第3話 奏多、最下層へ

 俺はダンジョンの中を軽快に駆け抜けていく、通常はゆっくり周りを確認しつつモンスターと出くわした時のことを考えて探索するのがセオリーらしいんだけど、なんとかなってるしいいか。

 探索していると、最下層の入り口にたどり着いた。


「SNSで見たことがある。たしかここが最下層の入り口……実物で見ると随分大きいんだなあ」


 暗闇が奥底まで続いており、底がまったく見えない。

 俺は内心興奮しながらも降りる準備をする。


"お前マジで降りんの?

"さすがに死ぬぞ! ここからはダンジョン委員会すら管理されていないエリアなの分かってる?"

"あー俺もうしーらね"

"誰か救助隊呼んだ方がいいんじゃね?"

"自〇配信かな?"


 同接を見ると千人を突破していた。

 俺を応援してくれるコメントは一つとしてないが、初配信でこれはとても嬉しい。


「俺のことを心配してくれているみたいだけど、この憤りをこの先にいるSSランクモンスターにぶつけないと俺の気がすまない! だからすまん!」


 そう一方的に告げ、俺は暗闇の底へ飛び降りた。


「よっ!」


 身体の重力が失われ、下へと吸い込まれてゆく。


"まだ心の準備があああああああ"

"ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ"

"ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ"

"マジで降りやがったぁぁぁ"

"あっ、しょんべん漏れた……

"やばい怖すぎて配信閉じるわ。降りたら教えて"


 この感じだと最下層に着くまで相当時間がかかりそうだ。

 その間、無言でいるわけにもいかない。


 なら……。


「降りてる時間がもったいないので、せっかくだから最下層まで雑談でもしましょうか」


 前に有名なストリーマーが無言は配信者失格だって言ってたし。

 俺は宙に浮いたスマホを手に取りカメラ目線で今日体験した出来事を話し始める。


「そういえば聞いてくださいよ~。今日ダンジョン委員会で、みんなから冷たい目で見られて……」


 どんな悲しいエピソードでも話のネタにするのが配信者というものだ。


"下みろ!下!

"こいつ狂ってるだろ!!!

"満面の笑顔で草"

"そんなことどうでもいいから頼むから下見てくれ!"

"おrrrrrrrr"

"吐いてる人いて草"


 俺の話を聞いてくれている人は一人もいなさそうだ。

 まぁそりゃそうか、俺みたいな底辺配信者の話なんか聞く耳もつはずないよなぁ。


 それでも一方的に話すこと数分が経過したころ底が見え始めてきた。


「おっ! やっとか! そろそろ着地の準備でもしておくか」


 急降下しながらも俺は村正を思い切り壁に差し込む。

 火花を散らしながら急ブレーキがかかったかのように俺の体は減速していく。


 そして無事最下層へと着地。


「よっと! ふぅ〜気持ちよかった。さすが俺の村正。よしよし」


 優しく鞘を撫でる。

 俺の村正はどんな硬い物体でも切り裂く優れものだ。

 二十歳の誕生日に師匠から誕生日プレゼントで貰ったものだ。SSランクのアイテムって前に言ってた気がするけど本当かは分からない。


"マジで降りやがった……"

"もう規格外の出来事が起こりすぎてどこからツッコんでいいかわからん"

"同じくwww"

"お前も規格外だけど、その刀どうなってるわけ?"

"その刀見た事あるぞ! 海外のダンジョンにしか現れないSSモンスターでたしかドロップ率0.00001%の超レアアイテムだ、ほんとに存在したんだな"

"ま?"

"なんでそんなレアイテムをDランクの探検家が持ってるわけ?"

"マジでわけわからんわ……"


 コメントが騒がしいが今は最下層を進むことが最優先だ。


「それじゃあ。最下層に来たので、先へ進もうと思います。この先どんなモンスターが出てくるのか楽しみだな~」


 一人ごとを呟きながらスマホの灯りを頼りに先へ進むこと数分。

 百、いや数千体の探検家らしき骨がいくつも辺りに散らばっていた。

 これはこの先に潜むモンスターがいかに凶暴かを表している。


"ぎゃああああああああああああああああ"

"これ本物!? さすがに加工だよな……"

"この数は異常だろ……この先にどんなモンスターがいるんだろう"

"もういいから帰ろうぜ、お前はよくやったよ"

"さすがにこの先はやばいだろ……"


 ものすごい光景にリスナーのコメントもざわつき始める。

 その時――


『グルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ』


 後ろの方から大きな地響きと共に獣のうめき声のようなものが耳に入った。


「この声は……」


 振り返ると、暗闇の中からSSランクモンスターのワイバーンが姿を現した。

 

 ワイバーンは鋭い牙と爪を持つドラゴンだ。

 その鋭い牙ですべてのものを貫き、逃げようとする探検家をその翼で仕留めようとしてくる。


「ずいぶん骨のあるモンスターが出てきたな」


 俺は不敵な笑みを浮かべながら「村正」に手をかけた。

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