第228話 模擬戦、魔法王国の冒険者達の実力は……?!

開始の合図とともにダコフが呪文詠唱を始めた。


だが、即座にリューが踏み込んで、詠唱が終わる前に殴り倒してしまう。本当は、リューも仮面を使って魔法戦をやるつもりだったのだが、あまりにのんびりと詠唱を始められ、つい手が出てしまった。


「ブゴッ……


…卑怯だぞ!」


「何がだ? 魔法使いの攻撃は、呪文詠唱が終わる前に潰すのがセオリーだろ? まさか、魔物相手にも卑怯だとか言うのか?」


「バカ! 短縮詠唱、高速詠唱だ! 当たり前だろ!」


だが、短縮呪文の高速詠唱でも、【加速】アクセルがパッシブ発動してしまうリューに敵うわけがない。再び詠唱の途中で殴り倒されてしまうダコフ。


もちろん手加減はしている、リューとしては軽く撫でた程度だ。だが、現在のリューの “竜人筋肉” は、数々の戦闘や鍛錬を経て、その効率は人間の筋肉の六十倍以上にまで高まっている。(竜人の筋肉は効率が上がっていくだけであまり外見は太くはならない。)しかも、そこから【竜人レベル上昇】を使えばその力はさらに何倍にも高まっていくのである。リューが本気で殴ったら普通の人間は簡単に死んでしまうだろう。


だが、リューはダコフの耐久力を見誤った。ダコフは魔法使いなので物理攻撃には弱いだろうと勝手に思い込んでいたのだが、ダコフは魔法を使って身体強化もしていたのだ。


バイマークで指導されるようになった魔力を直接使った身体強化ではなく、ちゃんと魔法として術式が完成されている魔法が魔法王国では普及しているのだ。そのため、ガレリアの冒険者は基本技として皆、身体強化が使えるのである。


ダコフはリューのパンチでダメージは負ってはいたが、身体強化のおかげで完全に戦闘不能になったわけではなかった。だが、ダコフはダメージを受けて立ち上がれないフリをしながら呪文を詠唱した。そこから油断しているリューに攻撃魔法を放つつもりなのである。


ダコフの耐久力が予想外ではあったが、リューは戦闘中、神眼によって心を読んでいる。当然ダコフの “死んだふり” 作戦もバレバレである。リューは至近距離で放たれた炎矢ファイアアローをあっさり躱すと、ダコフの腹に蹴りを入れた。ダコフの身体はサッカーボールのように宙を飛んで壁に激突し、ダコフは完全に気を失った。


「なるほど、速いね、そして、抜け目ない。魔力がなくても冒険者をやっているだけの事はあるようだね。ダコフの短縮・高速詠唱はかなり速い方なんだけどね」


「あの程度ならいくらでも潰せるだろ」


「なるほど。でも……じゃぁ距離が遠かったらどうだい?」


冒険者A 『次は俺だ!』


声がした方を見ると、訓練場の対角の一番遠いところに立っていた冒険者が叫んだ。


冒険者の前には既に炎矢が浮かんでいる、発射準備は既に完了しているのだ。どうやら詠唱を事前に終了させてから名乗りをあげたようだ。


そして即座に放たれる炎矢。


炎矢ファイアアロー火球ファイアボールの上位魔法である。炎矢のほうが火球より遥かに速度が速く、熱量が鏃のように一点に集中しているため温度も高く貫通力が高い。


「この距離なら! 簡単に詰められまい!」


「そうでもない」


「え?」


距離があれば、呪文詠唱する前に打撃を食らう事はない。それに、火球よりずっと速度の早い炎矢であれば躱すことはできないと踏んだのだ。だが、リューは簡単に炎矢を躱すと瞬時に距離を詰めていた。


「馬鹿め、何故次の準備をしておかない……」


既に近くまで来ていたリューの姿を確認してから、慌てて呪文詠唱を始めた冒険者だが、さすがに遅い。結局、詠唱を終える前にリューに殴り倒されてしまうのであった。


どうも、魔法王国の冒険者は戦闘のセンスがイマイチな冒険者が多いようにリューは思う。


「なるほど、君の武器はそのスピードか。それだけ速かったら、確かに魔法なしでも戦えるね。だけど、君は今は一人だけしか居ない。複数相手ではさすがに無理だろう?」


すると、三人の冒険者がリューを取り囲んだ。それぞれが離れた場所に分散して立っている。


「大勢で掛かるのは卑怯だと言うかい? でも、魔物に出会って、一匹ずつ相手してくれなんて言ってられないだろう?」


先程のリューのセリフを言い返すモルボ。


「へへっ、これだけ大勢が同時に魔法を使ったら、いくらお前が速くても間に合うまい」


「勝てばいいんだよ」


「調子にのったおめぇが悪いんだぜ?」


「謝るなら今のうち……え、構わない? さっさと始めろ? そ、そうか、じゃぁ、始め!」


一斉に呪文詠唱を始める冒険者達。いや、囲んだ時に余計な事を言ってないでさっさと呪文詠唱してればよかったのに……馬鹿なのか? と思いながら、リューは神速の移動攻撃で、呪文詠唱が終る前に全員を殴り倒してしまうのだった。


「ええい、前衛職の奴らは何してる! 出てこい!」


魔法王国では攻撃の主体は魔法使いウィザードである。だが、やはりウィザードの呪文詠唱の時間を稼ぐため、前衛を担当する冒険者も当然居るのだ。ただし、魔法王国においては前衛職の地位は低く、下級ランクしか与えられていない。彼らは、リューが自分たちと同じ物理特化の戦士だと思いシンパシーを感じていたのもあり、こんな新人イジメのような事には加担したくないと隠れていたのだが、結局駆り出されてしまうことになったのであった。


前衛の戦士が四人、木剣を持ってリューを取り囲み、その後ろに四人、魔法担当が陣取った。一対八。もはや模擬戦の名を借りたただのリンチであろう。


さすがにモルボもやり過ぎかと思い、負けを認めて謝るなら今のうちだとリューを説得しようとしたのだが、当のリューが構わないと言うのだから仕方ない。


モルボが開始の合図をした途端、前衛は動かず、後陣のウィザード達から魔法攻撃が放たれた。合図の前に詠唱を終えていたのである。前衛職に気を取られている状態でいきなりの魔法による奇襲攻撃である、なかなか良い作戦であろう。


だが、結果は変わらない。リューはさらなる神速の移動で包囲を抜け出し、魔法使い達をあれよあれよと殴り倒してしまった。そして、ゆっくりと戦士達に近づいていくと、前衛の戦士達は早々に降参を表明したのであった。


「魔法王国などと言ってもこんなものか……、意外と大した事はないな」


珍しく相手を煽るような事を言うリュー。このままでは不完全燃焼だ。そもそも、言い出しっぺのモルボが戦わずに終わるという事もないだろう。


そして、そのモルボがついに訓練場の中央に進み出てきた。


「相手をしてくれるのか?」


「これまでのように行くと思わないほうがいいよ?」


その瞬間、予知能力によって攻撃を察知したリューが横に飛ぶ。リューの横を氷の槍が通過していく。


無詠唱の魔法攻撃であった。


「無詠唱か、やるね」


モルボの次の攻撃を躱すと同時に距離を詰めたリューであったが、モルボを殴り飛ばそうとした瞬間、モルボがリューに負けない速度で距離を取った。


「上級者ともなれば、魔力を使った肉体強化もできるのが当たり前だよ。君の自慢のスピードにも負けない。呪文詠唱のタイムラグもない。これが魔法王国のBランクさ。さぁ、どうするかな?」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


魔法王国の魔法戦士の実力


乞うご期待!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る