第122話 リュー、ビエロに侵入する

放たれた矢はリューの額に向かってまっすぐ飛んできた。なかなか良い腕である。


だが、矢はリューの前に現れた魔法陣に吸い込まれ消えてしまう。矢はどこへ行ったかと言うと、射手の眼前に浮かんだ魔法陣から飛び出し、射手の額を貫いていた。


一瞬、城壁の上がザワツイたようだったが、数秒後、今度は無数の矢と攻撃魔法がリューに向かって一斉に飛んできた。


矢、火球、風刃、氷槍、一人に向かって放たれるには異様に多い攻撃、その数は100か200か数え切れない。火球が着弾地点で爆発したため爆煙が巻き起こりリューの姿は見えなくなったが、攻撃は構わず降り注ぐ。


やがて攻撃が止む。


風が土煙を拭う。


しかし、


リューは先ほどと変わらず平然とその場に立っていた。


無数の攻撃はリューが張った次元障壁を超えられなかったのである。


次の瞬間、リューの目が光る。そして、城壁の上部に居た兵士たちの上半身と下半身は次元断裂によって全て分断された。


リューの足元に魔法陣が浮かび、リューが消えて行く。もうそれを見ている者は城壁上には居なかったが。





城門の中に姿を現したリュー。


リューは内側から城門を操作し、門扉を開いた。馬に乗った王国騎士団がそれを見て、突入するために駆けて来る。


城門の周囲に居た敵兵は中に入ると同時に瞬殺してしまったので、王国騎士団が到着しても仕事はないが。


リューはさらに城郭内の掃討に入る。


神眼で人間が居る場所を探す。発見したらそこに転移し、警告、攻撃の繰り返しである。


メレディエールの時は、神眼で広範囲をサーチし、捉えた人間を問答無用で切断していったのでそれほど時間はかからなかったのだが、今回は一応退却を勧告する事にしたのだ。素直に退却していく者は見逃してやるつもりである。ただ、都度警告をしながらなので、かなり時間がかかる作業であった。


だいたい、半数は警告に従わずに反撃してくる。そして、その者たちが瞬殺されたのを見た残りの半数は逡巡する。そして何人か、果敢に攻撃を仕掛ける者も居るが、その者達が再び瞬殺されたのを見て、残りの者は慌てて撤退する、そんなパターンが多かった。


警告に従わず、リューに挑んできた者たちは、皆、歴戦のツワモノであったのだろう、中には名のある戦士も居たかも知れないが、リューがその名を知る事はないのであった。


そんな事を繰り返しながらだったので、かなりの時間がかかってしまったが、やがて、街から敵兵の姿はなくなった。街の反対側の城門から敵兵が逃げていくのがまだ見えていたが、放置しておく。


今回、退却・逃亡を許したのは、相手に力を知らしめるためである。


力の差を理解して大人しく退却してくれれば、無益な殺生をしなくて済むかもとリューは考えたのである。まぁそれで本当に軍が撤退してくれるとはリューも思っては居なかったが。





そんなリューの戦いを見ながら、戦慄していた者が居た。第一王子レジルドとバックス将軍である。


たった一人の人間が、城塞都市を攻略して、敵を敗走させてしまったのだ。


一人で軍隊をも圧倒する力。


王子は以前、Sランク冒険者のバットを見たことがあったが、リュージーンの力はそのバットをはるかに凌駕しているように見える。バットがリュージーンに敗れたというのも納得できる。


ひと睨みしただけで敵の命を奪うリュージーンの力。レジルドはその力に対抗する手段がまったく思いつかない。それはまるで神の力ではないか……。一人の人間がそれほどの力を持てるものなのか? 持ってよいのか?


とりあえず、リュージーンが味方で良かった。


確か、ソフィ王女がリュージーンを王宮に迎えたいと言っていたと報告を受けている。王女が平民の冒険者と結婚するなど、何を馬鹿なことをとその時は思ったが、今なら理解できる、ソフィは正しかった。


リュージーンを敵に回したら、その国は滅びる。最愛の妹姫を差し出してでも、味方に引き入れておく必要があるだろう。





リューとしては、このままどんどん進軍して、さっさと終わらせてしまいたかったのだが、取り戻した街を整備し、態勢を整えるのにもやはり数日を要するのであった。


一人で先行してもよいのだが、取り戻した後の街や城を空にしておくわけにもいかない。管理・防備のためのそれなりの人数を置いていく必要があるのだ。


街の整備にリューも収納魔法と転移魔法で手を貸す事にしたので、作業は捗り、作業は恐ろしく短縮できたのであったが。


「アントリ」を奪い返し、ビエロの街まで迫るのに、さらに10日掛かってしまった。


ビエロの街には敵軍が随時兵士・軍備を本国から送り込み続けているので、軍備は相当に充実している。また、撤退していった兵士達から情報が伝わっているので、当然、準備万端で待ち構えていた。


ビエロの街に近づくと、前回と同じようにリューが一人で城門に近づいていったが、おそらくリューと戦わせるためであろう、10人ほどの戦士が城門の外で待ち構えていた。


だが、リューはその戦士たちを相手にせず、今回はいきなり街の中に転移で移動してしまった。


閉ざされた城門の外は少しざわついていたが、街の中の者達は、まだ侵入された事に気づいていない。


街の中には共和国の兵士しか居ない。敵軍が城壁近くまで迫ってきており緊張状態の中である、みなそれぞれに自分の仕事に集中している。そんな状況で、偶ではあったが、魔法陣が浮かびリューが現れたのを見た者は居なかったのだ。


悠々と街の中をあるき始めるリュー。兵士しか居ないはずの街をフラフラとリューが歩いていれば当然目立つ。しかし、こう堂々と町中を歩かれると、許可を得て入ってきているのだろうと思うのか、特に騒ぎも起きないのであった。


だが、指揮官か憲兵であろうか、街の中を忙しく動き回っている兵士達の中で、じっと動かず様子を見ている者が居た。その憲兵は、リューに違和感を感じ、声をかけた。


「おい、お前、どこへ行く? 所属は?」


「俺はリュージーンだ。将軍か、指揮官に会いたいんだが、どこに居る?」


「将軍は城の司令室に居るだろう」


「ああ、そりゃそうか」


「というか、お前、何者だ?!」


だがリュージーンの足元に魔法陣が浮かび、姿が消えていく。


そこでやっと侵入者だと気づいた憲兵が騒ぎ始めた。


「侵入者だ! 城内に入り込まれているぞ!」


慌てて外で待っていた戦士達を呼び戻して対応するよう命じるが、リューは既に城の中、司令室の近くを歩いていた。



― ― ― ― ― ― ― ―


次回予告


リュー、敵軍の将と対峙す


乞うご期待!




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