第123話 ビエロ奪還

リューは城の中に入ると、神眼を発動、城内の構造と人間の位置を確認した。


落ち着いて探査すれば肉眼で見ているように、否、それ以上、精密な計測器で測定するように詳細な情報を取る事も可能なのであるが、それを行うにはそれなりの集中力と時間を必要とする。


一応、侵入者の身なので、大ざっぱに位置だけ素早く確認する。すると、大きな魔力を持った者たちが居る部屋を見つけたので、リューはそこに転移してみた。


予想通り、そこが司令室であっていたようである。


ちょうど、侵入者があり、外に出た戦士達を呼び戻す指示を出したという報告を受けていた所であった。


「簡単に侵入を許すとは、見張りは何をしていたのだ!」


「いや、報告によれば、転移魔法を使うという事だった」


「転移魔法など実在するのか?」


「信じられんが、実在するとしたら、侵入を許してしまったのも……ん? 誰だお前?」


「話題の侵入者、かも?」


部屋の中には5人の男が居た。4人は地図を広げた大テーブルを囲み、一人は奥にある立派な机に座っている。四人が各方面の指揮官で、奥に居るのが総司令官というところか。


いつの間にか部屋の中に居たリューに気づいた男達は、即座に剣を抜こうと腰に手をやった。しかし、そこにあるべき剣はない。リューが収納してしまったのである。


奥に座っていた男が言った。


「何が目的で来た? その気になれば不意打ちもできたはず。そうしないのは、何か目的があるのだろう?」


「あんたは?」


「私はジャリグ将軍、この軍の総司令官だ」


「そうか、俺はリュージーンだ。ここに来たのは撤退を薦めるためだ。逃げてきた兵士達から聞いているだろう? 抗っても無駄に死人を増やすだけだ。諦めて国に帰ったほうがいい」


「ふん、そう言われて、はいそうですかと撤退できると思うのか?」


「まぁ、無理だろうな。だが、形勢がいよいよ不利となったら、全滅する前に撤退する判断を早めにしろ、と言う忠告だ。それをしないのは、全滅を選択すると言う事でしかない。それでも俺は構わんがな」


「きさま、舐めた口を聞きおって……お前一人で何ができるというのだ?」


「俺一人で街3つ奪還したが?」


生意気な事ばかり言うリュー。男達はリューを攻撃したかったが武器がない。素手で襲いかかるか? 相手は一人だ、素手でも十分捕らえられるだろう。


だがそこにタイミングよく一人の兵士が入ってきた。


「報告します! 侵入者ですが、どこにもはっけ……」


一番近くに居た隊長が素早く反応した。入ってきた兵士の腰から剣を抜き取り、リューに斬りかかったのである。


だが、剣はリューに当たる前に再び消えてしまう。空振りした男に向かってリューは一歩踏み込むと、男の胸に手を添え強く押した。


リューの膂力で突き飛ばされた男は壁に激突して気を失う。


残りの男3人が一斉にリューに飛びかかる。


軍事国家で隊長を務めるほどの者達である、素手の戦闘でもそれなりに自信がある。見た目はひ弱な少年にも見えるリューに負けるはずがないと思ったのだ。だが、次の瞬間には、全員壁に叩きつけられ、動かなくなっていた。


「懸命な判断をする事だ」


そう言うとリューは、ジャリグ将軍を連れて建物の外に転移した。


「そう言えば、俺を歓迎するために何人か用意してくれて居たようだな? ソイツらを集めるがいい。相手をしてやろう」


将軍は生まれて初めての転移体験に動揺していたが、リューの言葉を受け近くに居た兵士に戦士たちを呼んでくるよう指示した。


やがて、10人の戦士が広場に集められる。


戦士の一人が尋ねた


「将軍、その者は?」


「侵入者だ……」


「!」」」」」


「こいつを殺せ!」


将軍が命令する。


だが、集められた10人の戦士達は、誰もその号令に反応しなかった。既に全員、首と胴体を切り離されていたためである。


チャガムガ軍の精鋭の戦士10人が一瞬で抹殺されてしまった。


リュー 『これから、お前達、チャガムガ軍を殲滅する。命が惜しい者は退却するがいい。逃げて行く者は見逃してやる。向かって来る者は命を失う覚悟をせよ!』


街全体に声を響かせたリューは、将軍に向かって言った。


「将軍、なるべく早い段階での賢明な判断を期待する」


リューは周囲に居た兵士達に近づいていく。慌てて剣や槍を構える兵士達。だが次の瞬間にはリューによって命を刈り取られていく。


離れた場所から弓兵が矢を放ったり、魔法職の兵士が攻撃魔法を放ったりもしたが、たとえ近くに居なくとも結果は同じであった。


ひと睨みするだけで兵士達は次から次へと身体を二つに切り分けられていく。全身鋼鉄の鎧で覆われた兵士も居たが、何も着ていないかのように両断されてしまう。そのわざはまるで死神が鎌を振るうかのようであった。


いつの間にか将軍は姿を消しており、広場には兵士が集まって来た。総力を以ってリューを殺せと将軍が全軍に指示を出したのであった。


次々リューによって殺されていく兵士達。あっという間に身動きできないほどに兵士の死体で広場が埋まっていく。それでも兵士はさらに押し寄せてくる、切りがない。


リューは将軍が広場を見渡せる建物の最上階に居るのを発見し、そこに転移した。


「力の差が分からないのか?! なぜ退却命令を出さない!?」


「……このまま戻っても、作戦失敗の責任を取らされて処刑されるだけだからだ……逃げ帰ったとなれば、家族まで処刑される。だが、戦死なら家族は許されるだろう」


「……兵士達もか?」


「兵士達も同じだ。それが分かっているから、チャガムガの兵士は誰も引く事はないぞ」


「ならば、降伏して捕虜になればいいだろう」


「ダメだ……捕虜になった事が国に伝われば、家族が殺される」


「……家族の居ない兵士だって居るんじゃないのか?」


「そういう者達はとっくに逃げ出しているさ。残っている兵士達は、戦って勝つか死ぬかしか選択肢がない者だけなのだ……」


チャガムガ共和国は奴隷と軍人しか居ない酷く封建的な国だとはリューも聞いてはいたが、想像以上の酷さのようだ。


どうしたものかとリューが思案していると、不意をついてジャリグ将軍が剣を抜きリューに襲いかかった。


しかし、剣を持つ手はリューに止められ、次の瞬間には将軍の首が胴体から切り離されたのであった。


    ・

    ・

    ・


一応念の為、リューはもう一度、街中に声を響かせ、投降を呼びかけてみた。


死にたいものは中央広場に来い。だが、降伏して捕虜になる事を選ぶ者は、武器を捨て、城門の外に出ていろ、そうすれば命の保証はする、と。


その呼びかけで数十人ほどが城門の外に出たが、残りの兵士はほとんどが広場に向かいリューに武器を向けたのだった。


どれだけ仲間が殺され、勝てない事が思い知らされようとも、万が一の可能性に賭けてリューに挑むしかない、家族を人質に取られている悲しい兵士達……。


かわいそうだとは、少しは思うリューであったが、引いてくれないのだからどうにもならない。


やがて数刻が過ぎた頃、城内に生きている者は誰も居なくなっていたのだった……。


リューが城門を開けると王国軍が城内に入ってくるが、城内には死体が溢れ、不気味な静けさが漂っているだけであった。



― ― ― ― ― ― ― ―


次回予告


要塞を取り戻し、後は軍に任せて王宮に戻ったリュー。だがそこには予想だにしなかった出来事が待っていた…


乞うご期待!



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