第二章 初めての依頼
第1話 奏多、リア凸される
めんどくさいことに委員会の本部は渋谷の中心地にあるため電車で向かう必要がある。
山手線に乗り込むが昼間でも電車の中は満員だ……。
すると、後ろからコソコソと噂話をするかのように女性二人の会話が耳に入った。
気配でコソコソと俺の顔とスマホを見比べているのが分かる。
「……?」
俺は頭にはてなマークを浮かべたまま。渋谷駅の改札を抜けて、外に出ると二人の女子大生らしき人たちが俺に恐る恐る駆け寄って来た。
「あっ、あの! もしかして探検家の奏多さんですか?」
電車に乗っていた女性二人だ。
あとを付けられていることには気づいていたがいったいなんのようだろう。
「そ、そうだけど……どうして俺の事を?」
「やっぱり~! 私、奏多さんのファンで~」
「いま話題になってるじゃないですか! どうしてこんなところにいらっしゃるんですか?」」
「いや、いまからダンジョン委員会へ……あっ……」
そういえば、さっき俺のニュースが大々的に取り上げられたばかりなのを忘れていた。
「奏多さん! 写真撮ってください! お願いします!」
すると、“奏多”という名前を聞いた周りの歩行者が俺に視線を向ける。
「奏多ってどこかで……」
「おい、あれって奏多じゃね?」
「ほんとだ! もしかして本物!?」
「うそうそ! どうして渋谷にいんの?」
「写真撮ってくれんの? 俺も俺も!」
俺の行動が迂闊であると悟ったころには時すでに遅かった。
「ちょちょっと……!」
次から次へと俺の周りを取り囲んでいく野次馬たち、昼の時間帯も相まってか渋谷の街は多くの人で溢れかえっていた。
高橋が「気を付けろよ」と言ってたのはこういうことか……あいつ、いつも大事なことは濁す癖があるからな……。
「「奏多さん! 写真お願いします~!♡」」
先ほどの女性二人組が有名人を見るかのような目で俺を見てくる。
もちろん断れる空気ではないので、
「写真だけなら……」
俺はしぶしぶ了承し、スマホを内カメにした画面にぎこちない笑顔を向ける。
「たはは……」
パシャパシャ。
「ありがとうございましたー! 配信頑張ってください!」
二人組の女性は俺に深々と頭を下げて雑踏へと消えていった。
その光景を見た野次馬たちが次々とスマホを向けてくる。
この後委員会に行かないといけないのにこのままじゃ時間がいくらあっても足りない。どうしたもんか……。
すると、一人の小さな少年が俺に駆け寄ってきた。
「あの! サインください!」
裏表のないキラキラとした表情を向けてくる。
まるで宝石のような目だ。
「あーえっと……」
サインなんて考えたことないが……。
とりあえずTシャツにでかでかとカタカナで“カナタ”と書いておいた。
「かなたお兄ちゃん! ありがとー! 配信頑張ってね!」
笑顔で去っていく少年。ちゃんとしたサインじゃなくて申し訳ない気持ちになる。
「チャンネル登録したぞ~!」
「これから頑張れよ! 応援してるからな!」
「息子がファンなんです! ぜひ握手だけでも」
「あのワイバーンの配信って本物なの?」
「なー! 村正見せてくれよ!」
「奏多さん! あの決め台詞お願いします! ダンジョン委員会し〇ええええええええええええ」
さすがに一人一人相手にしてると埒があかないので、無理やり笑顔を作る。
「そ、それじゃあ。俺はこれで……チャンネル登録よろしくね~」
小走りで振り切ろうとするが、俺の後ろには先ほどより大勢の人だかりでいっぱいだ。
恐らくSNSで拡散した人がいたんだろう。
「どうすっかな……」
スキルを使えば野次馬たちを簡単に振り切ることができるが、
現実世界でのスキルの使用は禁止だ。もし破れば重い罰が課せられる。
「なんとか目的地までに振り切らなければ……」
すると、少し歩いたところに路地裏を発見する。
「よしっ、あそこなら!」
俺は路地裏へ全速力へ走る。
「あっ! 奏多さんあそこに行ったぞ!」
「奏多さん! 私にもサイン~!」
「奏多さん! 写真撮って!!」
「決め台詞お願いしま~す!」
「握手してください~!」
俺は路地裏に入ったと同時に高く飛躍した。
そして、十階建てのビルの屋上へと着地。
「あれ? どこ行った?」
「うわぁ~! 俺もサイン欲しかったな~」
「SNSで後ろ姿だけでも拡散しとこうぜ~」
野次馬たちが去っていくのを見届けて俺は一息つく。
「はあ~~~~~~~~~~~。有名人ってこんなに大変なんだな……」
正直、ダンジョンでワイバーンの相手をしてるほうが百倍ましだ。
それにしてもいまだに信じられない。昨日までDランクの称号を与えられ、ただストレス発散をしにダンジョンに入っただけでこんなことになるとは。
「降りて本部へ向かう訳にもいかないよなぁ」
俺は忍者のようにビルとビルを渡り、駆け抜けていく。
「よっ、よっと!」
周りに気を配りつつ俺は委員会本部へと向かう。
目的地に着くころには俺のライフはゼロになっていた。
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