王都編
第90話 領主様からの呼び出しだ、断るなど許されんぞ?
この作品は、既に公開されている
『足を斬られてダンジョンに置き去りにされた少年、強くなって生還したので復讐します(習作2)』
(https://kakuyomu.jp/works/1177354054922300995)
の通常版のテスト版です。ストーリーはまったく同じものとなります。
上記作品は戯曲風(台本風)の書き方がされております(つまり台詞の前に名前が入ります)が、この作品は同作品の“戯曲風”を廃止して通常の小説風にしてみたものになります。
ただし、完全戯曲風で書いてある話は手を入れますが、それ以外はセリフから名前が単純に削られるだけとなります。
セリフの前に名前があるかないかの違いだけですが、それぞれの書き方に合わせた文章の工夫が必要になります。特に、複数の人間が登場すると、誰のセリフか分かりにくくなる場合がありますが、そのための修正、改稿は入れない予定ですのでご了承ねがいます。
分かりにくい場合は、上記オリジナル版を参照してみて見て下さい。
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犯罪を犯した貴族(ギット)の処罰として、あれでよかったのか? 実はソフィは後で少しだけ悩んだ。
あの時は、地下室の惨状を見たショックと怒りに流されて、その場で“処罰”する事を許してしまった。だが、法的な処置としては、若干問題が残る対応であったのは事実。本来であれば、きちんと王都に連れ帰って裁きを受けさせるのが筋である。
しかしリューの言った通り、ギットを王都に連行して厳しく処罰しようとしたところで、せいぜいギロチンで処刑が考えうる最大の罰だろう。死罪はこれ以上ない最大の罰という考えもあるかも知れないが、多くの者が酷く苦しめられた上で殺されている、その被害者の心情からすれば、楽に殺してやるだけでは甘いと感じる者も居るかも知れない。
処刑さればまだ良い。息子に甘い公爵が口を出してきて、また、
だが、ギットはソフィを捕らえて陵辱・拷問しようとしたのだ。父王や兄王子達が聞いても、おそらく同じ判断をしたであろう。
やはり、あれで良かったのだろうと納得する事にしたソフィであった。
ただ、貴族が、ましてや公爵家の縁の者が殺されたのだ、さすがに有耶無耶にしようとすればかえって事が大きくなるだけかも知れない。速やかに処理する必要がある。ソフィは事と次第を報告するため、すぐに王都へ戻って行った。
ソフィの報告を受けてすぐに王宮から調査隊が送られ、屋敷の地下室からギット子爵の遺体が発見された。遺体は恐ろしく損壊しており、子爵の顔は恐怖に歪んだまま固まっていたという。周囲にたくさんのポーションの瓶が落ちていたが、誰かが助けようとしたが間に合わなかったのだろうと判断された。調査に当たった騎士達は、拷問を長く繰り返すために回復させていたとは思わなかったのであった。
領主が不在となってしまったため、とりあえず、ギット子爵が収めていた領地はミムルの領主、ムロウ・ルードフ伯爵によって暫定統治される事となった。
だが、ここでおかしな噂が立つ。ルードフ伯爵が領地を広げるため、ギット子爵を殺して領地を奪ったというものである。そして、それを真に受けたのか、王宮から調査団が派遣されて来たのだった。
* * * *
ソフィが王都へ帰り、暇になったリューは特に予定もなくのんびり過ごしていた。
そんなある日の朝、リューのアパートに、騎士がやってくる。
用件は、ミムルの領主からの呼び出しである、直ちに出頭するようにと言う事であった。
特に用事があるわけでもないので、丁重に頼まれたのであれば応じたであろうリューであったが……
リューは相手の都合を考えずに、頭ごなしにすぐに来いと命令されるとヘソを曲げる癖がある。相手が偉そうな態度であるほど尚更である。
「今すぐにか?」
「そうだ」
「眠い……断る」
「領主様からの呼び出しだ、断るなど許されんぞ」
「一体何の用だ?」
「それは……」
「それは領主様から直接お話しされるだろう」
「こちらの都合はお構いなしか?」
「それは……仕方がなかろう! 領主の呼び出しだぞ?」
「断る」
「何?!」
「緊急の用でないなら、こちらにも予定を調整する猶予を与えるくらいの気遣いは必要なんじゃないのか? 平民なら予定を踏みにじっても構わんと領主は思っているのか?」
「き、緊急の用なんだよ!」
「本当か? 本当は用件が何か知らないんじゃないのか?」
「そ、そんな事は……」
「きさま、分かっているのか! 従わないというのなら、無理やりにでも連行していくぞ!」
「やってみるか? こちらも本気で抵抗させてもらう。怪我くらいで済めばいいがな。命を落とす事になっても恨むなよ?」
「う……」
騎士達にもリューの活躍の噂は届いていた。戦って負けるとは騎士たちも考えてはいなかったが、苦戦する事は間違いない。そこまで無理して連れて行くような厳命であっただろうか? 騎士達が逡巡しているうちにリューが言った。
「やる気がないなら出直して来るがいい」
「…………また来る」
「後悔するなよ?」
この場でリューとやり合うのは危険と判断した騎士達は、捨て台詞を残して引き下がっていった。
騎士達を追い返して二度寝を始めたリュー。
だが、昼頃、再び騎士達がやってきたのだった。今回は、警備隊の隊長、ゴランが一緒であった。
「まさか、領主の召喚を断るとはな。自由だな」
「まぁな、自由に生きるのがこの世界での俺の使命なんだよ」
「それじゃぁ、トラブルが起きて生きづらいだろう?」
「問題ない。全部ねじ伏せる」
やれやれとため息をつくゴラン。
「今回は緊急の用件なのだ、領主が困っておられる、どうか一緒に来てくれないか?」
「いいだろう、行こうか」
「えっ」という顔をする。
「頭ごなしに命令しないで、最初からそう言えばよかったんだよ」
「すまないな、騎士達には“丁重に”と命じてあったはずなんだが、上手く伝わっていなかったようだ。領主に変わって謝罪する」
「教育がなってないな……、って、つまり今日は領主の息子の立場で来たという事か」
「……知っていたのか」
驚いた顔をするゴラン。だが、リューは以前、神眼でゴランを鑑定した(心を読んだ)事があったので、ゴランの正体(=領主の息子)については大分前から知っていたのである。
「騎士達がリューを無理やり連行しようとしなくてよかった」
「していたら五体満足でここには来れてなかっただろうな」
ムッとした顔をしている騎士達であったが、何も言わなかった。
「領主はお前と敵対する気はないんだ、お手柔らかに頼むよ」
とりえあず、騎士達が用意した馬車にゴランと共に乗り込んで、領主の館に向かうリューであった。
* * * *
領主の館の謁見の間。
と言っても王宮のような立派なものではなく、大きめの応接室のようなものであったが。
大きなテーブルがあり、その向こう側にはまた大きな机があり、そこに領主が座っていた。
騎士達は室内に入ると扉の両脇に立つ。ゴランはリューと一緒に領主の前に進んだ。
「私が領主のムロウ・ルードフだ」
「リュージーンデス、初メマシテ」
頭を下げるリュー
「お前がリュージーンか、噂には度々聞いているが、会うのは初めてだな」
「ああ、ダメだ、最初に言っておくが、俺は敬語が使えない呪いに掛かっているので、言葉遣いに関しては気にしないでくれるとありがたい」
「……なんだと?!」
「呪い? 本当か? そんな呪いがあるのか?」
もちろん……
…リューの嘘である。
前世の記憶にあったラノベの一つにそんな設定の話があったのを思い出し、でまかせを言ったのだ。咄嗟の思いつきであったが、貴族の前だからと言って、敬語だ、礼儀だ、跪け、などと言われるのが面倒なリューにとってはなかなか良い設定だと思った。
「礼儀作法もまったく分からんので、無作法は許してもらえるとありがたい」
「そんな呪いが……なるほど、どうりで……」
リューの口からでまかせに、何故か、妙に納得した顔をしているゴランであった。
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次回予告
リューを捕らえに王宮から騎士団がやってくる
騎士団の運命は?!
乞うご期待!
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