第120話 今、敵の指揮官ぽい奴を殺した

「いや、兄たちは王族の責任を果たしただけじゃ、リューのせいではない」


「リュージーン殿は、まるで一人で戦争を終わらせる事ができるような物言いだが、戦争は、そんな甘いものではありませぬぞ。まぁ、思ったような結果がでずとも安心されよ、さすがにそこまでの期待は誰もしておりませんでな」


「いや、リューなら一人で戦況をひっくり返せるんじゃないか?」


「やってみなければ分からないが、おそらくオレ一人で十分だと思う。戦線は今どの辺りなのだ、地図を見せてくれるか?」


地図を見ながら神眼を発動し、自分が転移する前線の位置を把握したリューは、


「レイナードは残って王宮の護衛をしていてくれ」


と言うと、そのまま転移を発動し、消えていった。


「あ……行っちまった……なんの指示も説明もなくいきなり乗り込んでどうする気だ……?」




   *  *  *  *




ガリーザ王国とチャガムガ共和国の国境には非常に険しい山脈が横たわっており、両国を繫ぐのは一箇所、峠道があるのみである。


まるで巨大な岩山に一箇所だけ切り込みを入れたようなその峠を塞ぐようにビエロの街の城壁は建てられている。


チャガムガ側からその切り通しまで通じる道も狭く、大軍が通過する事はできない。無理に少数で進軍すれば、道を塞ぐように建っているビエロの城壁から、逃げ場のない狭道で攻撃を受ける事になるのだ。


天然の地形を利用した要塞であるビエロの街がその防衛機能をしっかり維持していれば、チャガムガ共和国から攻められる事はないはずであった。


だが、そのビエロ防衛の監督指揮を任せていたはずの第三王子ハリスが、事もあろうにチャガムガと通じ、無抵抗でビエロを明け渡してしまったのだ。


チャガムガ軍はボトルネックとなっている峠道を無傷で通過、兵士をどんどんビエロの街に送り込み、軍備を整えたのである。





魔獣が闊歩するこの世界では、人間の国はいわゆる“城郭都市”が50~100kmほど離れて点在する形で成り立っている。


戦争になると、城郭都市の奪い合いによる陣取り合戦となる。


高い城壁で覆われた都市を攻略するのは難しい。攻撃側は守備側の4倍の戦力が必要だと言われている。だが逆に、一度攻め落とされ城塞が敵の手に落ちてしまうと、そこを取り戻す事も容易ではなくなるのである。


「ブライル」が、準備不足であっさり奪われてしまったのだった。


遅ればせながら到着した第四王子マリム第五王子トリム率いる援軍は、奪われた街を取り返そうと少ない戦力で拙速に攻撃を行ったが失敗。戦力を消耗したところを打って出てきたチャガムガ軍の猛攻に遭い、敗走する事となってしまったのだった。


チャガムガ共和国は軍隊をビエロに送り込み続けている。戦力が整い次第、次の街へと攻撃を始める。このままできる限りガリーザ王国の領土を削りとってしまおうと言う考えなのであろう。


「メレディエール」まで撤退した第四王子マリム第五王子トリム達であったが、それを追撃してきたチャガムガ軍はそのまま進軍を続け、メレディエールを攻撃してきた。


チャガムガは相当前から準備を進めていたのであろう、攻城兵器も多数用意されており、急造の防衛軍と準備不足の街の防衛力では抵抗が難しかった。(国境に面しているわけではないメレディエールは軍隊の攻撃に備えた設計となっていなかったのである。)


「ダンカリー」まで撤退を余儀なくされたのであった。


「ダンカリー」の街で遅れて合流してきた第一王子のレジルドを指揮官として態勢を立て直そうとしている所であった。




   *  *  *  *




ダンカリーの街の少し手前の街道上


地面に魔法陣が浮かび、リューが現れた。


いきなり城の中に転移して驚かせてしまわないようにと配慮したのだ。


ダンカリーの街の門へ近づいていくリューに気づいた衛兵が声を掛けてきた。


「ん? 誰だお前? 突然現れたように見えたが」


「俺はリュージーン。戦争を終わらせに来た」


「!? 敵襲だ!! 出合え! 出合え!」


「ちがっ、ちょ待っ…!」


戦時中の厳戒態勢で、あっという間に城内から兵士たちが出てきて取り囲まれてしまった。


「落ち着け! 俺は敵じゃない!」


「じゃぁ何者だ! 身分証明書はあるか?」


「商業ギルドの身分証明書ならあるが……」


「商人か? 何の用だ? 物資でも売りつけたいと言う事か?」


「王女に頼まれて、チャガムガ軍を撃退しにきたんだよ、指揮官に会わせてくれるか?」


「貴様のような若造が、敵軍を撃退だと?! 王女に取り入って武器でも売りつけに来たのか? そうじゃない? 戦争に参加する? お前みたいな細っこいガキが大丈夫か? まぁいい、国の危機に手伝いたいと言う姿勢は立派だ。軍に参加するなら詰め所で手続きをしろ」


戦況を確認したかったのだが、全然話が通じない兵隊達。指揮官に会わせろと言っても全然とりあってもらえず、一兵卒として参加手続きをさせられそうになった。


何の準備もなくいきなり来てしまったのは失敗だったとやっと気づいたリューであった。せめて王に命令書でも用意してもらうべきであった。


「仕方ない、説明できる人間を連れてこよう」


面倒になったリューはそう言うと転移で再び王宮に戻り、宰相を問答無用でひっ捕まえて、また転移でダンカリーの街に戻った。


いきなり宰相だと言われても末端の警備兵は懐疑的だったが、やがて宰相の顔を知っている指揮官クラスが呼ばれ、やっと話が通じた。


宰相に説明してもらい、なんとか第一王子レジルドと指揮官達に会う事ができたのであった。


    ・

    ・

    ・


臨時司令室


レジルド王子とバックス将軍、そして各隊の隊長達が集まって作戦会議の最中であった。


「で、このリュージーンという少年に、一人で敵軍を撃退する力があると?」


ジト目で宰相と話す王子。


レジルドはこの国の第一王子であり、ソフィの兄であるが、ソフィよりはかなり年上の中年男性であった。


レジルドから見れば、まだ一七歳の童顔のリューは少年と言われても仕方がないだろう。


「既に大勢の兵士たちが死んでいる。わざわざ宰相自らくだらん冗談を言うために前線まで来たのか? 戦争の事は専門家の我々に任せてもらおうか」


「まぁ、待て。宰相がそこまで言うのだから、それなりに力はある少年なのだろう。それに国のために戦ってくれるというその心意気は買う。少年、リュージーンと言ったか? 軍に兵士として参加し、その力を発揮してくれ。ただ、戦は宰相が考えるほど甘いものではない、覚悟してかかってくれよ。おい誰か、案内してやれ。さぁ、将軍、作戦会議の続きだ」


レジルドも、リューを適当にあしらって相手にする気のない姿勢であった。


「まぁ、実力を示さんと納得しないのも当然か。なんなら今すぐこの場で敵軍の指揮官を討ち取ってみせようか?」


何を言ってるんだ? と馬鹿にしたような顔をした指揮官達であったが、リューの瞳が金色に強く光り、空中に小さな魔法陣が浮かんだのを見て言葉を飲み込んだ。


いつの間にかリューが抜身の剣を握っているのに気づき、緊張感が走る。周囲にいた兵士が慌てて剣に手を掛ける。


だが、リューは握っていた剣を魔法陣に突き刺した。剣は魔法陣の中に吸い込まれ先が見えなくなる。


「今、敵の指揮官ぽい奴を殺した」


「「「「?」」」」


「ほれ」


リューが魔法陣を指で弾くと、魔法陣が大きく拡大していく。


リューはその魔法陣に手を突っ込んだ。



― ― ― ― ― ― ― ―


次回予告


メレディエール奪還


乞うご期待!



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