伊原本部長。その姿にはダンジョン委員会の本部長としての面影はなく、父親としての覚悟が感じられた。
その姿を見て俺の気持ちもグッと引き締まる。
「本部長、その依頼、受けさせていただきます。必ずや娘さんを連れて戻ってきます」
「本当か! それは助かる。上野のダンジョンはまだ未知のエリアが多いダンジョンだ。くれぐれも油断するなよ」
「分かりました」
俺は急いで上野へと向かった。
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