第233話 グレ子ぉ~~~~~(涙)
気づいたのは、二人で旅を初めて何回かの夜。リューの小屋に止まった二人だったが、リューが出した酒を飲みすぎて、ヴェラは酔ってテーブルに突っぷして眠ってしまったのだ。その時、油断したのであろう、気がつけば、ヴェラの頭には猫耳、そしてお尻からは長い尻尾が出ていたのだった。
「人間じゃなかったのか……」
何か
だが、冒険者たる者、いちいち他の冒険者の秘密を嗅ぎ回るような事はしないのがマナーである。何かしら秘密を抱えている、そんな冒険者のほうが多いのだから。
だが、単に人間ではない(おそらくは猫獣人?)であるという事は大した問題ではない。それよりも、もっと気になる事が一緒に旅をしていて出てきてしまった。
それは、ヴェラと話している時、どうも、ヴェラは地球の――日本の知識があるように思える事をよく口にするのだ。
時々、他の人間の前でも口を滑らす事があるので、そろそろちゃんと話をしておいたほうがいいだろう。それに、ヴェラも色々と気づいては居るだろうが、リュー自身の能力についても、そろそろちゃんと話しておいたほうがいいだろう。
そこで、宿に入り、風呂を済ませ、収納から出した料理と酒で晩餐をしながら、リューはヴェラに話を切り出した。(いつもは、訪れた街の空気を味わうため、街にある料理屋等で食事をする事も多いのだが、今日は話があると言って室内で食事をする事にした。)
「街の料理屋もいいけど、リューの出してくれる食事も美味しいわよね。あ、このお酒、美味しい……」
「俺の料理って、過去に訪れた街の料理屋で買った料理だけどな。
そういえば、なぁ、あの、暗殺者が出てくる漫画、なんてったっけ? ボルボだっけ?」
「車かい! ゴルゴでしょ! 全巻持ってたわ」
「…転生者だったんだな。そしてもう隠す気もないと」
「あなたもでしょ? あなたのその桁外れな
「まぁそんなところだ。それと、お前、人間じゃないだろ?」
「え、なんで? 結構完璧に化けてると思うんだけど?」
「酔っ払うと時々、耳と尻尾が出てるぞ」
「あちゃー」
「俺には鑑定能力があるんだが、
「とっくにしてるかと思ってた。どうぞ?」
さっそくリューが神眼を発動する。
「… … …ケットシー?」
「そうよ、ケットシーに転生させてもらったの」
ケットシーも十分気になる情報であるが、リューにはそれ以上に気になる内容が鑑定結果に書いてあった。
「……やっぱりなぁ……
そんな気はしてたんだ……
……姉ちゃん」
「久しぶりね、龍司」
「ずっと一緒に旅してたのに、久しぶりって言うのも変だけどな。
前から、酔い方の雰囲気が似てるなぁとは思ってたんだよなぁ……」
「普通の【鑑定】の魔法では、転生者である事までは
「まぁ、そんなところだ」
実は、リューには日本で生きていた時、姉が居た。
ブラコン気味な、弟ラブな姉が。
だが、その姉は、リューが日本で死んだ時にはまだ生きていたはずだったのだが……
「姉ちゃん、死んだのか?」
「あんたが死んだ後、世界的な伝染病が流行してね、アタシもそれにやられて、アッサリと、ね」
姉は看護師をしていた。まだ初期で実体がはっきりしていなかった伝染病であったが、その感染者の看護に姉は自ら名乗りを上げ、そして感染してしまったのだという。
「で、何か異世界転生させてくれるって言うから、乗ったのよ。しかもアンタが先に異世界転生しているっていうから、じゃぁ同じ世界によろしくってね」
「わざわざ俺の居る世界に来んでもいいのに」
「あんたが心配だったのよ。あんた、一人で勝手に死んじゃうし」
「事故だったんだから仕方ないだろ。それにしてもまさか異世界まで追っかけてくるとは」
「姉弟の縁は永遠に切れないのよ」
「……だけど、おかしくないか? この世界でも俺より年上だよな? 俺より後に死んだのに?」
「アンタが生まれるより前に転生させてもらったからね。一応、姉ですからね、年上でないと!」
「タイムパラドックスがありそうだが……地球とこの世界の時間軸は違うのか?」
「その辺は、神様だから何とでもなるんじゃないの?」
「よく分からんが。まぁ、神の御業を人間が理解するのは無理だな……
ってあれ? 姉ちゃんは、俺が龍司だって最初から知ってたのか?」
「いえ、最初は気づかなかった、というか覚えてなかったのよね。自分が人間じゃない事も忘れてたから」(笑)
「? ああ、俺と同じで一時記憶を封印してたのか」
「そんな感じ。エミリアとはとある事情で知り合って、友達になったのよ。それでエミリアを助けてあげたくて、人間に化けて側に居る事にしたんだけど……そこに至るまでにもまぁ色々あったんだけど、“それはまた別の物語” ってやつね。
だけど、不思議にあなたに惹かれて、あなたと旅をするようになって、ある時全部思い出したわ。一応、アナタの事もこっそり鑑定させてもらったし」
「勝手に鑑定したのか、俺は遠慮してたのに……」
「まぁ、弟だって分かってたからね」
「てか【鑑定】使えるのか?」
「アタシは魔法が得意なケットシーよ、魔法は全属性使えるわ。あ、アンタみたいに時空魔法は使えないけどね、あれは特別過ぎだわ」
「やっぱり時空魔法の事はバレてるか」
「当然でしょ、目の前で何度も見せられたしね。てか、アンタも人間やめちゃってるじゃないのさ、竜人てなによ? 人間に化けてるの?」
「いや、おれは素のままで、外見は人間そのものなんだ、本来の竜人という種族がそうなのかは知らないんだが。姉貴は本当はどんな姿なんだ?」
「……笑うなよ?」
そして、ヴェラが変化の魔法を解いた時、目の前に居たのは……
二足歩行する巨大な三頭身のデブ猫であった。
「ええっと、それが本来の姿なのか?」
「笑うにゃ! ケットシーの標準的なスタイルはこれにゃ! 普通の猫の姿にもなれるけどにゃ」
さらにもう一度変身?したヴェラ。すると、リューの前には可愛らしいグレーの猫が居た。
「おお……グレ子……!」
そこには、日本の実家で飼っていたロシアンブルーそっくりの姿の猫が居たのだった。
「アンタ、可愛がってたにゃよね、グレ子の事…」
リューが社会人になって家を出て、仕事に忙殺されていた時、グレ子は実家の父に看取られて死んだのだった。死んでから一ヶ月も経ってから連絡を貰ったリューは死に目には会えなかった。だが、父は父で、グレ子の介護から最後を看取り、その後ペットロスで放心状態になっていたので責められなかったのだが……
グレ子の事を思い出したリューは思わず
「ちょっと! アタシだにゃ! グレ子ぢゃないにゃ!」
だが、構わずリューは猫の姿のヴェラをグリグリとモフり続ける。
「グレ子……」
リューの目に涙が浮かんでいた。この世界に来て、初めての涙かも知れない……
「もう、しかたないにゃ……」
猫の身体の習性なのか、ヴェラはリューに抱かれてモフられて、ゴロゴロと喉を鳴らし始めたのだった。
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次回予告
宮廷魔道士がやってきた
乞うご期待!
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