きょうはかぞくのえをかきまちた

「今日は家族の絵を描きましょう! お外で遊んでいたり、お出掛けをしていたり、日常の絵を描くの」

 次の週になって、幼稚園の先生はテーブルにいるわたしたちの前に白い画用紙を一枚ずつ配っていく。わたしは顔を掻く。お外で遊ぶことはあまり無かったし、家族で旅行したことも無かった。周りの友達はクレヨンを握って画用紙と向き合っているのに、私の頭の中は画用紙と同じで真っ白。

「カナちゃん、描きにくかったらおうちの絵でも良いよ? みんなでご飯を食べたり、おしゃべりしていたりする絵でいいの」

 それならば、描ける。まずは黒色のクレヨンを握って、[お父さんと呼ばれている人]を大きく描いた。チビは赤い服を着ていることが多いから赤、お父さんは青と白。

 場所は家の中。テレビと、ビールの瓶と、くちゃくちゃになった手紙を書き足していく。そうすればわたしの日常の出来上がり。

 先生が「もう出来たの?」と微笑みながら絵を見ると、急に笑顔が無くなった。何かを考えるように一度首を傾げて、先生はわたしの側にしゃがむ。先生はわたしと目線を合わせて、ゆっくりと息を吐く。何か大事な話をしようとしている気がした。いつもより低い、落ち着いた声で先生が聞く。

「ねぇカナちゃん、お父さんとお母さんとわんちゃんがよく描けてるけど……これは何をしているところなの……?」

 先生はこの絵のことが分かっていないらしい。わたしは絵が下手だから仕方ない。絵を先生の前にずらして説明することにする。

「この絵はね、お父さんと呼ばれている人とチビとお父さんの絵だよ?」

 わたしは描いた絵を指差して言い、先生の顔を見上げた。

 先生の顔が、青かった。

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