第227話 ドレッソンの冒険者と模擬戦

リューに続いてヴェラが水晶に手を乗せた。


後ろからドレッソンの冒険者達が煽ってくるが、相手をするのは受付での用が終わってからである。とりあえず受付で魔力検査を続けるリューとヴェラ。


ヴェラの冒険者証に記載された冒険者ランクと測定した魔力量を見比べながら受付嬢が言う。


「ヴェラさんは……おお、これは! 素晴らしい魔力の量と質ですね、Aランク級じゃないですか! えっと…え! Dランクですか? とても妥当な評価とは言えませんね、今度是非、ランクアップ試験を受けてみて下さい。この国なら正当な評価をしてもらえますよ!」


ヴェラの評価は極めて好評だったが、リューの評価はこの国の基準では最低ランクであった。曰く、


「リュージーンさんはFランクという事ですが……魔力量だけで言うとGとかH評価でもおかしくないレベルですね。一応冒険者としての経験と実績も考慮して、まぁ妥当な評価、と言っていいでしょうか……」


「別に魔力だけが冒険者の能力を表すわけではなかろう? それに冒険者ランクは必ずしも本人の実力をそのまま示しているわけではないしな」


現にリューのランクと実力は果てしなく乖離しているのだが。


「え? ま、まぁ、それは、そうなんですけどね……」


『なんだぁ? 魔力のないカスが、負け惜しみかぁ? 』


後ろに冒険者達が集まってきて騒ぎ始めた。最初は遠目に様子を伺っていた者たちが、リューの魔力が少ないと知って侮り始めたようだ。


これはいつもの流れだろう。ちょっと笑ってしまうリュー。ちょうどよい、この国の冒険者の実力を見せてもらおう。


リューは、このギルドのルールを確認する。


「冒険者同士のトラブルについては、このギルドではどういう扱いになっている?」


「申し訳ありません、冒険者同士のトラブルは、当人同士で解決して頂く事になっていまして……冒険者ギルドは一切関知しない事になっています……」


「ギルドの建物内での暴力行為は?」


「特に禁止してはおりませんが、設備や建物に破損があった場合は実費で弁償して頂く事になります」


「そりゃまそうか……訓練場は?」


「裏にあります、訓練場は強固な防御魔法で保護されていますので、そちらでしたら多少暴れられても問題ないです。強力な防御魔法の結界で守られているので、強力な魔法を放っても大丈夫ですよ……って魔力がないんでしたっけ…」


「それは良かった、じゃぁ俺がそこで他の冒険者をブチのめしても問題ないって事だな?」


「面白い事を言うね、君。よし、ニューフェイスの力を見せてもらおう、訓練場で、僕が実力測定をしてあげるよ」


「そうだな、魔法王国の冒険者の実力とやらを見せてもらおうか」


「ちょっとあなた、あまり見栄を張らないほうがいいわよ? この国の冒険者はみんな強力な魔法を使うのよ? 魔法が使えなかったら太刀打ちできないわよ?」


だが、リューは手をあげて受付嬢の言葉を流し、訓練場へと向かうのだった。




   *  *  *  *




「名前を訊いておこうか? 俺はリュージーンだ」


「僕はモルボだ、僕はBランクだよ、Fランク君」


「で、ルールはどうする?」


「まぁ待て、テストしてやると言ったろう? まずはあれからだ」


モルボが指差した先には一体の人形が立てられていた。


「あの的を魔法で射抜くテストだよ。ダコフ、手本を見せてやりなよ」


モルボに言われて一人の冒険者が出てきて呪文を詠唱すると、持っていた杖の前に炎矢ファイアーアローが現れ、的に向かって放たれた。炎矢は的に命中、しかし的は砕ける事なく、炎矢が散って消えただけだった。


「魔法の威力が弱いわけじゃないよ、あの的には強力な防御魔法が掛けられてるんだ。さぁ、君もやってみせてくれ」


『受付嬢もあっと驚いた魔力量を見せつけてくれよ!』


ギャラリーの冒険者からヤジが飛ぶ。


リューが腕を伸ばし、人差指と中指を的に向けた。


「こんな感じだ」


『なんだぁ? 何も起きねえじゃねぇか!』


『魔力が少なすぎて魔法が出ないんだろ!』


実は、リューの指先からは熱線が出て、的を貫き後ろの壁まで穴を穿っていたのだが、その熱線は細く、一瞬でしかなかったため、周囲の者達は気づかなかったのである。


以前、リューが初めて魔力変換を用いながら火球を出そうとした時、膨大な魔力が注がれながら、しかし制御があまりに拙かったため、巨大な火炎放射のようになってしまった。


だが、その後、かなり制御が上達してきて、その巨大な火炎放射を一点に絞り収束させる事ができるようになったのである。火球のように、炎を球状に留めるような事は未だ上手くはなかったが、吹き出す火炎放射を絞る事はできるようになっていたので、それを極限まで絞り切った結果、恐ろしい熱量を持つ熱線になったのであった。


そしてそれは、防御魔法が施されているはずの的や壁をあっさりと貫通するほどの破壊力であったのだが……穿たれた穴は小さく、またそんな魔法を見た事がなかった者たちは、何が起きたのか分からなかったのだ。


「そうか、魔力が少ないんだっけ、悪かったね、恥をかかせて」


「…? まぁなんでもいい、面倒なやり取りは時間の無駄だ。模擬戦なら相手になるぞ、まさかビビってるわけじゃあるまい?」


「せっかちだね。あ、もしかして、魔法禁止のルールを期待してたりするのかな? 残念ながらここは魔法王国だ、模擬戦でも魔法有りのルールが当たり前だよ?」


「魔法有りのルールで構わんよ、むしろそのほうがありがたい」


「君は(魔法使えないのに)どうやって戦う気だい?」


「やってみれば分かるだろ」


「生意気な、じゃあ俺が相手になってやるよ」


それを聞いたリューは不敵な笑みを浮かべながら訓練場の中央に移動した。ダコフも移動してくる。


「ダコフは杖を持ってるからいいとして、君は素手でいいのかい?」


魔法王国だけあって、魔法使いばかりたくさんいるらしい。皆、剣などの武器を持たず、魔法を補助する杖を持っている。ガリーザやフェルマーでは筋骨たくましい戦士が多かったが、この国では意外とスマートな冒険者(魔法使い)ばかりなのも特徴であろう。


「そうだな、素手のほうがいいだろう、そのほうが手加減しやすい」


「やれやれ、フェルマー王国には脳筋が多いと聞いていたが、本当のようだな。まぁ、身の程を思い知って後悔すればいいだろう……


では……


始め!!」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


魔法王国の冒険者と模擬戦


乞うご期待!



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