第2話 奏多、ダンジョンに潜る!
辺りは暗闇につつまれていた。
「俺以外に他の探検家はいなさそうだ」
SSモンスターが出るダンジョンにわざわざ入る人なんかいないか。
ダンジョン内を少し歩いてる途中で重要なことを思い出す。
「そういえば配信するのを忘れていた」
ダンジョン探検家の醍醐味の一つである配信。これをしなくては始まらない。
そして、この俺の憤りを誰かと共有したい。
そう思った俺はさっそくスマホで配信画面を開き諸々の設定を行う。
「タイトルどうすっかな~。こういうのってセンスがいるって切り抜きで見たからなあ」
Dランクの俺が配信をしたところで誰も見に来ないのは必然。
少しでも魅力的なタイトルで視聴者を惹きつける必要がある。
ならば……。
『SSランクのモンスターが潜むダンジョンにDランク探検家がストレス発散するために潜ってみた!SSモンスター絶対殺すマン!初見さん大歓迎!』
これでどうだ!
「うん! 嘘はついてないし。やはりこういう誰もやらないことをやってこそ配信者だよな! ヒ〇キンもそんなことを言ってたし!」
浮遊魔法を使いスマホを宙に浮かせる。
「これでおっけーっと、後は、リスナーが来るのを待つだけだな」
すると、さっそく同時接続数の数字が五、六と増えていく、奇抜なタイトルが功を奏したようだ。
せっかく来てくれたリスナーを逃がすわけにはいかない。
「い、いらっしゃい! カナタチャンネルへようこそ! 今日探検家デビューしました! Dランクの探検家です! いまからバシバシモンスターを倒していくからよろしく!」
配信は初めてなので、とりあえず元気よく挨拶をする。
だが……。
"なにこいつ? 死にたいの?www"
"タイトルに釣られてきたけど、Dランク風情がなにができんだよ"
"前にこういうやついたよなwwすぐ死んじゃったけどww"
"初見、死ぬのを見に来ました"
"低ランク帯ってSSランクのダンジョンに入れるんだっけ?"
"一応ランク関係なく入れるけど、そんな馬鹿なことするやつはいない笑"
馬鹿にしたコメントばかりが散見される。
まぁ、Dランク風情が配信したところでこんなもんだろう。
『ぶおおおおおおおおっ!!』
突如目の前にAランクのモンスタートロールが姿を現す。
トロールは大きな棍棒で攻撃を繰り出してくるのが特徴的なモンスターだ。どんな攻撃でも無効化するその強靭な肉体は探検家にとって厄介極まりない。
準備運動にはピッタリな相手だ。
「ちょうどいい。今からあいつを狩ろうと思いまーす」
俺も言われっぱなしじゃ癪にさわる。口だけじゃないってところを見せてやらねーとな。
"やめとけって、お前Dランクだってことわかってる?"
"あーこれ死んだわww"
"おいおいトロールはやめとけよwそこらへんにいるスライムとオークにしな"
"実際Dランクの実力ってどんなもんなんだろう。ダンジョン配信してる人ってAランクの人たちばっかりだから強さがよくわからないわ"
"Dランクは戦闘スキルを持たない一般人レベルらしいぞ"
"まじかよ! これ死んだわ。チーン"
期待してくれているコメントは一つもないらしい。
俺は不敵な笑みを浮かべながら愛刀「村正」に手をかけ、呼吸を整え抜刀の構えを取る。
『ぶおおおおおおおおお』
俺の構えを攻撃の合図と受け取ったトロールは大きな棍棒を持ち突進してくる。
"ぎゃぁぁぁぁぁぁ逃げろおおお!!"
"あっ、走馬灯見えた"
"チーン"
"ご愁傷様でーす"
俺は剣を目にも止まらぬ速さで引き抜く。
「抜刀――――紫水ッ!!」
その刹那――辺りが光に包まれる。
先程までトロールが立っていた位置まで一瞬で移動しながら、目に見えぬ斬撃をトロールの上半身目がけて繰り出す。
『ぶおおおおおおお!?』
すぐさま体勢を立てなおし、「村正」を懐にしまう。
トロールは俺のことを見失いあたふたしている。どうやら斬撃が速すぎて切られていることに気付いていないらしい。
すると次の瞬間、まるで野菜を切るかのようにトロールの強靭な体が真っ二つに裂かれる。
『ぅごごっ? ぐぼぉ……』
トロールは大きい音を立てながら絶命した。
「う〜ん。トロールの割にそこまで強くないなぁ。スキル使わないで簡単に真っ二つになったし。これぐらいの相手じゃダメだ、もっと強いモンスターでストレス発散を――」
"ふぁっ!?"
"あのトロールの身体が真っ二つになったぞ"
"何が起こったのかまったく見えなかった……"
"スキル使わないでこの強さ!?"
"お前何もんだよ! Dランクが勝てる相手じゃないぞ!"
"俺夢でも見てるんか?"
"Sランクの探検家でさえ手こずる相手なのに"
"さすがに加工だろw"
コメントは大パニックになっていた。
まぁ無理もない。トロールはDランクが勝てる相手じゃないしな。
でも前に師匠はデコピンでSSランクのモンスター倒してたし、それに比べたらそんなに驚くことじゃないと思う……。
「相変わらず村正の切れ味は良好だな。師匠のお古だけどまだ全然いけそうだ」
俺は村正を上下に振りながら呟く。
それにしても上層でAランクのモンスターが出てくるとは。トロールは普通中層あたりに生息しているモンスターのはず、思ったよりここのダンジョンは手ごわそうだ。
「それじゃあ、トロールも討伐できたのでこのまま最下層まで目指そうと思います! ぜひ、ゆっくりしていってください!」
俺はスマホのカメラに向かって笑顔で手を振った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます