第131話 公爵は弟に騙し取られた王位を取り返したい
チャガムガ共和国の侵攻、さらに魔族の侵攻が起きたタイミングで、リュージーンという謎の人物が突然現れ、それをすべて解決してしまった。
ローダンはそれがおかしいと言うのだ。タイミングが良すぎる。
しかも、全てをリュージーンがたった一人で解決してしまったというではないか。
公爵と息子達はリューの戦いを一度も実際に見た事がない。そして、常識的に考えれば、軍隊を一人で退けたり、魔族を一人で撤退させたなど、信じられないのは仕方がないかも知れないが。
そこで公爵の長男ローダンは、実はリュージーンがチャガムガ共和国または赤魔大国どちらかの―――あるいは両方の―――工作員ではないかと考えたのだ。
ローダンは、たった一人で乗り込んで話をつけ敵を退散させたのが何よりの証拠であると言う。(ローダンは一人で大軍と戦って敵を退けたなどという話は信じられなかったので、おそらく交渉で敵を撤退させたのだろうと考えたのだ。)
ローダンは真面目に?リューを疑っていたが、その思惑とは別に、公爵は、息子のどちらかをソフィと結婚させようと考えていた。(これはソフィに惚れていたローダンの希望でもあった。)
そして、そのうち
だが、公爵の弟であるラルゴ王はリュージーンを味方につけておくためにソフィとリュージーンを結婚させる可能性に言及していた。
それは王座を狙う公爵家には看過できない。
リュージーンを排除するため、公爵は、息子が言い出したリュージーンスパイ説に“乗った”のだ。
ジョルゴ公爵は、非常に口が上手い男であった。知恵もまわり、言葉巧みに人を籠絡する。
ただ、本質的には自分の事しか考えていない我が侭な性格であり、王の器ではない。
ジョルゴの本質を見抜いていた前王は国を思い、長男を差し置いて弟のラルゴに王位を譲ったのだ。
だがジョルゴはその事に納得していなかった。ジョルゴは自分が王に向いていないなどとは思っていない。
本来であれば長男である自分が王位を継ぐはずだったのに、弟が言葉巧みに前王を籠絡し王位を掠め取ったと考えていたのだ。
そのため、いつか王位を奪い返してやろうと、ずっと隙を伺っていたのである。
そして
公爵は計画通り、ソフィとローダンを結婚させ、残った最期の王子を失脚させるチャンスを待つ事にした。だがそのために、まずはソフィと結婚する可能性があるというリュージーンなる者を排除する必要がある。そのため、公爵はその巧みな言説を駆使して陰謀説を王宮内に吹聴し始めたのであった。
確かに口が上手いジョルゴであるが、その言葉には真はない。そのため、洞察力のある人間は騙されない―――前王のように。
しかし、どこの世界でも、上っ面の言葉に騙される人間は一定数居る。
特に、人は、欲に目が眩んだ時、判断を誤る。公爵はその相手の欲望を見抜き、刺激するのが上手いのだ……。
公爵は相手の欲しがっているものを見抜き、与えると約束し、あれよあれよと公爵に賛同する者は増やしていった。やがてリュージーンを信じる勢力は王とソフィ、レイナードほか少数という状況になっていたのである。
この公爵派形成ともいえる動きに
レジルドは共和国との戦いでリューが敵を殲滅したのを見ていたため、その実力を知っている。そのため、リューを共和国の工作員だとする陰謀説には否定的であった。
だが、魔族に関してはなんとも言えない。
そもそも、魔族などと言うものを王子は見た事がないのだ。もしかしたら嘘かもしれないと公爵に吹き込まれ、疑念が生まれてしまった。
賢い者は、歴史から学び、与えられた情報から正しい判断をするが、愚か者は、自分の目で見たもの、体験したものしか信じない。
(自分の目で見、体験しても学習しない救いようのない者も居る事を考えれば、体験から学ぶことができる者はまだマシなのではあるが。)
ラルゴ王は情報の真偽を見抜き指示を出せる判断力を持っていたが、レジルドは自分の目で見た事しか信じられないタイプであったのだ。
ただ、レジルド王子は、公爵の陰謀論をそのまま信じたわけではなかった。リューの実力は自分の目で見た事であるので信じられる。
だが、それを知っているが故に、リュージーンの存在を危険だと考えていたのである。
一人で軍隊を滅ぼす力を持つ人間。その力はまるで神のごとし。そんな人間が居たら……もし、そんな人間が我が侭を言い出し暴れ始めたら?
リュージーンを敵に回さないために結婚して王族に取り込んでしまうソフィの案に王は賛成しているようだが、それほどの力がある者が王族となったら、自分が継ぐはずの王の地位すらも脅かされる可能性がある。
王位継承権は自分が第一位であるが、敵に回せば国が滅びる可能性すらある、そんな者が王になると言ったら、誰も止められないであろう。
それでも、その者が良君となれば良い。だが、暴君となったらどうなるか?
「必要悪」と考えていた。うまく制御しながら国を治める事も必要だと考えていたのである。
そのため、公爵とその息子たちが主張した工作員説を否定せず、利用する事にしたのだ。
王は、リュージーンを工作員などとは思っていなかったのであるが、王子と公爵とその息子たち、さらに実務を担っている家臣達に詰められて、その主張を無視できなくなってしまった。
絶対王政の体制の中で、王はそれらを全て無視し、強権発動する事も可能であったが、ラルゴ王は、皆の意見を無視するには人が良すぎたのだ。
ソフィはもちろん反対したが、まだ若いソフィの立場は弱かった。
また、公爵はソフィが騙されていると言い出した。ソフィが若いので騙されやすいと言うのだ。いくらソフィが違うと言っても若いのは事実である。公爵派の家臣達は、そうだそうだ、リュージーンがソフィ王女を誑かし、国王の座を狙っているに違いないと言い募ったのである。
* * * *
突如、スパイ容疑を掛けられたリュージーン。
リューを捕らえて尋問せよと主張するジョルゴ公爵と息子たち。
だが、リューを捕らえる事など誰にもできはしない。それはレジルド王子も分かっている。
とりあえず、リュージーンを呼び出し、
― ― ― ― ― ― ― ―
次回予告
「実力を確かめてやる」
ローダン、リューに挑んでしまう…
乞うご期待!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます