第94話 Sランクパーティ、ダンジョンに飛ばされる

「おい、待て! そこの男!」


走ってきた男たちがリューを取り囲む。


「お前がリュージーンだな?!」


「違いますよ~、人違いでは~?」


遅れてきた男が言った。


「いや、店主に確認した、コイツがリュージーンで間違いない」


「ち」


「どちらさんで? 何か俺に用ですか?」


「俺達は王都で活動しているAランク冒険者だ。俺は、雷王ライオウ男2こいつ祥王ショウオウだ」


「私は聖王セイオウ


「……鳳王ホウオウ


「なんで自己紹介する流れになってんだ? まぁいいけどよ、俺は牙王ガオウだ。鉄拳の牙王と言えば聞いた事あるだろう?」


「お前を捕らえて来いと依頼をうけたのだ。大人しくお縄につくがいい」


「へえ。……全員Aランクなんですかい?」


「そうだ、Aランクの冒険者5人で『陽炎の烈傑』というパーティを組んでいる。一人ひとりはAランクだが、パーティランクはSにんる。勝ち目はないから余計な抵抗はしないほうがいいぞ?」


「ほえ。……ちなみに、俺を捕らえろと言った依頼者はどなたで?」


「守秘義務ってのがあってな、依頼主について話す事はできん。お前も冒険者ならそれくらいは知っているだろう?」


「そうなんです?」


リューは冒険者としては、ギルドの常設依頼である薬草採り以外の依頼を受けた経験がほとんどない。指名依頼は先日の誘拐事件への協力が初であり、高ランク冒険者が受けるような依頼についての知識・常識はあまりないのであった。


「やれやれ、そんな事も知らんのか。まぁFランクならそんなものか?」


「依頼者が何の理由でお前を捕えようとしてるのかは知らん。俺達は捕らえてこいという依頼を受けただけだからな」


リューは雷王の心を読んでみたが、そもそもギルドで依頼を受注しただけで、依頼者には会っていないようだ。そりゃそんなものかと思うリュー。自分だって、ギルドに納めた薬草を誰が買いとっているのかまでは知らないのだから。


「丁重にお迎えしろ、という指示じゃなくてか?」


心を読めたとしても、結局は主観的な解釈しか読み取れない。客観的に見た時に勘違いがある可能性は常にある。


「生きてさえいれば五体は揃ってなくても構わんという条件だぜ、抵抗しないほうが身のためだぞ?」


ソフィがリューを迎えに行ってくれと頼んだのを、部下の誰かが曲解して間違った指示を出した、という可能性もあるかとリューは考えていたのだが、これ以上は事情は分かりそうにない。


「そうか。だが。丁重なご招待なら考える余地もあるが、無理やり捕らえて連れて来いなどと強引な態度で来られると、こちらも納得できない話になるな」


「我々もできれば手荒な真似はしたくないが、お前次第だ」


「俺は……権力を笠に着て無理やり人を従わせようって奴が一番嫌いでな。そちらが力づくで来るならこちらも手加減はしない。だが、お前たちの条件に合わせてやろう。殺しはしない。だが五体満足でいられる保証はしない」


「はっはっはっFランクごときが、Sランクの俺達に敵うと思っているとは驚きだな」


「冒険者のランクは、必ずしも実力を正しく示しているわけではない。ランクがFであっても、秘めた実力は違うかも知れんぞ? お前たちもAだSだと言ってるが、果たして本当にその力があるかは分からんしな」


リューは話しながらこの5人の鑑定も終了していた。


雷王:Lv80 重剣士

牙王:Lv70 拳闘士

祥王:Lv60 魔法使い

聖王:Lv50 僧侶

鳳王:Lv60 魔法剣士


細かいステータスやスキルについてはあまり良く見なかったが、確かにこれだけ高レベルの人間が揃ったパーティはそうそうないだろう。Sランクはおそらく正当な評価なのだろうと思えた。


「舐めた口をききおる、後悔させてほしいようだな」


「ふん、ちょっとテストしてやろう」


意地悪くリューが笑った。


その瞬間、男たちの足元に魔法陣が浮かぶ。


「…! 気をつけろ!」


それに気づいた雷王が叫んだ。咄嗟に飛び退く男たち。だが、魔法陣はその動きに追従し、足元から離れる事はない。


雷王達の姿はすぐに薄くなり、消えていった。


雷王達を飛ばしたのはダンジョンの第九階層。王宮騎士達を飛ばしたのと同じ階層である。


「さて、果たしてどれくらいで戻ってくるかな?」





実は、リューと “陽炎の烈傑” のやりとりをSランク冒険者バットが【千里眼】スキルを使って見ていた。離れた場所の様子を知る事ができるバットのスキルである。


バットが呟く。


「ほう、これは……? 転移? 油断ならないようだねぇ」



  *  *  *  *



ダンジョンの中に飛ばされた雷王達


「これは……転移?! 俺達は飛ばされたのか?」


「どうやら騎士達の情報は本当だったようだな」


「まさか、転移を使える魔法使いが存在するとはな」


「ここはどこだ!」


「事前情報によると、騎士達が飛ばされたのはミムルの東にあるダンジョン『地竜巣窟』だったそうだ」


「ギルドの機密情報だが、リュージーンは地竜巣窟を単独踏破した事になっている。それが本当なら、奴はダンジョンマスターになっている可能性がある」


「なるほど、転移魔法はダンジョントラップの一種なのか。奴はどうにかして、そのトラップを外に持ち出す事に成功したのかも?」


その時、突然現れたサイクロプスが雷王達を襲った。トロールも何体か出てきた。


ソフィ達が勝てなかったモンスターであった。だが、雷王達はそれを軽く一蹴してみせた。Aランクは伊達ではないのである。


結局、雷王達はあっさりとダンジョンを脱出し、翌日には街に戻ったのであった。


    ・

    ・

    ・


「だが、どうする? 奴が転移トラップが使えるとなるとやっかいだぞ」


「あの程度のダンジョンは簡単に脱出できるが、何度も行かされるのは面倒だなぁ」


「ならば、奴がトラップを発動する前に仕留めればいい」


「不意打ちか?」


「卑怯な手段だ、陽炎の烈傑のやり方にはそぐわない。…が、仕方ないか」


「誰がやる?」


「俺にやらせろ」


「殺すなよ? 転移トラップを外に持ち出す技術は惜しい」


「依頼者が奴を捕らえたがっているのもそれが理由か?」


「素直に依頼者に(転移トラップを)渡してしまうのか?」


「別に、俺達は奴を捕らえろと言われただけで、何か魔道具を確保しろなどとは言われていない」


「そうこなくちゃ。そんな便利なもの、取り上げられるのはもったいない」


「縮地」。拳闘士のクラスでありながら、その俊足を持って、離れた場所から一気に距離を詰め、相手を殴り倒すのを得意としているのだ。


食堂の親父から、脅迫と買収を併用してリューの家を聞き出した雷王達は、家の前でリューが出てくるのを待った。


やがて、リューが家を出てきた。


通りを歩くリューを見て、牙王が準備を始めた。


短距離ランナーのようにしゃがんで力を貯めた牙王は、一気に走り出した。かなり離れた位置であるが、神速スキルの走法により一気にトップスピードまで到達したところで縮地を発動、牙王は一気にリューの真後ろまで距離を詰める。速度は全力疾走の状態を維持したままである。


牙王はリューの左側を追い越しながら、リューの後頭部に向かってすれ違いざまに右フックを振った。



― ― ― ― ― ― ― ―


次回予告


リューと陽炎の烈傑、いよいよ直接対決!


乞うご期待!



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