第230話 ギルマス、ショックで気を失う

その後結局、リューとヴェラは事情聴取だと言って半ば強制的にギルドマスターの執務室に通されたのだ。


「冒険者同士の争いにはギルドは不干渉じゃないのか?」


「あ、いや、その事はいい。冒険者は強さで売ってるような商売だからな、ある程度ぶつかりあって関係を深めていくのは仕方ないと思っている。むしろ、冒険者達を傷つけないでくれた事、礼を言う。かなり手加減をしてくれていたようだな、大した怪我をした者は居なかった」


「俺の能力については話す気はないぞ? 冒険者が自分の能力を開示しなければならない義務はないだろう?」


「本当に、魔道具は持っていないのだな?」


「そもそも魔道具以前に、相手の魔法を無効化できるような魔法があるのか?」


「いや、そんな魔法は聞いたことはない。だから問題なんだ。魔法を防ぐ障壁なら得意な者が居るが、魔法を雲散霧消させてしまうなど、魔法王国としては看過する事はできない能力だ」


「特異体質だ、とだけ言っておこう。魔力も測定できなかったろう?」


「それだ、おい、ピンコ、測定器を持ってこい」


受付嬢が、慌てて魔道具を持ってきた。


「受付嬢、ピンコって名前なのか……」


それにもう一度手を乗せるよう促されるリュー。


「何度やっても結果は……」


「魔力数値……3です」


「むむむ、やはり魔力はほとんどないか。測定器の故障ではないのだな?」


ブラギが手を乗せてみると水晶玉は強く光り輝いた。


「故障でないとするなら……、魔力を抑える魔道具を持っているとかじゃないだろうな?」


「だから魔道具なんか持ってないっての。しかし、3とは、少ないね。でもすごい高性能な測定器だな、これまで使ったモノはみんな、魔力ゼロとしか表示されなかったからな」


「その数値じゃぁゼロと大差ないからな。だが……、魔法を使うのには魔力が要るはずだ。どうしてお前は魔法が使えるのだ?」


「体質としか……そうだな、試しに、魔法を使いながらならあるいは測定できるかも? いや、魔法を使わなくても、使うような感覚で魔力を込めて見れば、反応が変わるかも?」


「おお、それ、やってみろ!」


「いや、簡単に言うが、どうなるか分からんぞ? コントロールが下手なので、魔力を込め過ぎて測定器が壊れるかも知れん」


「馬鹿を言うな、この測定器はフェルマーにあるような安物とは違うんだ、宮廷魔道士クラスの魔力だって測定できる優れものだぞ?」


「と言う事は、お高いんですよね? もし万が一壊れても、俺は責任を取らないという事でよければ試してみてもいいぞ」


「んむむむむ、しかし、このままでは報告もできんしな。いいだろう、やってみろ」


「本当にいいんだな?」


「しつこいな、構わんと言ってるだろう、壊れるほどの魔力などありえん、さっさとやれ」


「では……」


リューが水晶玉の上に手を置き、魔法を使う感覚で魔力を込める。


次の瞬間……


水晶玉はまるでカメラのフラッシュのように一瞬眩い光を発したあと、そのままひび割れ、動かなくなってしまったのだった……


「あーこういう感じになるんだな……」


「……」


「あー!! 測定器がぁ! 壊れてしまったァ……ヤペェ……」


「あ、マスター、大丈夫ですか? マスター?!」


ブラギエフは測定器が壊れたショックで気を失ってしまったのだった……。


「気絶するほど? そんなに高かったのかコレ……」


「相変わらず、手加減できないのね」


「まだまだ練習が要るなぁ……」




   *  *  *  *




ブラギエフが使い物にならなくなってしまったため、リューとヴェラは一旦ロビーに戻り、併設の酒場で何か飲む事にした。


「もしかして、魔法仮面を着けてやったら良かったのかも?」


「でも、純粋な魔力供給の話なんだから、魔力を込めてしまえば結果は同じだったんじゃないかしら?」


するとそこに、モルボが近づいてきた。


「やは、リュージーン君。さっきは見事にやられたよ、参った、まいった参りました」


モルボはそう言うと頭を下げた。


「ええっと、ゴルゴだったか?」


「モルボでしょ! 暗殺者かーい!」


「そう、僕の名はモルボ。覚えておいて貰えると嬉しいな。ところで君たちはフェルマー王国から新兵器の実験に来たってのは本当なのかい?」


「そんなわけないだろう。フェルマー王国を通ってこの国に入ってきたのは確かだが、そもそも俺達は、フェルマーの人間じゃない」


リュー (説明がザックリだが、確かヴェラも他の国から来たと言っていたので間違いではないだろう)


「しかし、さっきのは凄いな。魔法無効化? あんな事ができるのなら、この国の、魔法王国の常識がひっくり返ってしまうぞ。フェルマー王国ではそんなの当たり前の事なのかい?」


「安心しろ、俺の個人的な体質の問題だ。フェルマーや他の国でも、同じ事ができる人間というのは未だ見たことはない」


「そうか、それを聞いて少し安心したよ。ところで……二人はパーティを組んでいるのかい?」


リューはそう言われて、ヴェラの方を見、自分たちの関係を考えてみた……



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ちわー不死王修理サービスっす


乞うご期待!



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