運想屋

@taiho-d

序章

昔々、この世界では、神々と竜たちとの間で戦争がありました。

不死であり、死しても蘇る天使たちを尖兵とする神々に対し、長命ではありますが死することもある竜の軍勢は強い繁殖力を持ち、戦争は永きに渡り続いたと言います。

しかし、あまりに長く続いた戦いは両陣営に疲弊をもたらしました。

そして神々は、遂に、竜の軍勢の本拠地であった巣に、その力を結集して巨大な隕石を落とし、ここに、戦いに終止符が打たれました。

竜たちはほとんどが死に絶え、僅かに残った個体も隕石落下の地殻変動に耐えきれずある者は地中に、ある者は海中に逃れ、長く深い眠りにつきました。

勝利した神々も、その力を使い過ぎたため、現世にその姿を留めておくことができなくなり、天上界に精神体となって逃れ、現世地上への力を及ぼすことが困難になりました。

地上は荒廃し、一切の生命は失われたかに見えました。神々が天上界へ登るためにたった1本残した巨木、「生命の大樹」を除いては。


それからまた、長い年月が過ぎた頃。

生命の大樹の側に、幾許かの草花が芽吹いたのです。

すると、それらの植物は瞬く間に地表を覆い始めました。


植物の繁殖と共に地殻変動で汚れた空気は清浄され、釣られるようにして妖精界に身を潜めていたエルフや山中に逃れていたドワーフといった妖精族が地上に戻って来ました。

更に年月を重ね、「生命の大樹」からは多くの動物も生まれ、やがて、最も神の姿に近い存在―人間も生まれたのです。


人間は非力で短命でしたが、かつての竜のように非常に強い繁殖力を誇っていました。それ故に、地上で人間が繁栄するまでに長い時間は掛かりませんでした。


人類と妖精族は、いつしか世界にいくつかある大陸に多くの国を築き、平和と繁栄を謳歌していましたが、互いの利益のために争うこともありました。

そして、今から100年ほど前、世界の半分を占める中央大陸を中心とした世界的な戦争が起こってしまいました。

各国は富国強兵に努め、新たな武器や魔道の術を開発し、野生の魔物を兵隊として育て、国家間では同盟を結び、大きく分けて3つの陣営に分かれて泥沼の争いを繰り広げましたが、開戦から10年後、ようやく和平が成立しました。


平和な時代が訪れたかに思われましたが、軍縮の煽りを受けて失業した兵士たちが野党と化したり、同じく不要になったために野に放たれてしまった魔物たちが人々を脅かす等の問題が起こります。

そこで、それら失業した兵士たちがギルドを作り、野党や魔物の退治など、街中や旅の道中で起きるトラブルの解決依頼を取りまとめて「冒険者」と呼ばれるギルド会員に仲介するシステムが構築されました。

こうして、世界の秩序は徐々に回復していったのです。


それから更に50年。

これは、そんな大戦や冒険者の活躍とは全く無関係な、ある配送業者のお話です。

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