第106話 バット引退宣言
「あ、そう言えば、リュージーンに、誰に依頼されたのか訊かれたんで知らないって答えたんだが、そしたらギルマスに直接訊きに行くって言ってたような……」
「リュージーンがそう言ってたのか?!」
バットの言葉にビビるギルマス・バンクス。
「だが、来られても依頼主について話せるわけないだろうが」
「無理矢理にでも聞き出すつもりなんじゃない?」
「奴ならそれも可能か」
と雷王がバットの言葉を保証し、青くなるバンクス。
「ご愁傷さま」
祥王が誂うように言う。そして雷王が手を引くと宣言する。
「俺達はもう知らんよ、依頼は失敗でいい。違約金も払う。後は、奴との対応はギルマスに任せる」
「ギルマスがリューを捕らえたらいいんじゃないか? ギルマスも元Sランク冒険者だろ?」
と祥王が言うが…
「お前たちが束になって勝てなかった相手に、引退した俺が勝てるわけなかろうが!」
バンクスは頭を抱えた。
どうするも何も、リューを捕らえる事が可能な者はもう居ないのだから、依頼主に失敗の報告をするしかないのだが。
頭を抱えているバンクスを残し、雷王達はいそいそと席を立とうとしたが、そこで慌ててバットがもう一つ報告があると言い出した。雷王達も残って欲しいという。
「俺達も関係ある事か?」
「ああ……無関係な話でもない、一緒に聞いてくれるか」
「一体何なんだ? まだ何かあるのか?」
「ああ……今日を最後にバットという冒険者は居なくなる。後はよろしく頼む」
「どこかに行くのか?」
「違うよ、居なくなる。というか、元から居なかったんだ……」
バットの変装の魔術が解けていく。身体は少し華奢になり、顔は少女のそれに変わった。
「!?」」」」
「騙していてごめんなさい。アタシはリーンと言います、バットの双子の妹です。兄は、数年前に死んだの。それからずっと、アタシがバットのフリをしていたというわけ」
「なんだってぇ~~~~」」」」
「まったく気づかなかった……」
「ここに居る全員、出会ったのはバットが死んでからだから、知るわけがないわね」
「……でも、なんで、今、それをカミングアウトしたんだ???」
「……リュージーンに負けたから」
「奴にそうしろと言われたのか?」
「違うの。誰かに負けたら、バットのフリはやめようと決めてたの。もともと兄のフリを続けるのにも無理があったしね」
「べつに……リーンと言ったか? お前が変装して誰かのフリをしていたからと言って、何も問題はないんじゃないか? ランク詐称なら重罪だが」
「バットがSランクになったのは二年前だ。その時点では既にバットは、リーン?が化けていたんだよな?」
「そうよ。アタシが兄に成り代わったのはまだBランクの時だから、それからA、Sとランクアップした時、ずっとバットはアタシだった。兄の夢だったのよ、Sランク冒険者になるのは。それを叶えてあげたかったの」
「と言う事は、Sランクは、リーンの実力という事だよな?」
「まぁ、ね。そういう事になるわね。兄の遺してくれたあの弓の力も大きいけど」
「なら何も問題ないんじゃないか? バットが実は女だったというのは驚きだが、そんなのはよくある話だ」
「そ、そうか……で、今後はリーンとして活動すると言う事か?」
「いえ、故郷に帰ろうかと思ってます」
「なんだって? それは困る! 王都のSランク冒険者が居なくなってしまうじゃないか」
「だから、皆に聞いてもらいたかったのよ。これからは、王都の冒険者ギルドのトップは【陽炎の烈傑】と【闇夜の風】になるって事だからね」
「冒険者もやめてしまうのか?」
「それは分からない。ただ、一度故郷に帰って兄の墓参りをしたい。ずっと帰ってなかったしね。少しのんびりしながら今後のことを考えてみるわ」
「……すぐに発つのか?」
「そうね。まだ2~3日は王都に居るつもりだけど」
「そうか……」
「あ~、話が終わりなら帰らせてもらうぞ」
バンクスから返事ないので了承という事にして、再び席を立った雷王であったが、立ち止まって言った。
「バンクス、リュージーンの事を依頼主に報告する前に、一度リュージーンに会ったほうがいいかもしれんぞ。奴は、敵に回さないほうがいい」
「そう思うか?」
「依頼主が誰かは知らんが、たとえ相手が王族であっても……むしろ、王族などより奴のほうがやっかいな相手かも知れん」
「そうだな、おそらく、奴が本気になったら王都が壊滅するかも知れん……」
「そんなにか!」
「冗談だ。いくらなんでもそこまではな。だが、下手に手を出せば、冒険者ギルドは壊滅するかも知れんぞ? 悪いが奴と戦争をするなら俺たちは巻き込まないでくれよな」
「……」
「しかし……奴が王都に現れたとなると、いろんな意味でトラブルが起きそうな気はするな」
笑いながら部屋を出ていく雷王達。
リーンも頭を下げて出ていく。
一人残されたバンクスは、呟いた。
「今日一日だけで、情報量が多すぎるぞ……」
― ― ― ― ― ― ― ―
次回予告
王都でのんびり ~ 再び冒険者ギルドへ
乞うご期待!
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