第111話 なんだか様子がおかしいノジャ娘

「そうだな、戻ってくると言ってたが、やはり戻れないのか?」


「そうですね、私は王女ですから、やはり冒険者などしていてはならないと、王城に戻ってから思い直したのです」


「そうか、まぁ、そりゃそうだろうな。マリーとベティ、アリス達はどうしている?」


「彼女達は実家に帰らせました」


「なんでだ?」


「特に理由はありませんわ、ただの人事異動です」


「ソフィ、何か、雰囲気が変わったか?」


「そうですか? 何も変わっていませんよ?」


「話し方も違う、お前、前は“のじゃ娘”だったじゃないか?」


「だとしたら、王族として、これまでのように奔放に生きていてはいけないと、考えを改めたからかも知れませんね。……のじゃ」


「またとってつけたような『のじゃ』だな。無理につけなくてもいいんだぞ?」


「では、のじゃはなしで」


「…? のじゃのほうが自然だったんじゃないのか? 俺に対しては気を使う必要はないんだぞ?」


「いえ、王族らしい話し方にを心がけている所なので、戻してしまうと直すのが大変なので」


「そ、そうなんだ、まあいいけど……。そうか、まぁ、王族が王族としての仕事に真面目に取り組むのは良い事なんだろう」


「先程は、ギルが失礼な態度を取り、申し訳ありませんでした」


「それだ、俺が王都まで来たのは、俺を捕らえるよう王宮から指示が出ていると聞いたからなんだが」


「そうですか」


「知ってるか?」


「はい」


「……? ギット子爵の件は、ちゃんと説明してくれたんだよな?」


「話していません」


「なぜだ?」


「王宮には、報告ひとつでも、色々としきたり、手順があるのです」


「シキタリに、手順ねぇ……」


「ギット子爵の件は、裁判の時に全てお話するつもりです」


「裁判?」


「リュージーン、あなたの裁判です。出廷して頂けますよね?」


「……王族としてのしがらみって奴か?」


「そうです、私の顔を立てるためと思って、どうかお願いします」


「……分かった」


「では、自分から裁判に出頭してもらいたいのですが。本来なら裁判の前に身柄を拘束するのが普通なのですが、あなたを捕らえる事はできないでしょうから、それは免除いたします」


「……まぁ、いいがな。裁判はいつなんだ?」


「それは追って連絡いたします」


「どうやって?」


「それでは、冒険者ギルドのマスターに伝えておく事にしましょう」


「…バンクスか?」


「それでは、また裁判でお会いしましょう」


そう言うと、ソフィは席を立ってしまった。


部屋を出ていくソフィ、しかし、扉の所で振り返ったソフィは


「のじゃ」


と一言、呟いて出ていった。その時に見た笑顔は、ミムルで見たのじゃ娘の時のソフィの顔であった。


残ったメイド達がいそいそとお茶を片付け、そのまま出ていってしまい、リューは部屋に一人取り残されてしまった。


待っていてもそれ以上何も起きる事はなかったので、仕方なく部屋を出て戻る事にしたのだった。


城を一人歩き、出ていくリュー。


城というのはもう少し活気があるところを想像していたのだが、不気味なほど静かであった。


結局、リューは城門を出るまで、誰にも会うことはなかったのだ。


ソフィも、妙に冷たく余所余所しい態度であった。だが、王宮というのはそういうところなのだろう、王族というのも、それはそれで大変なのかも知れないと納得する事にしたリューであった。


王城を出た後、尾行してくる者があった。おそらく監視役なのであろうが、ずっと見られているのもあまり気分が良くないので、路地に入った瞬間に転移で移動して撒いてやった。しかし、宿に戻ると見張りが再びついた、まぁ仕方がないのかもしれない。





裁判の日程が分からないので、翌日、冒険者ギルドを再度訪れたリュー。


ソフィは冒険者ギルドのマスターに伝えておくと言っていた。まさか、ミムルの冒険者ギルドに伝えるという事はないだろうから、王都の冒険者ギルドのバンクスで良いのだろう。


バンクスを訪ねてみると、なぜか会ってはもらえなかったが、裁判については受付嬢ミレイに伝言されていたので事足りた。期日は三日後、王城の近くの裁判所で裁判が行われるということであった。


冒険者ギルドに行く途中で尾行は撒いてやったが、出るとまたいて来たので、また路地の死角に入り、撒いてやる。路地を曲がるたびに焦って走ってくる追跡者であるが、間に合うわけがない。


裁判までまだ時間があるので、リューは暇つぶしに再び街をぶらついたが、その度、尾行がついてくるので、度、撒いて遊んでやるリューであった。少し意地が悪いが、微妙に現在の状況(ソフィの態度)が気に入らなかったため、八つ当たりのようなものであった。尾行役に任命された者は大変であっただろう。


そうこうしている内に、裁判の日がやってきた。



  *  *  *  *



裁判所の敷地に入ったリュー。


建物に入る前に、再び騎士達に囲まれた。


「リュージーンだな?! 拘束させてもらう! 大人しくしろ!」


「俺は裁判に出廷しに来ただけなんだが?」


「裁判所に入る前に武器は没収する!」


「武器は持ってないがな?」


両手を挙げ、丸腰である事をアピールするリュー。武器は全て亜空間収納に入っているのだが、そこは明かす必要はないだろう。


「よし、拘束しろ!」


「必要ないよ」


リューは建物の入口に向かって歩き始めた。


慌ててリューを取り押さえようとする騎士達。


だが、リューに近づいてきた騎士は皆、意識を失って倒れていくのだった。リューが離れていくとすぐ意識を取り戻すが、リューの5m以内に近づくとまた意識を失うことになってしまうため、どうにもできないのであった。


「隊長、どうします?」


「えーい、仕方がない、そのままでいい。被告人席に案内しろ」


騎士達は諦めて、そのまま場内へ案内する事にしたのであった。


― ― ― ― ― ― ― ―


次回予告


リューは裁判を受けてみる


乞うご期待!



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