第229話 フェルマーの新兵器か?!

モルボ (正直、さっきの不意打ちに近い攻撃を躱されるとは思わなかったが)


そこから一気に攻防が始まる。


高速で移動しながら矢継ぎ早に攻撃を放ち始めるモルボ。リューは攻撃を躱しながらなんとか距離を詰めようとするが、なかなか追いつかない。


モルボとしても、リューに攻撃が当たらず、逃げ回りながらの攻撃を強いられて焦っていた。


リューとしては逆に焦りはない。リューの加速に上限はないのだから、さらにスピードアップすれば良いだけなのだから。


モルボ (ええい、なんて速さだ! 仕方ない……)


モルボが目線で周囲の冒険者に合図する。


リューもそろそろ本気を出してもう一段スピードアップしようかと思ったところだったのだが、急にリューの足が地面に縛り付けられ動けなくなった。


見れば、土属性の足枷が地面から生えてリューの足を捕らえていた。


周囲に居た冒険者達が協力してリューの動きを止めに掛かったようだ。魔法王国の冒険者達は、チームワークはなかなか良いらしい。


さらに、植物の蔦がリューの足に巻き付く。植物属性の魔法があると知識としては知っていたが、実際に見たのは初めてであった。


さらに闇属性の触手も生えてきてリューの身体を縛ろうとする。


ガリーザ王国やフェルマー王国では基本的な魔法しか見たことがなかったが、これだけ多彩な属性の魔法が使われるのは、さすが魔法王国の面目躍如である。


結局、まんまと拘束されてしまったリュー。


拘束の罠のようなものを予知できなかったわけではないのだが、戦闘中と言う事もあり、リュー自身が強力な攻撃を躱す事を意識していたため、身体を傷つけないような搦め手には気が回っていなかったのだ。


これは相手が上手うわてであったと言えよう。モルボによる強力な魔法の連撃の最中の事であり、またいくらリューが相手の心を読めると言っても、同時にその場に居る全員の心を読むのも無理がある。リューの経験不足である、今後の課題とも言えるかも知れない。


「喰らえ!」


そして拘束され完全に動きの止まったリューに向かってモルボが氷の槍を放つ。


これで決着がついたと思ったモルボであった。モルボも命まで取る気はない、狙うは手足。怪我はするだろうが仕方がない。ふらっとやってきたフェルマーの脳筋冒険者に、魔法王国の冒険者が力押しだけで負ける訳にはいかないのだ。


だが、モルボの予想は一瞬で覆される事になった。


モルボの放った魔法は、リューに当たる前に霧のように立ち消えてしまったのだ。


「少しだけ、本気を出すぞ」


リューがそう言うと、リューを縛り付けていた魔法もすべて霧散して消えてしまった。


「!? 何が起きた? 何をした?」


リューはニヤッと笑うと、ゆっくりとした歩みでモルボに近づいていく。モルボが慌てて魔法攻撃を繰り出すが、リューはもはや避けもしない。攻撃魔法はリューに当たる前に全て霧散してしまうのだ。


周囲の冒険者達もリューを魔法で縛ろうと呪文を唱えていたが、それも全て霧のように消えてしまう。


リューの魔力分解である。リューの周囲に迫る魔法を全て、リューが分解してしまっているのである。


逃げようとするモルボだが、リューが進路を塞ぐようにじわりじわりと詰めていく。心を読んでモルボの逃げる方向を察知し、最小限の移動だけでモルボの進路を潰していくリュー。やがて、気がつけば、モルボは訓練場の隅に追い詰められてしまっていた。


慌てて至近距離で攻撃魔法を放とうとするモルボであったが、何故か魔法が発動しない。リューの魔力分解の効果で、魔法が発動しないのだ。


リューが拳を引き、そしてモルボの顔の前に突き出す。


「ひっ!」


思わず目を閉じたモルボは、顔に風圧を感じたが、一向に衝撃が来ない。


恐る恐る目を開けたモルボが見たのは、寸止めされたリューの拳だった。リューは拳を開き、デコピンの形に指を構えると、モルボの額に強烈なデコピンを叩き込んだ。


さすがに、手加減しても壁と挟み込むようにして殴ってしまったら殺してしまうかも知れない。あくまで模擬戦なのだから、殺してはまずい、そこでデコピンである。


とは言えリューのデコピンは強烈である。普通の人間が殴ったくらいの衝撃力はある。


リューの指に弾かれ、背後の壁に後頭部を強かに打ち付ける事となったモルボ。後頭部を強打しながら気を失わなかったのは、身体強化魔法のおかげなのだろう。その分、痛みで呻く事になってしまったが。


「まだ続けるか?」


「まいった! 降参だ……。


一体何をしたんだ?」


「秘密だ。冒険者の奥の手はそう簡単に人に教えるもんじゃないだろう?」


『そうはいかん!』


「マスター!」


「マスター? ギルドマスターか」


「ああ、俺はここ・・のギルドマスターをしているブラギエフだ。お前はフェルマーから来たそうだが、もし、魔法を無効化する魔道具がフェルマー王国で開発されたんだとしたら、魔法王国としては看過できん、王に報告する必要がある」


「魔道具?」


「お前は魔力がほとんどないのだろう? だがモルボ達の魔法を無効化してみせた。つまり、なんらかの魔道具を使ったんだろう。おそらくフェルマーの新兵器のテストに来たというところか。どうだ、図星だろう?」


「全然違うな。魔道具など使っていない」


「今更嘘をついてもダメだ、魔法が使えないのにどうやって魔法を無効化したというんだ?」


「俺は魔力は少ないが、魔法が使えないなどとは一言も言ってないぞ?」


「魔力がないのに魔法を使えるわけないだろうが」


「やれやれ……」


リューは魔法の練習用の “的” に向けて手を翳す。するとリューの手の先から強力な炎が吹き出した。今度は絞った “熱線” ではない。激しすぎる炎の奔流が的を襲う。


リューの強すぎる炎は的を灰にし、さらにそのまま訓練場の壁を破壊して大穴を開けてしまった……


「あ、すまん。壊しちまった。練習中でコントロールがうまくないんでな。俺が素で魔法を使うと死人が出てしまう可能性が高いから、模擬戦では使えなかったんだよ」


「……バカな……的も壁も、これ以上無いほどの魔法防御の障壁が張ってあったはずなのに……」


リューの放った魔法の破壊力に、ギルドマスターも冒険者達も口をポカンと開けたまま何も言えないのであった……


(そういえば、仮面を使う機会が結局なかったなぁ……)



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


リュー、壊す


乞うご期待!



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