第91話 私の屋敷で暴れるな 申し開きは裁判で言え

「実はな、ギット子爵の件について、王宮から調査団が来ておるのだ」


「その件については、ソフィ王女から説明が行ってるはずデスガ?」


「その辺どうなっているのかは、こちらでは分からん。ただ、王宮の調査団は、私がリュージーンを使ってギット子爵を暗殺、領地を奪ったという疑っているのだそうだ」


「領主はまったく関係ない話だ、なるほど、領主にとっては迷惑な話だな。


と言うか……


ギット子爵を殺したのは厳密に言えば俺ではないのだが。まぁお膳立てはしたんで殺したようなモノではあるか。ソフィの許可もとったんだがな。それにギットはソフィ王女を殺そうとしたのだから、王女を守るために殺した、正当防衛と言う事も言えると思うんだが……?」


「私としても、別にギット子爵の領地など、押し付けられて迷惑しているくらいなのでな、それを狙ったと言われても心外なだけなのだが……」


その時、扉が開いて数人の騎士達が入ってきた。


「つまり、領主はリュージーンなる冒険者の事などはまったく知らんと主張しておるわけだが……」


騎士の鎧は迎えに来た騎士達とはデザインが異なっている、領主の配下の騎士ではないということである。


「……?」


「調査に来た王宮騎士団の方々だ」


「リュージーンだな? 領主は自分は一切関係がない、リュージーンが勝手にやった事だと言っているのだ。それを認めるか?」


「ああ、領主と俺は何の関係もないな。会ったのだって今日が初めてだ」


「そういうわけだ。私は関係なと分かって頂けたかな? 子爵の領地も、私は要らんので、王宮で管理してくれるならそうしてくれればいい」


「なるほど、本人が認めるならそれで良いだろう。ではリュージーン、お前をギット子爵暗殺の容疑で逮捕する」


「はぁ?!」


「お前には、ギット子爵の屋敷に押し入り、騎士や使用人を皆殺しにし、ギット子爵を凄惨な拷問にかけて殺した容疑が掛かっている」


騎士が言ってる事があながち間違っていないのが困った所である。


「ギット子爵は若い女を誘拐して拷問して楽しむ変態だったんだぞ? たくさんの女を誘拐し、最期にはソフィ王女をも殺そうとしたのだ、殺されても仕方がないだろう? 王女から聞いていないのか?」


「そのような話が王女からあったという報告は一切受けていない。とにかく、申し開きがあるなら王都での裁判で言うがいい。連行しろ!」


だが、王宮騎士達は一切動かない。いや、動けないのであった。ムッとしたリューが次元障壁を騎士達の体を包み込むように展開したからである。騎士達は全員、体ぴったりのサイズの見えない箱に包まれていた。空間は狭く、剣を抜く事もできず、手を空中に這わせ始める騎士たち。パントマイムなら達人級の動きである。


「問答無用か? ならばこちらも抵抗させてもらうが、覚悟はいいか?」


「ちょっと待て! 話はリュージーンと騎士団の間の事だろう、私の屋敷内で暴れるんじゃない!」


「別に領主と面識があったわけでもないし、この件で領主が関係ないのは本当だが、アッサリ見捨ててくれるね」


別にリューは気にしておらず、冗談のつもりだったのだが、ゴランは真顔で怒り始めた。


「……父上! リューだってこの街の領民である事に変わりはない、領民を守るのが領主の務めではないのですか?!」


「一人の冒険者を守るために、領地を政治的に不利な立場に陥らせるわけにはいかん。より多数の領民を守るのが領主の仕事だ。それに、犯罪の容疑者を逮捕したいという王からの命令に反する事は、王国貴族としてできない事だ。リューも王女の話が本当なら、キチンと申し開きをすれば問題なかろう?」


肩を竦めるリュー。


領主は日和見主義なところがあるとは以前から聞いていたので、リューはアッサリ諦め、動けない騎士達の間を歩いて部屋から悠々と出ていったのであった。


次元障壁で完全に密閉されてしまった騎士達が酸欠で意識を失う寸前、障壁は解除され騎士達は動けるようになったが、その時にはリューはもう屋敷から出てしまっていた。


「くそ、なんだったんだ! 奴を追え、逃がすな!」


    ・

    ・

    ・


リューは必死で逃亡を開始……


などしておらず、領主の館を堂々と出ると、のんびりと通りを歩いていた。


そのため、馬に乗って追ってきた王宮騎士達はすぐにリューに追いつくことができた。


王宮騎士に取り囲まれるリュー。


「逃げられると思うか?」


「同行は断る。帰って事情をちゃんと王女に聞いてくるがいい」


「見え透いた嘘を吐くな! 王女が貴様のような薄汚い冒険者と関わりを持つわけがなかろう! 大人しく従わないなら、力づくで連行するだけだ」


「一応警告しておく。俺の事は放っておけ。関わって来ない相手には、こちらも関わる気はない。だが、敵対するなら手加減はしない」


だが、警告むなしく一斉に剣を抜く騎士達。


「安心しろ、殺しはしない、連行するだけだ」


「そうか、ならば俺も手加減してやるか」


その時には既に、騎士達の足元には魔法陣が浮かんでいた。すぐに姿が薄くなっていく騎士達。馬は可哀想なので残し、騎士だけ転移させたリューであった。


騎士達が転送されたのは……


地竜巣窟の第九階層、トロールやサイクロプスが出る階層である。


出てくるのに多少苦労するだろうが、仮にも王宮騎士達だ、死ぬ事ははないだろう。



― ― ― ― ― ― ― ―


次回予告


何度もダンジョンに飛ばされる騎士たちの苦労と冒険者ギルドへのリューの捕縛依頼


乞うご期待!



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