第105話 戻ってきた冒険者達の報告

まぁ確かに、アポもなしにいきなり来てしまったのは自分だ。


自分が同じ事をされて、予定を変更して無理やり会えと強要されたらきっと腹が立つだろう。


「仕方ないな。では、会えるように予定を調整してもらえるか?」


「申し訳有りませんが、面識がない方は、紹介状がなければアポは取れません。紹介状を書いてくれそうな、マスターと共通のお知り合いはどなたかいますか? ま、居ないでしょうけど……」


「いなくはないが・・・」


多分、キャサリンに頼めば書いてくれそうな気はするが……キャサリンは王都のマスターと知り合いだろうか? もともとキャサリンは王都のギルド職員だったと聞いた事があるので、多分大丈夫だろうと考えたリューであったが、よく考えたらミムルで冒険者ギルドは脱退してきてしまったのだった。


転移があるので戻るのは一瞬だが、頼み事をするとまたキャサリンに交換条件出されて利用されそうだな、とリューは思い直した。


「いや、では、伝言だけでも伝えてくれないか?」


「え?」という顔をした受付嬢であったが、結局それもハッタリであったかと思い、ムッとして言った。


「それもできかねます」


「リュージーンがやってきたと、一言伝えてくれればいいんだ。それで分かるはずだ」


「いやいやいや。分からないと思いますよぉ?」


「伝えるだけ伝えてみてくれ。無視して後で叱られても知らないぞ?」


「仕方ないですね、そうまで言うなら、伝言のメモを渡しておきます。お忙しい方ですから、読んでもらえるかどうかは保証いたしかねますが」


「ああ、それでいい。頼んだよ」


受付嬢の慇懃無礼な態度にちょっぴりイラついたリューは、力づくで押し入ってやろうかと一瞬思わないでもなかったのだが、それでは権力を振りかざす貴族と対して変わらないので思い直し、出直すことにしたのだった。


なんなら転移でギルマスの執務室に直接乗り込む手もあった。あるいはギルマスを転移でどこかに拉致してしまうなど、リューの能力があれば、問答無用で事を運ぶことはいくらでもできたのであるが……


自分が自由を侵されるのを嫌うのだから、相手の自由も尊重したい。強引に事を運ぶのは最後の手段だろう。


そんな気にリューがなったのは、実は、せっかく初めて王都に来たのだ、少しゆっくり街でも見てみたいという気になっていたためであった。


リューはギルドを出て宿を探しに向かうのであった。


    ・

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ギルドを出ていくリューを見送った受付嬢。


ああは言ったものの、実は伝言など伝える気はなかった。


くだらない用件でマスターに会わせろという輩は毎日いくらでもやってくる。その全てを取り次いでいたら切りがないのである。


くだらない用件でマスターを煩わせない事も優秀な受付嬢の務めであると自分に言い聞かせて、リュージーンの名前を書き取ったメモを廃棄予定の書類の上に移動させたのであった。


Aランクパーティ“陽炎の烈傑”が王都に戻り、リュージーン捕縛の依頼に失敗した事を報告しに受付を訪れたのはその二日後の事であった。





王都のギルマス執務室


「闇夜の風」も王都に戻り、同じく失敗を報告したのであった。


ギルドマスターのバンクスは“陽炎”と“闇夜”を呼び出し、依頼失敗の顛末を問い質した。


陽炎からは代表して、パーティのリーダー・雷王とサブリーダーの祥王が、闇夜からはリーダーのミックスが報告に来た。


彼らから改めて報告を聞いたバンクス


AランクパーティがFランク冒険者を捕えてくるなど、片手間にできる仕事であるはずであったのに、一体どうしたと言うのか?


「いや、あの男をFランクだと思わないほうがいい。俺達が総掛かりでもまったく歯が立たなかったのだ。実力的にはAランク以上は確実、Sランク級かもしれない」


「いやいやあれは、Sランクも超えているんじゃないかと思うぞ」


ミックスも黙って頷いた。


「Sランク以上だと? そんな事あるわけがないだろう。そうだ、Sランクのバットはどうしたんだ? 奴も同じ依頼を受けていたはずだ」


「ミムルの街で一度会ったが、それ以降見かけていないな」


「バットなら大丈夫だろう、なにせSランクのドラゴンスレイヤーだぞ。案外、今にもリュージーンを捕らえたと報告に現れる頃なんじゃないか?」


その時、ギルマスの執務室の扉がノックされた。


「誰だ?」


「ミレイです、バットさんが受付にお見えになっていますが」


「すぐここに通せ!」


ほれ見た事かと雷王達にドヤ顔をしてみせたバンクスであったが、帰還したバットがもたらしたのは、期待したのとは正反対の報告であった。





受付嬢ミレイも、Aランクパーティ二組とSランク冒険者が揃って依頼失敗の報告をしてきた事に驚いていた。


彼らの受けた依頼はたしか、ミムルの街に行ってリュージーンというFランク冒険者を捕らえてくるという内容だったはず。極めて簡単な仕事の割には、妙に高額な報酬が用意されていた、妙な依頼ではあったのだが……


リュージーン……?


そこでやっと、ミレイは3日前に受付にやってきた少年が、似た名前を名乗っていたのを思い出した。しかも、ミムルから来たと言っていたような……


まさかと思い、廃棄予定の書類の山をひっくり返してメモを探すミレイ。メモはすぐに見つかったが、そこに書かれていた名前は


「リュージーン」


なんど見ても間違いない……


ミレイは青くなった。


このまま黙っていれば分からないかも?


だめだ、バレる確率は高い。もし後でバレたらもっとまずい事になる。


仕方なく、ミレイは重い足取りでギルマスの執務室へ向かった。





ギルドマスターのバンクスは、依頼失敗の報告をした三組と話を続けていた。


「だが、依頼には期限はなかったはずだ。そして、お前たちは全員五体満足でピンピンしている。にも関わらず、依頼を投げ出すと言う……これは……つまり、どういう事なんだ???」


「五体満足……」


思わず雷王はその言葉に思わず苦笑いした。


「?」


「俺達は、何回奴に五体バラバラにされたかな……。お前達もそうなんじゃないのか?」


ミックス も苦々しい顔で頷いた。


雷王に闇夜の風のリーダーのミッスクが同意した。


「どういう事だ?」


「奴は回復魔法を持っていたんだ。そして、身体をバラバラに切り裂かれては、また元通り回復させられて、もう一度対戦させられるという事を何度も繰り返させられたんだよ……まるで実力差を骨身に思い知らせるように、徹底的に、な」


「それで、一度も勝てなかったのか?」


肩を竦める雷王


「バット、お前もか?」


「似たようなもんだ、俺はバラバラにはされなかったが、代わりに弓を破壊されてしまってな」


「あの伝説級の弓をか!?」


「ああ、奴の回復魔法で弓も元通りに治してもらったがな」


「はぁ? どういう事だ? モノを治す回復魔法ってなんだ?」


「さぁ、分からんが。とにかくまぁ、依頼を受けた全員が、奴を捕らえるのを諦めざるを得なかったと言う事だ」


そこに扉をノックする音。ミレイがやってきたのだった。


「マスター、あの、ご報告したい事があるのですが……」


「なんだ?! 急ぎでないなら後にしろ!」


「その、重要な話なのですが……」


「仕方ない、入れ!」


部屋に入ってくるミレイ。


「その、3日前に、受付に一人の少年がやってきまして……」


「……?」


「マスターに会わせろと言うのですが、アポなしだったので断ったのです」


「そうか。まぁ、くだらん理由で会いたいって奴は多いからな。いちいち相手してられれん」


「そうですよね! 私もくだらない用件でマスターを煩わせてはいけないと思って! 私の対応は間違ってませんよね?!」


「それで!? その少年がどうかしたのか?」


「いえ、その……その少年は、名前をリュージーンと名乗っていまして……ミムルから来たと……」


「リュージーンだとぉ!?」


思わず立ち上がったバンクス。


「なんですぐそれを報告しなかった!!」


「その、ちょっと、名前を書いたメモが書類の中に紛れてしまってまして、先程見つけたもので……」


「それで?! リュージーンはどうした?! どこに居る?!」


「分かりません……ただ名前を伝えてくれと言われただけなので……それで分かると言っていました。……またそのうち来るんじゃないですかね?」


顔を見合わせるバンクスと冒険者たちであった。



― ― ― ― ― ― ― ―


次回予告


冒険者バット引退宣言?


乞うご期待!



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