第112話 裁判? 茶番? リュー自重解除?

騎士達について建物に入ると、中はすり鉢状の階段席になっており、結構客席には人がいた。


リューはアリーナ部の中央に立つように言われたので従った。


すると、正面側の階段席上部に、年寄りが入ってきた。その後にソフィ王女も続いている。


その老人が、裁判長であるようだ。


老人がハンマーをテーブルに打ち付け、裁判の開始が宣言された。


「これより、ギット子爵殺害事件の裁判を行う」


「その前に、被告はなぜ拘束具を着けておらぬのか? 王族・貴族が多く立ち会うこの場において、犯罪者を拘束せずに放置する事は許されない。直ちに拘束具を装着させよ」


騎士の隊長がギルになにやら耳打ちしている。


「それが、拘束具をつけようとしても被告が抵抗いたしまして」


「拘束具を拒否するのであれば、裁判は開廷しない」


ギルがソフィになにやら耳打ちしているのが見えた。その後、ソフィが言った。


「リュージーン。この場に居る間だけでも、拘束具を着けよ。そなたの身の潔白を証明するための裁判でもあるのだ、開廷されないのではいつまでも話が進まぬぞ」


拘束具を持った騎士が恐る恐る近づいてきた。


持っているのは、以前トッポ男爵に嵌められた事のある、魔力を封じる手枷であった。


リューは肩を竦め手を差し出す。ほっとした表情で騎士がリューの手首に枷を嵌めた。


ギルがニヤッと笑ったのが目に入り、リューはギルを睨みつけた。


「それでは裁判を開始する。被告である、平民の冒険者リュージーンは、トロメの領主であるギット子爵の屋敷に押し入り、これを殺害し、また屋敷の者達をも全て殺害せしめ、屋敷の金品を奪って逃亡した嫌疑が掛けられておる。


捜査に当たった騎士隊からの報告を我々はよく吟味した。その結果、被告の罪状は明らかであると判断した。


よって、リュージーンは有罪、断頭台による公開斬首刑とする」


いきなり有罪を言い渡され、死刑が宣告されてしまった。


リューは思わずポカーンと口を開けて放心してしまう。申し開きをするのではなかったのか? またソフィ王女の証言は???


多少は不利な進行をされる事は予想していたが、ここまで一方的に断じられるとは思わなかった。これでは裁判とは呼べないではないか。


裁判長はさらに続けた。


「既に裁判が終わり有罪が確定しているソフィ王女のメイドであったマリー・ベティ・アリスの三名も、被告人と同日に斬首刑を執行するものとする」


「はあ?!」


思わずリューは大声を出した。


「被告は勝手に発言しないように。裁判は終了である。被告は刑の執行まで牢に繋いでおくように」


裁判長は立ち上がり、退室しようとした。


「ちょ待てよ!!」


リューが叫ぶ。


しかし裁判長は無視してそそくさと立ち去ろうとする。


だが、急に裁判長が立ち止まり、その場に立ち尽くしたまま、動かなくなった。


いや、裁判長は必死で身体を動かそうとしているが、身を僅かに悶えさせるだけで、身動きできないでいるのであった。


リューが次元障壁ですっぽりと覆い、裁判長の動きを止めたのである。


「こちらの言い分も聞かずに、勝手に退室されては困るな」


「で……では、特別に、被告人の発言を許可する……」


裁判長はどう頑張っても身動きできないので諦めて、リューの要求を飲む事にしたようである。


「ギット子爵は若い女性を大量に誘拐して虐殺していた変態だ」


「被告人に警告しておく、貴族を侮辱するとさらに不敬罪が追加されれる事になるぞ?」


「いいから聞け。ミムルの街からもたくさんの被害者が出ていた。俺はそれを捜査するために屋敷に乗り込んだだけだ。それも忍び込んだわけではなく、ギット子爵の使いであるトッポ男爵に逮捕連行される形でな」


「そのような報告は捜査資料には記載されておらぬ」


無視してさらにリューは続けた。


「ギット子爵はソフィ王女を殺そうとした。そのためやむを得ずギットを捕らえたのだ」


「ではなぜ、王都に連れてきて裁判にかけなかったのだ?」


「それは、その場で処刑する事をソフィ王女が許可したからだ。全てはその場に居たソフィ王女が知っているはずだ」


「ほう。ソフィ王女、今の被告人の発言は、本当の事ですかな?」


「は……い、い、いいえ、私は知りません。私はギット子爵の屋敷になど行っておりません。私はそこに居る被告人と面識はアリマセン。平民の冒険者ト、私ガ、行動ヲ共ニ、スル事ナド、アリエナイ事、デス」


ソフィの発言に驚くリュー。だが、そう言いながら、ソフィの頬に涙が伝ったのが見えた。


何かがおかしい。リューは神眼を発動し、ソフィの心を覗いてみる。心の中には苦しみと悲しみ、そして激しい怒りが満ちていた。だが、何か強力な強制力が働いており、必死に抵抗しているがその力に抗えない状態のようである。


さらに、リューの神眼がソフィの首に嵌っているネックレスから強力な魔力が発せられ、ソフィの身体を支配しているのを見出す。一見、華美な宝飾が施された装飾品の首輪にしか見えないが、何らかの魔道具である事は間違いない。


「それか……」


先日ソフィに会った時に、神眼を使っていれば、もっと早く気づけたかもしれないが、リューは親しい友人・知人相手には、会うたびいちいち心を覗いたりはしないようにしていたのだ。それが仇となった。


先日会った時、多少様子がおかしいとは思ったものの、王城という場所で、王女らしいドレスを着てかしこまった話し方をするのは仕方がない事なのかな? と納得してしまっていたのだ。


リューは空間断裂を使って、ソフィの首に嵌っている首輪を切断する。


首輪が床に落ちると同時に、ソフィも崩れ落ち、膝を突いた。


だがすぐに立ち上がると叫んだ。


「その者の言っている事は本当じゃ! ギット子爵の処刑は私が許可した! ギット子爵の犯罪は目に余るものであったため、その様に判断した。リュージーンは無実であ……」


だが、突然ソフィは崩れ落ちた。いつの間にかソフィの背後に現れた騎士が電撃の魔法スタンでソフィを気絶させたのだ。その後ろからギルが現れて言った。


「王女は少しお疲れでご乱心されたようだ。裁判長、錯乱状態の王女の発言は記録から削除するように」


「御意」


「どうやら……


力づくで解決するしかないようだな。


ここまで付き合ってみたが、いい加減、茶番は終わりにしよう」


「魔封じの手枷を嵌められた状態で、お前に何ができる?」


「これが何だって?」


リューは手枷をアッサリと引きちぎって見せたのだった。


それを見たギルの顔が引き攣る。



― ― ― ― ― ― ― ―


次回予告


リューが裁判所で大暴れ


乞うご期待!



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