第226話 ドレッソンの冒険者ギルドでもやっぱりお約束の…

だが、何も反応しない。


「ん? 少なすぎるな……故障か? いや、犯罪歴なしは確認できている……と言う事は、この数値は正しいという事か?」


「ああ、俺は魔力はゼロなんだ」


リューは必要であればオリジン変換によっていくらでも魔力を供給できるが、デフォルトでは体内に魔力はゼロの状態なのである。


「ふ、なるほどな、腕力頼りの冒険者か! フェルマーには多いそうだが……この国では通用せんと思うぞ? この国は魔力が無い者には厳しいんだ。引き返したほうがいいんじゃないか?」


そう、魔法王国の名の通り、ガレリアは魔力偏重主義の国なのである。貴族だけでなく平民にも魔力が高い者が多く、魔力が少ない者は差別される、魔力選民主義の国なのだ。


「まぁ試してみるさ」


「どうしてもと言うなら止めはしないがな。ま、せいぜい頑張れ……」


少し嘲るような表情を浮かべながら、警備兵はリューとヴェラの入国を許可してくれたのだった。


    ・

    ・

    ・


「これからどうする?」


「これまでと特に変わらんさ。行く先々の街を観光しながら……なんとなくユサークの居る場所を目指そう」


「なんとなく?」


「まぁ急ぐ必要もあるまい」


その気になればいつでもユサークは捕まえられる。


「ユサークの居場所は分かってるの?」


「分かっている、前に言ったろう? 俺は微弱な魔力の流れも見えるんだ。奴の魔力の特徴は覚えている。奴の現在地、だいたいの距離と方向は分かっている。おそらく、奴もこの街に居る」


「でも、ユサークはどうやって検問をパスしたのかしら? 指名手配されているのでしょう?」


「おそらく検問所を通らずに入国したのだろうさ。手引した奴がいるようだからな。とりあえず、先にこの街の冒険者ギルドに行くか。金はあるから無理に働く必要はないが、面白そうな依頼があったら受けてもいいぞ」


実は、国境の警備兵に、街に入ったらまずは冒険者ギルドに行けと言われていたのだ。何やら、外国から来た冒険者にはしなければならない手続きがあるらしい。


こうして二人は国境の街、ドレッソンの冒険者ギルドへと向かったのであった。




   *  *  *  *




『いらっしゃいませ、冒険者ギルドへようこそ! 本日はどのようなご用件でしょうか? 』


ドレッソンの街の冒険者ギルドで、受付嬢の決り文句で迎えられたリューとヴェラ。


「国境で、入国したら冒険者ギルドに行けと言われたんだが…」


「フェルマー王国からいらっしゃたのですね?」


「ああ、今日着いたばかりだ」


「それでは、冒険者証を拝見してもよろしいでしょうか?」


言われるままに冒険者証ギルドカードを出す。


「すみませんね、フェルマー王国からいらした方の場合は、各種情報の確認をさせて頂いているのです。フェルマー王国とこの魔法王国ガレリアでは、冒険者の評価基準が異なっておりまして。能力があるのに不当に低いランクをつけられている事がフェルマーでは多いので、それを救済するためなのですよ」


当然、(ガレリアの基準では)不当に高い評価となっている冒険者もチェックする意味があるのだが、それは言葉にしない受付嬢であった。


受付嬢は大きな水晶玉のついた魔道具を出してきて、それに触れるように言った。冒険者として初めて登録するときに見る、魔力やその他ステータスを測定する魔道具だ。似た道具をつい先程国境検問所でも触れたばかりであるが、それとは異なるデザインであった。


冒険者の評価基準が違うと受付嬢は言った。事前情報として、この国は魔力偏重主義だという事も聞いていた。そして魔力の測定器が出てきたと言う事は、魔力ゼロのリューはどうなるかは想像に難くない。リューが触れた結果を見て、受付嬢が言った……


「魔力少なっ!


なにこれ? 故障? …違うようね、と言う事は……


あ、いえ、すみません……


ただ…このレベルだと、この国でやっていくのはちょっと難しいかも知れませんよ……」


だが、リューはちょっと驚いていた、測定結果がゼロでなかった事にである。これまでの魔力測定では、いつもゼロとしか言われた事がなかったのだ。


実は、これまでの測定器は大雑把な測定しかできない安物だったため、魔力が少なすぎると検出できないのであった。だがこの国の測定器は精密に測定できる。そのため、微小な魔力であっても測定できたのである。


そもそも、本当にゼロであれば魔力紋の検出による犯罪歴の確認もできないはずであるのだから、リューも極端に少ないとは言え、本当にゼロというわけではなかったのである。


その時後ろから声が聞こえた。


『なんだ、魔力のほとんどないクズ野郎か! さっさと故郷くにへ帰ったほうが身のためじゃないか?」


訪れた二人を遠目に観察していた冒険者達である。


冒険者ギルドで先輩冒険者に絡まれるというのは、受付嬢の決り文句と一緒で、絶対にやらなければならないルールなのだろうかと不思議に思うリューであったが……今回は好都合である。


リューは魔法王国などと言われる国の冒険者の実力にも興味があったのと、不死王に貰った仮面の能力を実戦で試してみたかったのである。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


売られた喧嘩を積極的に買いに行くリュー


乞うご期待!



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