第132話 こんな奴がそんなに強いとは思えない
王から呼び出しが掛からないため、王都観光などしながら久々にのんびり過ごしていたリューであったが、数日後の朝、やっと呼び出しがあり、王宮へ向かった。
王宮を訪れたリューは玉座の間に通される。玉座には王が座り、横にレジルド王子が立っている。
玉座の脇、少し離れてソフィと宰相が居た。
部屋の隅にはレイナードが居るのが見えた。数人の騎士が部屋の周囲を囲むように立っている。レイナードは結局、王宮騎士団長に就任したとの事であったので、王の護衛であろう。
さらに、ソフィ達と反対側にリューの知らぬ者が三人、少し下がって騎士が一人立っていた。立ち位置、そして偉そうな服装と態度からして高位の貴族か王族とその護衛というところだろうとリューは思ったが、正解である。ジョルゴ公爵とその息子達、その護衛の騎士である。
「リュージーンよ、よく来てくれた」
「何か話があるとか?」
「うむ、いくつかお主に訊きたい事ができてな」
「?」
「先だってのチャガムガ共和国の件はご苦労であった、改めて礼を言わせてもらう」
「訊きたいことというのは、その後の、赤魔大国の件についてなのだが……」
その時、リューの不遜な態度が気に入らず、ずっと不愉快そうな顔をしていた公爵が、ついに我慢できなくなったのか声を発した。
「私から言いましょう! そこの者、リュージーンと言ったか、お前には、赤魔大国と通じ、敵を国内に導いた外患罪の嫌疑が掛かっておる!」
「……は? 誰だ、あんた?」
「私はジョルゴ・ダ・ガリーザ公爵であるぞ! 貴様その態度はなんだ?! 王族の前であるぞ、平民ごときが無礼であろうが! 跪け!」
「ああ、その者は敬語が使えない呪いに掛かっておるのだそうじゃ、許してやるがよい」
「そんな呪いが本当にあるのかも疑わしいでしょう!」
「あんたは?」
「私は公爵が嫡男、ローダン・ダ・ガリーザであるぞ、無礼者め!」
「言葉はともかく、跪く事くらいはできるはずであろう。お前が国に害を為す工作員でないのならばな」
痛いところを突かれたリュー。
そもそも、敬語が使えない呪いというのはリューの嘘である。軽い気持ち、冗談半分だったのであるが、今更そうも言えなくなってしまった。王族に嘘をついた事がバレるのも状況的に良くないであろう。態度も無礼なのは呪いに含まれているなどと今更言いだしてもさすがに嘘くさい。嘘にしないために、言葉以外の部分では従って見せる事が必要になってしまったわけである。
仕方なく、リューは膝をついた。
考えてみれば、ずっと緊急の状況が続いており、王の前で一度も膝を突いた事はなかった。王もそれほど礼儀を気にするタイプではなかったので、その後もずっと立ったままであったのだ。
「……こんな感じかな?」
リューは正式な膝の突き方など知らないので、適当に片膝をついた。
「ふん、まあいい。リュージーンよ、正直に白状するがいい。貴様は本当は赤魔大国のスパイであろう?」
「そんなわけがないだろ……」
「ではなぜ、赤魔大国軍はお前が交渉しただけで撤退していったのだ?」
「交渉ではなく、戦ったのだが…。報告はしたはずだが? 俺は相手のボスと戦い、決着は付かなかったが、相手は被害が大きくなるのでこれ以上やる気はないと言って去っていったのだ」
「つまり、お前一人の強さに敵が恐れをなし逃げていった、そう言うわけだな? そんな報告を信じろというのか?」
「事実なのだから仕方がない」
「そもそも、攻めてきた赤魔大国の正体は魔族、それも吸血鬼であったと報告したらしいが、魔族など本当に存在しているのか?」
「リュージーンよ、何か証拠はあるのか? お前が倒したという吸血鬼の死体はどうした? その後乗り込んだ調査隊が領主の館を調べたが、吸血鬼と思われる死体はなかったと言う報告であったぞ?」
「それは知らない。連中が死体を回収していったのか……あるいは吸血鬼というのは殺すと死体が残らないのかも知れんな。逃げたボスも身体を霧化するスキルを持っていた」
「誤魔化しもいい加減にしろ! 証拠は何もない! 全てコイツの言葉による報告だけ! それを信じろと?」
「俺が殺した魔獣の死体はあっただろう? あの魔獣は、ミムルの周辺では見かけない種類ばかりだった」
「ヴァレードの周辺、国境付近ではたまに見かける魔獣であると報告を受けている。そもそもスパイなら国から魔獣を連れてきていてもおかしくはない。だいたい、お前一人でそんな危険ランクの高い魔獣の大軍を倒したなど、信じられるわけがない」
「リューの実力は本物じゃ、妾はこの目で見て知っておる」
「それは…おそらく本当だ。私も共和国との戦いで、リュージーンの力を見ている。彼ならば、魔獣を一人で一網打尽にしてもおかしくはない」
「……っ、こんな奴が?! とてもそんな強さがあるようには見えないが?」
ローダンは跪いているリューに近づいてきて、リューを眺めながら言った。
「怪しい事に変わりはない! さっさと捕らえて拷問にでもかければ全て白状するだろう、なぜそうしない?!」
「単なる疑いだけで証拠もなく逮捕など……そもそも、彼を捕らえる事などできる者など居はしないだろう」
「それは王宮の騎士団が腰抜けだからではないのか? なんなら公爵家の騎士団を貸してやってもいいぞ?」
「レイナード卿! かつて剣聖と呼ばれた卿も同じ意見なのか?」
「ええ、素直に認めます、リューの強さは【剣聖】など上回っている。リューを捕えられる騎士など居ないでしょうな」
「…嘘だ、おそらくこの男を庇っているに違いない。まさか、剣聖までもがグルだとはな。卿は騎士団長に復帰する前は、リュージーンと同じミムルの街に居たそうではないか?!」
まるでレイナードまでスパイの一味であるかのようなローダンの発言にイラッとしたレイナード。
「…どうしても信じられないなら、試してみたらいいんじゃないですかな? ローダン殿下もなかなかに剣が達者だと聞き及んでおりますが?」
「面白い! 一手お相手願おうか!」
売り言葉に買い言葉の勢いで、ローダンは剣を抜き、リューの眼前に突き出したのだった。
「……え~っと、殺っちゃっていいのか?」
「殺ってしまわれると困るが、軽く相手をしてやるのはよいじゃろ?」
ソフィがレジルドに向かって言うが、レジルドは困ったような顔をして無言を貫いた。
「おい、剣を貸してやれ」
立ち上がったリューに、近くに立っていた騎士が剣を渡す。
「安心しろ、殺しはしない。だが、手足の1~2本は覚悟しろよ?」
その時、リューの瞳が金色に光っていた。
鑑定の結果、ローダンのレベルは……
…34。
冒険者としてはベテランレベルではあるが、リュー相手ではこのレベルではお話にならない。相当手加減しないとオーバーキルになってしまうだろう。
「殺さなければ手足の1~2本は斬りとばしても構わないというルールでいいのか?」
「あ~できればそこまではしないでおいて貰えると助かるかな。治療薬も安くはないのでな」
「治療の心配はいらない、俺が治してやる」
「治癒魔法まで使えるのか?!」
そんなやりとりを聞いていたローダンが怒り、いきなり斬りかかってきた。
「舐めるなぁぁぁぁ!」
だが、空を切るローダンの剣。何度も斬りかかるが、リューに掠りもしない。
十数回も空振りして、すでに肩で息をし始めているローダンであった。
「貴様、逃げ回ってないで掛かってこい!」
ローダンは相手が攻撃してくれば隙ができる、そこを突けば勝てると思ったのだ。
だが……
― ― ― ― ― ― ― ―
次回予告
自信満々の公爵の騎士がリューに挑む!
乞うご期待!
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