第93話 集まってくるリューを狙う冒険者達

ところで、Sランク冒険者に対して、リューの実力は一体どれくらいなのか? 神級と言われるSランク相手に勝てるレベルなのか?


リューの冒険者ランクは未だFのままなので、ランクで実力を測る事はできないが、その実力がAランクを凌駕しているのは間違いない。


ちなみにキャサリンは元Aランク冒険者であるが、レベルは55程度であった。Aランクとしてはやや低めだが、情報収集能力など戦闘力とは異なる部分の能力で評価されていたためであるが、一般的な冒険者からすれば、その実力は人外レベルである事に変わりはない。


そのキャサリンでもリューの相手にはならなかったのである。


以前リューは【剣聖】レイナードに模擬戦で勝利している。レイナードは冒険者として活動していなかったため冒険者ランクは認定されていないのであるが、そのレベルは130前後であった。Sランクはおよそレベル100以上と言われているのである。つまり、リューはSランク相手でも十分勝てると言う事になるが……。


そもそも、リューはレベル可変のチート能力がある。必要ないのでずっとレベル1のまま戦い続けているリューであるが。初めてレベルUPが必要となったのはレイナードとの模擬戦であった。それでもレベル3でレイナードを圧倒した。


以前一度だけダンジョンの深層で上限マックスを確認しようと試してみた事があるが、レベル千を超えてもさらに上がり続け、結局上限は不明であったのだ。


※竜人のレベルなので人間のレベル値とイコールではない。レイナードのレベルと実力から比較推測してみると、リューのレベル1=人間のレベルの40~60倍と推測される。50倍と仮定した場合、レベル千であれば人間のレベルに換算して五万という事になる。リューが本気になって能力を解放すれば、この星を割ってしまう事すらできそうである・・・


もちろん、リューのレベルと人間のレベルをそんな単純に換算できるものでもない。また、リューがレベルアップを使わず、レベル的に多少下回っていたとしても、時空魔法を使ってしまえば圧勝してしまうのが普通なので、リューがレベル可変能力を使う必要性はほとんどないのであるが。


そもそも、この地上でどんな相手を連れてきてもリューが本気になったら勝てるわけがない。リューが女神に望んだ【誰にも負けない力】は、ちゃんと授けられているのである。


そんな力を使ったらこの世界の人間は滅んでしまうかも知れない。リューも疑問に思い、そういう危険性は考慮しないのか訊ねてみたのだが、女神の返答は、そうなったらそれでも構わないというものであった。


実は、既にこの世界の生き物の転生先の世界は用意してあるのだとか。つまり、世界中の人間・生物を根絶やしにしても、あまり気にする必要はないという事らしい。


もしかして……廃棄処分待ちの酷い世界に送り込まれたということなのであろうか? どうりで、なんだか酷い人間のほうが多い気がするわけである。


まあそれでも構わない、おそらくこの力はこの世界での人生、一回限りのボーナスステージなのだろう。


リュー自身も、死ねばまた平凡な転生が待っているのだろうと予想している。


せっかく自由に生きられるボーナスを貰ったのだから、酷い世界かも知れないが、できれば長めに好き勝ってさせてもらおうと思っているリューなのであった。





「しかし、大した奴だな、自分が賞金首になっているというのに、堂々と飯を食い続けるとは」


「賞金首?」


「王宮から依頼を受けた時は驚いたよ、たかがFランクの冒険者を捕らえるのに、Aランク以上の冒険者指定だったからな」


しかも、複数のAランク冒険者に早いもの勝ちで同時に依頼を出したらしい。成功報酬なので、誰かが達成すれば、残りの冒険者は報酬が貰えなくなってしまうが、誰かしらが成功すれば、失敗時の違約金は払わなくても良いという事である。


早いもの勝ちの成功報酬というのは普通なら嫌がられる依頼の出し方だが、報酬が高額だったため皆受けたらしい。


「俺は金に困っているわけじゃないから賞金などどうでもいいのだが、Fラン相手にAランクというギャップが大きすぎて逆に興味が出てな、どんな奴なのか見に来たんだ」


「じゃぁ残念だったな。俺はレベル1、魔力ゼロの万年Fランク冒険者だ。つまらんだろ。見たら帰ってくれるか」


その時、バットの目が独特の光を放った。どうやらバットは鑑定スキル持ちらしい。


「ふん、たしかにな。だが、能ある鷹は爪を隠すという。お前が本当に無能な万年Fランクとは思えないんだよな、不思議な事に……。ますます興味が出てきた、しばらく様子を見させてもらう事にしよう」


「ストーカーは迷惑だぞ」


リューは、しつこく絡んでくるようなら面倒なので、こいつもどこかに転移で飛ばしてしまおうかと考え始めた。


だが、Sランク冒険者なのだから相当に腕は立つはず、ダンジョンの最下層に送り込んでもいいが、万が一ヒュドラが負けたら面倒な事になる。ダンジョンボスを倒されてしまうと、ダンジョンコアを明け渡すか、それが嫌ならリューが直々に戦わなければならなくなる。


では、ダンジョンではなくどこか遠い場所に転移してしまうか? はるか遠くに海がある事は神眼で認識できている。その海の彼方に飛ばしてしまえば、仮にもSランクなのだから死にはしないだろうが、当分帰っては来られまい。


などと考えていると、飯屋のドアが開き、バタバタと数人の男が入ってきて、リューとバットを取り囲んだ。


「なんだお前たちは?」


だが、リューの言葉を無視して入ってきた男の一人が言った。


「Sランクのバットか……一応確認するが、なぜここに居る?」


「お前達と同じ目的だろうと思うよ」


「やはりお前も依頼を受けたのか! Fランクを捕える楽な仕事であの賞金は破格だからな!」


「安心しろ、俺は金目当てじゃない。お前達で片付く程度の相手なら、俺は興味ないさ」


「本当だな? 後で分け前を寄越せと言ってもやらんぞ?」


「俺に用はないみたいだな、じゃぁ俺はこれで……」


飯を食い終わったのでリューはそっと席を立つ事にした。


空いた席に座る男たち。


「で、ターゲットは何処に居る、もう見つけたのか?」


「自分で探すのが筋ってもんだろう?」


「ちっ」


だが、その時、店の主人の言葉が男たちの耳に入った。


「ごちそうさん、金はここに置くぞ」


「あ、リューさん、毎度あり~」


「……確か、ターゲットはリュージーンという名だったな? 通称リューと呼ばれているとか。なるほど、既に発見済みというわけか」


男はニヤリと笑うと席を立った。


リューを追って店を出て行く男達を見ながらバットは肩を竦めた。


「さて、リュージーンはどうするかな?」



― ― ― ― ― ― ― ―


次回予告


Sランクパーティに襲われるリュー


乞うご期待!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る