第108話 リューを罠に嵌めようとするバンクス
王都のギルドマスターバンクスは、執務室で一人、今後の事をどうするか考えていた。
リュージーン捕縛依頼については、未だ依頼失敗を依頼者に報告していない。
雷王達が報告する前にリュージーンに会ったほうがいいと言っていた。彼らは口を揃えてリュージーンとは敵対しないほうがいいと言う。だが、捕縛依頼を受けてしまった時点で恨まれている可能性は高いだろう。
ただ、受付嬢のミレイの話では、訪ねてきた少年は、特に暴れるでもなく、紳士的な態度で話がしたいと言っていたそうだ。
もしかして、それほど敵意はないのではなかろうか?
だとしたら、うまくすれば、味方に取り込めるかも知れない。むしろ、本当にそれほど優秀な冒険者であるならば、王都の冒険者ギルドに所属してもらえれば……
Sランク冒険者のバットが事実上引退という状況で、新たに優秀な戦力が取り込めるならそれに越した事はない。
Sランク冒険者というのは、ギルドの、否、その街を代表する顔となるくらい、重要な存在なのである。
確かFランク冒険者であったはず。なぜそんな実力者がFランクのままだったのか事情は知らないが、ミムルのギルマスには問題があったという報告も上がっているらしいから、その関係なのだろう。
ならば、早々に試験を受けさせて、飛び級でBランク、いや実力次第ではAランクまで昇格させてやると言えば飛びついてくるかもしれない。実力が本物であるなら、その後の活躍によってはSランク昇格もあり得る。
いやいやいや、落ち着け、ダメだ。
そんな事をすれば依頼者は納得しないだろう。
依頼に失敗した事実は、その通り報告するしかないが、王宮に目を付けられているような危険人物なのだ。中に引き入れたら何が起きるか分からないし、王宮と関係を悪化させる事は避けたい。冒険者ギルドは国とは独立した組織であるとは言え、やはり所属する国の意向には気を使うのだ。
そんな事をとりとめもなく考えていたところ、受付嬢が部屋をノックした。
再びリュージーンが現れたと言う。
緊張感を増すバンクス。
「通せ!」
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・
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なんとなく、雷王達を手玉にとったくらいなのだから大柄で意地悪・生意気そうな若者を想像していたのだが、入ってきた少年は、思いのほか小柄で童顔、とても強そうな人物には見えなかった。
「俺はリュージーンという。あんたがここのギルマスか?」
「ああ、そうだ、バンクスだ。よろしくな」
「よろしくするつもりはないがな。俺を捕えたいんじゃないのか?」
「あ、いや、その、依頼は失敗だったと報告するつもりだ、これ以上襲われる事はないから安心してくれ……」
バンクスにジト目を向け続けるリュー
「悪く思わないでくれ、俺は単に持ち込まれた依頼を受けただけだ、事情は何も知らんのだよ」
焦って早口になるバンクス
「冒険者ギルドってのは冒険者を守るための組織じゃないのか? 俺も冒険者ギルドに所属する冒険者だったわけだが、その冒険者を理不尽に捕らえて突き出せって依頼を、冒険者ギルドのマスターが言いなりに受けるというのはどうなんだ?」
「それは、その、行き違いがあったんだろう、ただ、穏便に連れてくるだけのつもりだったんだよ」
「生きていれば五体満足でなくていいという指示だったと聞いたが?」
「いや、依頼者はそう言ってたが、俺はそういうつもりじゃなかったんだ。そもそも、Fランク冒険者相手にAランク、Sランクを派遣したんだ、傷など負わせずに捕らえる、いや、連れてくる事が可能だと思ったんだよ。事実、そうはなってないだろう?」
「……嘘つきめ」
いつの間にかリューの瞳の色が金色に変わっている事にバンクスは気づいた。
「……? おまえ、目が…」
「俺は依頼を出した人間が誰かを訊きに来たんだ。誰なんだ、依頼者は?」
「……依頼主については守秘義務がある、言えるわけないだろう」
「言う気がないか、それならばもういいが……なんなら、依頼者の代わりにお前に責任を取ってもらおうか?」
バンクスが依頼者を思い浮かべた時点で、リューは心を読んで欲しい答えを手に入れていたが、意地悪く言ってみたのだった。
「責任? どういう意味だ?!」
「俺を襲った連中にはお仕置き済みだが、お前だけ何もないというのは不公平だろう?」
「いや、全然不公平じゃない、冒険者ギルドは公平・公正な組織なんだ」
「ナニイッテルノカちょっと意味不明だが……お前だって、依頼失敗にしたくない、俺を捕まえたいんだろう? やってみればいいじゃないか? ああ、そう言えば、王都のギルマスは元Sランク冒険者だとキャサリンが言ってたな」
「キャサリン? ギルド本部に居たキャサリンか、そうか、ミムルに飛ばされたと言ってたな」
「本部? こことは違うのか?」
「ここはあくまで冒険者ギルドだ、王都にあるが、他の街にある冒険者ギルドと立場は変わらん。ギルド本部の建物は他にあるんだよ」
「そうなのか、知らなかった。で、どうするんだ、
「……俺はお前と
「そうか、まあいい。やる気のない相手を一方的に嬲るのもあまり気分が良いものでもないからな。やる気がないなら帰らせてもらおうか、依頼主を探さないといけないしな」
席を立つリュー。
「待て! 帰すわけにはいかん!」
「なんだ? やっぱり
「いや、そういう事じゃない、聞きたいことがある。お前は転移魔法が使えるという報告があったが、本当か?」
「答える義務はないな」
「転移魔法など、子供向けの御伽噺にしか出てこない存在しない魔法だろう、とても信じられないんだが」
「答える義務はないな」
「むぅ……。もういい。そう言えばもうひとつ、商業ギルドの身分証を出したと聞いているが、冒険者ギルドのカードはどうしたんだ?」
「冒険者はミムルを出る前に辞めてきた。自分を捕えようとするようなギルドに所属している意味はないだろう?」
「そ、そうなのか……ならば、ここでもう一度冒険者になる気はないか? ここで冒険者に登録するなら、Cランク、いや、Bランクで登録を認めよう。活躍次第ですぐにAランク、場合によってはSランクもありうるぞ?」
「興味ない。それに、そんな事をしたら依頼者の王族に睨まれるんじゃないか?」
「もちろん、そうなったら、相手が王族だろうとしっかりと守る、安心してくれ」
「信用できん」
「って、あれ? なんで王族って知ってるんだ? ……あ、鎌掛けやがったな?!」
「間抜けなギルマスだな」
リューはニヤッと笑うと、扉に向かって歩いていった。
「……」(もう少しだ…)
バンクスはポーカーフェイスで机の下に手を入れて、机の下に仕込まれたレバーを握っていた。
レバーを引けば、扉の前の床に仕込んである落とし穴が開くようになっている。穴は地下牢に直結している。これで労せずしてリュージーンを捕らえる事ができる。
リュージーンが扉の前に到達した。
バンクス(今だ!)
バンクスはレバーを引いた。
― ― ― ― ― ― ― ―
次回予告
リューのお仕置きの恐怖に失神するバンクス
乞うご期待!
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