第232話 厄介ごとの予兆?

「…ギルドマスターとしては、そう言われて『はいそうですか』と言うわけにはいかないんだが……


……だが!


了解したっ!


俺は物分りが良いのでな! 俺は何も知らない、喋らない。


何にせよ、高い魔道具が直ったのだ、良かった良かった、これで怒られずに済むな!」


そう言うとブラギエフは笑った。


「分かった、その人物については一切他言しない。ただな……」


「?」


「リュージーンの事は既に報告を上げてしまったんだ……」


「うぉい。早すぎないか? 気絶してたんじゃなかったのか?」


「ああ、いや、すぐに目を覚ましたんだ、そして、迅速に報告したほうが被害が少ないと思ってな、先に報告したんだよ、ヤバイことほど隠すと余計悪い結果になるもんだからな」


このブラギエフという人物、強面なのに、思いの外小心者のようであった……


「測定器が故障してしまった事も?」


「ああ、報告した」


「それが直ってしまったらマズイんじゃないのか?」


「あ……


いや! 叩いたら直った事にしよう!


すぐ報告をあげる、早くしないと俺の処分が下されてしまってからでは遅いな!」


慌てて通信用の魔道具を取り出し、ガレリア冒険者ギルドの本部へと連絡を取り始めたブラギエフ。


報告の修正はすんなり受け入れられた。結局、本部のほうも、測定器の誤作動だった、リュージーンの測定値も誤測定だったという報告に落ち着いたのだった。それはそうであろう、歴史上記録のある最高レベルの “賢者” でも魔力は5桁には到達できていないのだ。いきなり9桁の魔力値など、報告しても信じられるものではない。






だが、本部の中で、ブラギエフの修正報告を訝しみながら聞いている者が居た。


「測定器の誤作動? 叩いたら直ったぁ? そんな事例は今まで聞いたことないぞ……?」


「でも、魔力値9桁超えなんてありえないですから、誤作動と言われたほうが、一応、納得できる報告だと思いますが?」


「どうも胡散臭いな……そのギルドに調査人を送ってみるか。名目は誤作動した測定器の点検と言う事でいいだろ。そうだ、ちょうど “要塞” が来ていただろう? 奴に行かせよう」


「王宮魔道士を使う権限はギルドにはないですよ?」


「いいんだよ、俺から言っておく。奴は王宮に籠もって書類仕事ってのが大嫌いでな、面白そうなネタを教えてやれば自分から行くさ」(笑)



   ***  ***  ***



ギルドの男が “奴” と呼んでいた者は、男が予想した通り、話を聞かされて大いに興味を抱いた。


測定器が誤動作したという話だが、何かおかしい。そもそも、最初の報告では水晶にヒビが入っていたという事だった。それを、叩いて直ったなどと。もしヒビが入っていたとしたら、叩いたら砕けてしまうだろうに。


ドレッソンの冒険者ギルドのマスターがついオーバーに言ってしまったのだろうと言う事で話は落ち着いたようだが…。


本当にオーバーに言っただけなのか? だがもし本当にヒビが入っていたとしたら修復は不可能なはずである。それが直ったというのだから、やはり大袈裟に言っただけなのかも知れないが、それにしても……


最初の報告にあった “魔力9桁超え” などありえないが、何らかの誤作動を引き起こすような要因―――人物?―――が居たのは間違いないだろう。


王宮に籠もって居るのも退屈なので、調査を理由に少し国境の街へ行くのも悪くない。


「不滅の要塞」という二つ名で呼ばれるようになったダークフォークの女である。


※ダークフォーク:闇の種族とも呼ばれる。ダークエルフを祖先に持つと言われる種族。外見は人間と見分けがつかないが、寿命が長く魔力が強い。




   * * * * * *




用は済んだと席を立とうとしたリューとヴェラであったが、ブラギエフに引き止められた。


「まぁ待て。お前達、ランクアップさせてやるから試験を受けろ。お前たちの実力なら、現在のランク評価は低すぎる」


「興味ないなぁ……」


「なんだと? 冒険者だろう? ランクアップすれば色々と良いことがあるぞ?」


「どんな?」


「高ランク限定の依頼が受けられるようになる」


「別に受けなくていい」


「稼げるようになるぞ?」


「金には困ってない」


「金持ちかよ! …はっ! もしかして、貴族なのか? 身分を隠してお忍びで冒険者ごっこをしているとかか?!」


「平民だよ!」


「じゃぁなんで冒険者なんかやってるんだ?」


「冒険者の身分証が旅する時に便利だから、かな。商業ギルドの身分証も持っているが、それだと色々面倒な事もあったんでな」


「身分証のためか、確かにそのために冒険者登録だけしている者達も居るが……


しかし、旅をするなら、金はいくらあっても困るもんじゃないだろう?」


「それに、何より、ランクが上がると皆に尊敬されるようになります!」


「別にそんなものは……ああ、妙な連中に絡まれにくくはなる、か?」


「そうそう! Fランクのまま旅をしていると、いちいち先輩冒険者に絡まれる事になるぞ?」


「なぁそれ、毎回必ずやんなきゃダメなイベントなのかぁ?」


「まぁ仕方ないさ。力を誇示して上下関係をハッキリさせておくのは、その後の関係を円滑に進める上で大切だ。冒険者の習性みたいなもんだろ」


「猿の群れみたいだな」


「まぁ似たようなモンかもしれんな」


「だが、(ランクアップには)デメリットもあるだろうが」


「何のことだ?」


「貴族から指名依頼を受ける義務とか」


「それは……そうだな」


「それに、そういう依頼は、お偉いさんの護衛依頼ばかりになるだろう。護衛依頼なんてツマラン仕事を引き受ける義務があるなんてうんざりだよ」


「高ランクの討伐依頼だってあるぞ?」


「別に、依頼を受けなくたって魔物を狩って売るのは自由だろ。たまにレアな魔獣を狩って素材を売るだけでも金は十分に稼げる。まだ俺の収納の中にはドラゴンの素材も入ってるぞ?」


「ドラゴンだと?! そこまでのレベルか……ますますFランクにしておくのはもったいないな。


では……


高ランクになっても指名依頼を受ける義務を免除、それならどうだ?」


「そんな事できるんですか?!」


「可能だ。手続きは簡単ではないがな。こいつらほどの実力があれば可能だろう。魔法無効化なんて能力がある人間を確保しておくためなら、ギルド本部も飲むだろうさ。国に対しても強く出れるようになるしな」


「正直、ギルドに囲い込まれるのも好かんのだよ、俺は自由が好きなんだ」


「ヴェラはどうだ? 君の魔力の質と量はAランク級だということだが」


「私も別に……」


「そ、そうか……まぁ、考えといてくれ、悪いようには絶対しないから! な!」


しつこいギルマスの話を振り切ってなんとかギルドを出たリューとヴェラ。


とりあえず、冒険者ギルドにはもう用はない。宿を取る事にした。街には割と高級な宿もあったので、風呂付きの部屋を確保する事ができた。と言っても一部屋だけだったのだが。


部屋が空いておらず、二人で一部屋に泊まる事などよくある事。二人は恋人同士というわけではないが、同じ部屋に泊まる事にあまり抵抗は無い。


冒険者であれば、クエストの最中の野宿等で長期間一緒に寝泊まりする事も普通にある事であり、異性混合のパーティであってもそんな事気にする事はないという冒険者のほうが多いのだが……。


ただ、リューとヴェラはお互いに、相手を異性としてい見ていない事には明確に理由があった。じつは、リューはかなり早い段階から、ヴェラの正体に薄々気づいていたのであるが……。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ヴェラの正体


乞うご期待!


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※この作品は、既に公開されている


『足を斬られてダンジョンに置き去りにされた少年、強くなって生還したので復讐します(習作2)』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054922300995


の名前削除版です。内容はまったく同じです。


上記作品は戯曲(台本)の書き方がされております、つまり台詞の前に名前が入りますが、この作品はその名前を削除したものとなります。


ただし、完全戯曲風で書いてある話は手を入れますが、それ以外は特に削除板用に編集はいたしておりませんので、分かりにくい部分があるかも知れませんが、その場合はオリジナル版を参照してみて見て下さい。


※オリジナル版は先行投稿されています。


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