第107話 王都でのんびりするリュー

リューはギルドの受付嬢に追い返された後、王都で宿を探した。 


以前、ダンジョンの素材を売りまくって稼いだ、一生働かなくてもよいほどの現金が亜空間に収納してある。多少高級な宿に泊まっても問題はない。 


考えてみれば、リューは旅行などしたのは、この世界に生まれてからは初めての事であった。 


育ての親は守銭奴の商人で旅行などに連れて行ってくれる類の人間ではなかったし、その父親から庇って育ててくれた育ての母が病死した後、父親に奴隷として売り飛ばされ、解放されてからは一人でミムルの街に放り出されて生きるのに必死だったのだ。 


それに、リューには日本で生きていた記憶がある。過去世の記憶が戻ってからそれほどの年月は経っていないが、記憶にある幾度もの旅行の記憶は、それなりに楽しい思い出であった。 


リューは、この世界で初めて街を出たのだ、せっかく王都に来たのだから、少し旅行気分を味わってみたくなっても仕方がないだろう。 


リューには転移がある、一度認識してしまえば、王都とミムルの移動も、もう一瞬で可能である。つまり、王都に泊まらなくともミムルの自分のアパートに帰って寝る事もできたのだが、せっかく王都に来たのだから、違った気分を味わってみたくなり、わざわざ宿に泊まる事にしたのであった。 


それから四日間、王都をフラフラと歩いたリュー。観光地として有名なところを回るのではなく、普通の街中を当てもなくふらつき、気まぐれに店に入って買い物を楽しんだ。 


前世の日本でも旅行した経験は何度もあるが、使い切れないほどの大金を持って気ままに旅行に行った経験はなかったわけで。 


その頃、もし自分が金持ちだったら、観光地を巡るだけでなく、じっくりと街の素の生活、素の雰囲気を味わるような、こんな旅行の仕方をしたいと思っていたのだ。 


歩き廻ってみると、さすがに王都である。町中の普通の店であってもミムルに比べると洗練されている。 


リューは気ままに街を見て回り、服や武器などを気ままに大人買いしたおかげで、街に着いたときよりは多少垢抜けた服装になった。お洒落ではあるが、強度的にはやや不安がある服が多かったが。 


飲食店も次々ハシゴし、たくさん食べた。ミムルにはないような珍しい料理の店も多くあり、色々食べてみたかったが、さすがに一度に食べられる量には限度がある。 


そこでリューはふと思いついて、食べる端から胃の中身を転移させる事にした。 


最初、店のゴミ箱に転移させようかと思ったが、ゴミがいつの間にか増えても店も迷惑だろうから、結局ダンジョンの中にした。汚いが、すぐにダンジョンが吸収して消えてしまうから問題ないだろう。 


これならどれだけ食べても大丈夫。大食い競争に出たら優勝できるだろう。(反則だが。) 


とは言っても、やはり一日で食べられる店の数は限られており、たくさんの店がある王都で気がつけば4日が過ぎてしまっていたのだ。 


そんな時、リューは街でリーンとバッタリ会った。 


「あ、リュージーン……?」 


「んん?……ええっと」 


「リーンよ! 忘れたの?」 


「すまんな、あまり興味なかったもんでな」 


「酷い……」 


「大体、お前は俺を捕らえに来た“敵”だろ? まさかまた捕らえに来たとか言わないよな?」 


「もうそれは忘れて! ギルドには依頼を失敗したって報告済みよ。それに、冒険者のバットはもう居ないわ」 


そう言えば、リーンはバットに変装しておらず、普通にエルフの女の子の格好をしている。 


「そうか……、違約金取られたんじゃないか?」 


「そうだけど、金は溜め込んでたから大丈夫。アンタとはもう戦いたくないしね。そう言えば、受付嬢のミレイに追い返されたんだって?」 


「ああ、そう言えば、あれっきりギルドには行ってないな」 


「もう一度行ってみたら? リュージーンの事は報告済みだから、今度は門前払いされる事はないと思うわよ」 


リーンに言われて、忘れかけていた王都に来た目的を思い出したリューは、再び冒険者ギルドに向かう事にしたのだった。 


    ・ 

    ・ 

    ・ 


王都の冒険者ギルドを再訪したリュー。 


受付嬢ミレイは、リュージーンを見ると、ぎこちない笑顔を浮かべた。 


リーンの言った通り、今回は門前払いされる事はなく、すぐにギルドマスターの執務室へと案内された。 


― ― ― ― ― ― ― ― 


次回予告 


リューを罠に嵌めようとする王都ギルマス 


乞うご期待! 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る