第121話 メレディエール奪還

リューは魔法陣の中から剣で胸を貫かれた大男を引きずり出してみせる。


男の全身が “こちら側” に引き出されると、魔法陣は縮みながら消えていった。


「ぐ……お……?」


男は一瞬目を見開いて周囲を見たが、すぐに目の光は失われ、倒れて動かなくなった。


「そいつは……!」


「どうだ? 適当に偉そうな奴を選んだんだが」


「指揮官ではないな」


「そ、そうか」


ちょっとがっくりするリュー


「立派な椅子に座って偉そうにしてたから、コイツが指揮官そうなのかと思ったんだがな……」


だが、様子を見ていた隊長の一人が叫んだ。


「そいつは敵軍の切り込み隊長をしていた奴だ! その男に多くの兵士が殺された」


「化け物のような強さだった…、それをアッサリと……?」


恐る恐る死体に近づいて確認する隊長達。それを横目に王子が尋ねた。


「…お前のそれは……魔眼、いや、千里眼か?」


まだ微かに光り続けているリューの瞳を見てレジルドが言った。


「千里眼? たしか、Sランク冒険者のバットとかいう者がそんなスキルを持っていたな?」


「そうだ、バットは数十キロも遠く離れた敵を、千里眼で見通し、射殺いころしてしまう事ができた。彼が協力してくれれば戦況は相当有利になったであろうが」


「バットはどうしているのだ?」


「冒険者ギルドには協力依頼を出したのですが、バットは居なくなったとの返答でして」


「居なくなった?」


「死んだとか、田舎に帰ったとか、色々噂が出ているようですが……」


「バットなら俺を襲ってきたので返り討ちにしたぞ。殺しちゃいないが、冒険者は辞めて田舎に帰ると言ってた」


「何? Sランクの冒険者を倒しただと……いや、バットと同じような能力を持つならありえない話ではないか。それに先程の魔法陣、能力はそれだけではなさそうだな」


「千里眼は私も知りませんでしたが、彼は空間転移が使えるそうです」


「転移だと?! 伝説に名前だけ残っている魔法ではないか……実在したのか?」


「私も信じられませんでしたが、現にここまで転移で一瞬で連れてこられましたので……」


「目の前に敵の隊長を引っ張り出して見せられたのだ、信じるしかなかろう。なるほど、少年に手伝ってもらえば、戦局をひっくり返せるかもしれんな!」


「手伝うというか、オレ一人だけでいい。手を出さんでくれ、巻き込まれて味方を死なせたくないだろう? 俺が敵を全滅させるから、あんた達は街を取り戻した後、守りを固める事に専念してくれ」


そう言ったリューの足元に魔法陣が浮かび、リューが消えてしまった。


しばらく呆然としていた第一王子レジルドと将軍達


「えっと…彼は何処に行ったんだ?」


「……敵を倒しに行った、とか?」


「一人でか?」


残された者達はどうしたらいいのか困ってしまう。


王子たちはとりあえず、リューの事は忘れて通常業務に戻る事にした。


戦力の確認と再編、情報収集と整理、次の作戦の立案……やることは山ほどある。突然現れたイレギュラーな人物の気まぐれに付き合っている時間はない。


だが、小一時間ほどでリューが戻ってきて言った。


「敵を全滅させてきたぞ」


「「「「は?」」」」


「なんだ、何も準備していないじゃないか、街に乗り込む準備をしておけと言っただろ?」


「全滅させてきた、と言ったか?」


「ああ、隣の街、メレディエールと言ったか? 王国民は全員避難済みだって事だったからな、城郭内に居た人間は全員殺してきた」


「敵は千人規模だったはずだぞ!? それを小一時間で一人で全滅させたなど、ホラを吹くのもいい加減にしろ!」


「証拠を出そうか?」


司令室の中に魔法陣が浮かび、身体を両断された遺体が次々現れ山積みにされていく


「ここには入り切らんな、外に出すか」


「待て待て! 分かった! やめろ!」


室内に血の臭いが充満する。バックスは慌てて、兵士たちに死体を運び出すよう指示した。


「本当に…全員殺したのか……?」


「ああ、連中も命令されてやっているだけなのだろうが、侵略戦争に加担したのだ、仕方あるまい。生まれた国が悪かったな」


「全員鎧ごと両断されているが、どうやったのだ?」


「転移魔法の応用技だ、物質を半分だけ別の空間に切り離してしまう。次元断裂と俺は呼んでいるが」


「……そ、そうか……凄いな」


「とりあえず、今メレディエールの街は空っぽの状態だ、死体がアンデッド化する前に、とっとと乗り込んで防備を固めるがいい」


その後、大慌てて王国軍は移動を開始した。ダンカリーとメレディエールは50kmほど離れている。馬を飛ばせば2~3時間の距離である。とりあえず騎士達が馬に乗って街に向かい、状況の確認と最低限の防御体勢を整える事となったが、全軍の移動完了には2~3日掛かると言う。


「移動に時間が掛かるなぁ、仕方がない、手伝ってやろう」


リューはダンカリーに残り、準備のできた隊を順次、メレディエールの城門前まで転移させていく事にした。


こうして、全滅した事をチャガムガ共和国軍に気づかれる前に、メレディエールを取り戻すことに成功したのだった。


「移動に時間が掛かるのは計算外だったな。次は先に移動を開始しておいてもらうか」


奪い返した街を整備し、防備を固めるのにも時間がかかる。リューが思ったほどサクサクと奪還作戦は進まない。


数日待たされたが、最低限の街の防備態勢と次の街の占領作戦の準備ができたので、ようやっと先に進む事にした。


王国軍はブライルの近くまで進軍してきた。メレディエールを押さえていると思い込み安心していた共和国軍の抵抗は特になく、あっさりブライルの城壁が見えるところまで進軍を完了する。


そこでリューは行軍を止めると、一人でブライルの城門に向かって進んでいった。


無駄だと思うが一応、降伏勧告をしてみる。


『メレディエールに居たお前たちの仲間は全滅した。これからお前たちを攻める、命が惜しくば街を捨てて撤退しろ』


空間魔法で街中に声を響かせる。しかし、はい分かりましたと敵軍が撤退するわけもなく。リューに向かって城壁の上から矢が飛んできたのであった。



― ― ― ― ― ― ― ―


次回予告


快進撃! ついに国境の街ビエロに


乞うご期待!



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