第3話 奏多、上野のダンジョンへ

 ――夕陽が昇り始めた頃。

 俺はビルとビルの間を駆けながらなんとか上野のダンジョンへ到着した。

 途中高層ビルで仕事してるサラリーマンたちと目があったけどまぁ大丈夫だろう。


「ここが、上野のダンジョンか……渋谷のところとは比べものにならないぐらいの大きさだ」


 高橋との約束までになんとか助け出さないとな。またバックレたらさすがに怒られそうだし。


「よしっと、それじゃあ。配信を始めるか」


 事前に伊原本部長からは配信の許可を貰っている。

 配信開始のボタンを押すと数秒でコメントの波が押し寄せてきた。


"カナタチャンネルきたー!"

"昼間に渋谷でいましたよね!"

"ダンジョン委員会死ねええええええええええええええええ"

"登録者数一億人突破おめでとうございます!"

"さっきは写真ありがとうございました!"

"応援してます!"

"今日も無双するんですか?"


 出だしからコメントは大盛り上がり。ものすごい勢いで同接が上昇していく。

 俺は慣れない配信口調で喋りかける。


「こんにちは。今日は上野にあるダンジョンに来ています。伊原本部長の依頼で、娘さんを救出するために今からダンジョンを探索します」


 あっ、上野にいるってことは伏せておいたほうがよかったかもしれない。

 高橋から気を付けろと釘を刺されていたのをすっかり忘れていた。慣れるのにしばらく時間がかかりそうだ。


"上野のダンジョンってどこだろう……"

"もしかして上野動物園の方にダンジョンがあったけど、そこかな?"

"伊原本部長ってダンジョン委員会のトップじゃん! その人から直々に依頼!?"

"伊原本部長の娘さんって可愛いのかな? ドゥフフ"

"ここに変態がいまーす! 通報して"

"伊原本部長と面識があるってこの人ほんと何者なわけ……"

"ちょっと奏多のwiki作ってくるわ"

"有能いて草"


 コメントが盛り上がっている。

 俺は気を取り直して彼女を探す。


「さーて、どこから探せばいいのやら」


 ダンジョンの中には入るところしか目撃証言がないため娘さんがどこまで行ってしまったのか見当もつかない。


「これは探すのに骨が折れそうだな。なにかいい方法は……」


 少し思案していいことを思いつく。

 俺は、さっそくスマホを浮遊魔法で浮かせ靴ひもを結ぶ。これで準備は万端。


「今から走るんで、酔いやすいかたは注意してください」


 俺は視聴者に向けて注意喚起をする。


"どゆこと?"

"別に走るぐらいなら大丈夫っしょ"

"前の配信観てないの? こいつ渋谷のダンジョンを1時間30分で踏破した男だぞ"

"マジ? それやばい"

"みんな! 目を閉じろ"


 俺は足に全ての体重を乗せて走り出した。

 周りの空気が一気に収束する。


「いばらめいさあああああああああん!!! どこですかあああああああああ! あなたを救出しに来ましたあああああああああ!!!」


 娘さんの名前を叫ぶ。

 しらみつぶしに探すよりかはこっちのほうが早く見つかる可能性がある。


"さすがに速すぎて草"

"うぅ……吐きそう……おrrrrrrrrr"

"すでに吐いてる人いて草"


『ゴググググググ』


「んっ? あれは……」


 数百メートル先にゴーレムが視界に入った。

 ゴーレムはどんな攻撃も弾く岩石の身体をもち、巨大な腕が特徴的なSランクのモンスターだ。倒すには特殊な装備が必要だと配信者が解説してたっけ。


 俺は師匠から教わった打撃の仕方を思い出す。


『いいかい奏多、まずは片手でグーを作って、思い切り殴るんだ! ずびゅーーーーん! こんな感じにね!』


 俺は音速を超えるスピードで駆け抜けながら、拳を握りしめゴーレムに向かって殴りかかった。


「よっと!」


 俺の存在に気づくより先に攻撃がゴーレムの身体めがけて命中する。


『ゴググググ??』


 力を込めた俺の拳は、ゴーレムの岩石のような身体を粉砕して見せた。


「意外と柔らかかったな……」


 師匠の教え通りにできたおかげだ。

 そして、次にトロールを三体。オークを二十体程片手で倒しながら駆け抜けてゆく、途中スライムを百匹ほど踏みつぶした気がするが正確な数字は分からない。


"なんで遠くにいる敵見えてるわけ?"

"さすがに速すぎて草"

"おrrrrrrrrr"

"ずっと吐いてて草"

"ゴーレムワンパンで倒してて草"

"どんな拳してるわけ?"

"もう村正いらないやん"

"スライム可哀想……"

"モンスターが可哀想に見えてくるのなんでだよw"


 コメントに反応している暇はない。いまは一刻を争う。


「いばらめいさあああああああああん!!! どこですかあああああああああ!」


 俺はふたたび名前を叫ぶ。

 すると中層へ入ったあたりで微かな女性の声が耳に入った。


「や、やめて……いっ、いやっ!!」


 俺は猛スピードで声のする方へ駆け寄るのだった。

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